そう問う夕子の顔は微妙だ。自分たちもまたこの服を着るのだということに気づいて、ますます不快そうに曇ってきている。

「そうです」

「あたしは、いいから。あの、制服って選べないんですか? まえの学校では、制服は着たい人のみで、私服もOKだったんですけど」

「そんな学校があるの?」 

 素朴な裕佳子の問いに夕子は言いはなった。

「あるわよ」

 夕子の言い方がきつく聞こえたせいか、裕佳子は憮然とした表情になった。

「あなた、出身はどこ?」 

 裕佳子の問いに、今度は夕子が憮然と答える。

「横浜よ。レイチェルさんは?」

 レイチェルさん、という言葉がまた冷たくひびく。内心、美波は心配になってきた。来た早々、なにもそんな態度取らなくても、と。

「岡山よ」

「ふうん」 

 夕子の口調にはあきらかに侮蔑がこもっている。これはいけない。美波はあわてて割り込んだ。

「わたしは東京出身なんです。よろしくね」

 せいいっぱい愛想よく言ってみたつもりだが、向けられた裕佳子の目線は美波にまでも冷たい。

「よろしく。あの、言っておきますが、私はジュニア・シスターなんで、私に話しかけるときは敬語をつかってもらえます?」

「え、緒方さん、というかレイチェルさんは、上級生?」

「二年です」

「それじゃ、いっしょじゃん」

 奇妙そうに夕子は言う。美波はなにも言わないでいた。ジュニア・シスターという聞き慣れない言葉が気になる。

「でも、私はジュニア・シスターなんで、あなた方は私に対して敬意を持つようになっているんです」

「は?」

 ひどく毒のある態度で夕子は裕佳子を見、つぎに側にいるシスター・アグネスを見た。

「説明しましょう。ジュニア・シスターというのは、シスターであり教師でもある私たちがいないときに一般生徒の面倒をみたり、指導したり、助言したりする特別な、選ばれた生徒のことです」

 〝選ばれた〟という言葉をシスター・アグネスが口にした瞬間、裕佳子の顔になんともいえない優越感がにじんだのが見えた。それがまた夕子の癪にさっわったようで、夕子はますます不快げな顔になる。

「つまり、学級委員とか、生徒会の役員みたいなものですか?」

 確認するように問う美波にシスター・アグネスがうなずいた。

「まぁ、そういうものですが、我が学院では彼女たちはさらに重要な役割をになっています。あなた方の見本となり、あなた方を善導する使命をこなすのです。そのためにいくつかの特権を持っております」

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