思えば美波の前の学校の友人たちも、今頃受験に向かってそこそこ勉強しているだろう。その学校ではほとんどの生徒は付属大学へ進むのだが、一応は試験があり、あまりにも勉強していないとさすがに進学できない。

(今頃、千里ちさと美樹みきはどうしているんだろう?)

 ついかつての友人たちのことを思い出してしまう自分を美波は叱咤しったした。

(今はそれどころじゃない)

 美波は考えつつ言葉をもらす。

「そりゃ……、やっぱり進学はしたいし」

「じゃ、大学、女子大? 文系だよね。あんた、何が好きだった? 国語だったっけ?」

 一番好きなのは国語だが。そうなると文学部か。といっても深く極めたいと思うほど好きというわけでもない。

「そんな真剣な顔しなくても。まぁ、とりあえず親が行かせてくれるっていうんなら、行けばいいじゃん。あ、そろそろ教室行く?」

 まだ少し早いが初日である。二人は部屋を出て学舎へと向かった。


「ええ、では教科書を開いて。38ページからです」

 初老に入ろうかというシスターの授業はひどく解りづらかった。数学の公式を黒板に書いてなにやら説明するのだが、なにを言っているのかさっぱり理解できない。どうにか聞き取ろうとしてみるのだが、ぼそぼそと内分点と外分点について言っていることぐらいしか聞こえない。

 もともと美波は数学は苦手で前の学校でもついていくのが大変だったが、それにしてもこの授業はひど過ぎる。美波が理解できないのではなく、説明そのものが不明瞭なのだ。

 ふと周囲を見渡してみると、皆慣れているのか不満そうな顔もせず、かといって真面目に聞いているのかというとそうでもなく、ただ座って無言でいるというだけだった。そんな無関心そうな顔のなかに晃子を見つけた。斜め前の席に座っている晃子はノートを取るふりをしているが、シャープペンはなにやら違うものを書き込んでいる。そうして無意味な時間が過ぎていくのを美波はひたすら我慢した。

 その後の授業もおなじだった。英語も歴史も担当のシスターが変わっただけで、やる気がなさそうなのは教える側も学ぶ側も変わらない。

(こんな感じで、進学なんか出来るの?)

 美波は疑問に思えて仕方ない。三時間目の授業が終わったあと、こっそり晃子に訊いてみた。周囲の生徒はトイレに行ったり、廊下に出たり、教室の隅にかたまったりしているので、側に人はいない。

「ねぇ、ここの授業って、いつもこういう感じなの?」

「まあね」 

 晃子は、それが彼女の癖なのか苦笑いをする。

「この学院は、あんまり勉強に力を入れてないのよ。多分」

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