第二話 始まり 一

「ではレイチェル、今から二人に学院を案内してあげなさい。二人とも早くこの学院に慣れるように。それがご家族の願いであり、私の願いであり、神の願いです」

 はぁ……。そんな気のない返事をかえしていた二人に学院長の目が冷たく光る。

「いいですか、二人とも今までの汚れた自分を捨て、新しく生まれ変わるのです。この学院はそのための場所なのです」

 ぞわり、と美波は背が寒くなるのを感じた。

(まさにここは刑務所か、少年院ね)

 そんな皮肉な想いが胸に突きあげるをのおさえて、裕佳子にしたがって美波たちは学院長室を出た。


「ここで制服を支給します」

 つれて行かれたのは一階の端にある荷物置き場か倉庫のような場所だった。高所にちいさなガラス窓が屋根ちかくにあるだけでひどく空気が濁っている気がする。ホームセンターの棚のようにいくつも大きな棚がならんでおり、そこいっぱいに生徒たちが持ってきたバッグや私物が積み込まれていた。

「ここに、バッグの中身をすべて出してください」               壁際にある長方形のテーブルを指差し、裕佳子が命じる。

 同い歳の彼女に指示さるのが業腹ごうはらなのだろう。夕子の目は吊り上がりどおしだ。それでも彼女は荒々しい動作でバッグをテーブルのうえに置き、なかの物を取りだす。

「これは可。これは不可。……これは審議します」

 つまり、持っていていいものと駄目なもののをより分けているのだ。美波はハラハラしてきた。

 服にかんしては、下着類以外はすべて不可で預けなければならないという。許可された下着類も、後日学院指定の簡素なものを着用することになるのだと言われて目を剝いた。

 ブラシや櫛などはいいが、化粧品の類は不可。美波は化粧などしないが、それでも薬用リップぐらいは手元においておきたいが、それは審議のところに置かれた。ちらりと隣に立っている夕子に目をやると、今にも頭から煙が立ちのぼりそうだ。彼女の持っていた赤系のリップは不可のところに置かれている。

 スケジュール帳、筆記道具、ハンカチやティッシュはもちろん、夏が近いので携帯していた汗拭き用シート、日焼け止め、母親が無理やりもたせたヴィタミン剤、さらにはポーチを開けられ生理用ナプキンまで出されて調べられる。

 自分の持ち物をすべてを目の前でさらけだされ、他人に検分される。こんな目に合うことが人生でどれぐらいあるだろうか。刑務所に入る人はこういうばつの悪い時間を経験するのだろうか。美波は呆然となっていた。

(わたしたちも罪人ということ……?)

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