十
「特権?」 美波はきょとんとした顔になっていた。
「外出ができたり、消灯時間を過ぎても廊下を歩くこともゆるされます。また、ときにあなた方を指導するために罰をあたえることもあります」
「なによ、それ?」
夕子は驚いた顔になり、美波も顔がひきつるのを自覚しながら訊いた。
「ば、罰って、なんですか?」
「謹慎、奉仕作業、体罰などです」
事務的に答えるシスター・アグネスに、美波は呆れ顔になるのを止めれなかった。
「体罰って、あの、禁止されているんじゃ……」
たまに教師が生徒を殴るというようなニュースを聞くことがあるし、表沙汰にはならなくとも、まだよくあるとは聞いているが、現在では一応は禁止されているはずだ。
「我が学院では健在です」
ぴしゃりと言い切ったのは学院長である。
「断っておきますが、日本でよくある暴力的な行為ではなく、あくまでも学則にのっとっての合理的、かつ愛育的な体罰です」
は? とまた夕子の毒づくような声が聞こえそうだ。
「この点に関しては父兄の理解を得ており、学院案内の文書にも記載されているはずです。ご家族から聞いていませんか?」
学院長の問いに二人とも黙ってしまう。
「そ、それじゃ、なにかあったとき、あたしたちはこのレイチェルさんから罰を受けるってことですか?」
夕子がその細い目でレイチェルを見、つぎに学院長を見、確認するように訊くのに、いともあっさりと学院長はうなずき返した。
「そうです」
これには二人とも絶句していた。
イギリスの伝統的私立校(パブリックスクール)ではそういうこともあるとなにかで聞いたが、それも近年改革されてきているというのに、この学院では堂々と行われているという。
「平手で殴られるんです?」
「まさか」
夕子にやや嘲笑をふくんだ笑いを浮かべて、学院長は説明した。
「規律違反一回目は鞭で手をたたきます」
「鞭!」 夕子は叫んだ。美波も息を飲んだ。
「違反二回目はお尻をたたきます。三回目以降は別館の特別室で反省してもらいます」
「と、特別室?」 夕子がおうむ返しに言う。
まるで刑務所みたい、と美波は思ったが口には出さなかった。
それよりも気になるのは、裕佳子の表情だ。最初は
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