「特権?」 美波はきょとんとした顔になっていた。

「外出ができたり、消灯時間を過ぎても廊下を歩くこともゆるされます。また、ときにあなた方を指導するために罰をあたえることもあります」

「なによ、それ?」

 夕子は驚いた顔になり、美波も顔がひきつるのを自覚しながら訊いた。

「ば、罰って、なんですか?」

「謹慎、奉仕作業、体罰などです」

 事務的に答えるシスター・アグネスに、美波は呆れ顔になるのを止めれなかった。

「体罰って、あの、禁止されているんじゃ……」

 たまに教師が生徒を殴るというようなニュースを聞くことがあるし、表沙汰にはならなくとも、まだよくあるとは聞いているが、現在では一応は禁止されているはずだ。

「我が学院では健在です」

 ぴしゃりと言い切ったのは学院長である。

「断っておきますが、日本でよくある暴力的な行為ではなく、あくまでも学則にのっとっての合理的、かつ愛育的な体罰です」

 は? とまた夕子の毒づくような声が聞こえそうだ。

「この点に関しては父兄の理解を得ており、学院案内の文書にも記載されているはずです。ご家族から聞いていませんか?」

 学院長の問いに二人とも黙ってしまう。

「そ、それじゃ、なにかあったとき、あたしたちはこのレイチェルさんから罰を受けるってことですか?」

 夕子がその細い目でレイチェルを見、つぎに学院長を見、確認するように訊くのに、いともあっさりと学院長はうなずき返した。

「そうです」

これには二人とも絶句していた。

 イギリスの伝統的私立校(パブリックスクール)ではそういうこともあるとなにかで聞いたが、それも近年改革されてきているというのに、この学院では堂々と行われているという。

「平手で殴られるんです?」

「まさか」

 夕子にやや嘲笑をふくんだ笑いを浮かべて、学院長は説明した。

「規律違反一回目は鞭で手をたたきます」

「鞭!」 夕子は叫んだ。美波も息を飲んだ。

「違反二回目はお尻をたたきます。三回目以降は別館の特別室で反省してもらいます」

「と、特別室?」 夕子がおうむ返しに言う。

 まるで刑務所みたい、と美波は思ったが口には出さなかった。

 それよりも気になるのは、裕佳子の表情だ。最初は野暮やぼったくも真面目そうで、それほど悪い人にも思えなかったのだが、したり顔で学院長の話を聞いている今の彼女には、なんとなくいやなものを感じる。

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