そんなふうに思ってしまうのは、壁がかなり高いせいだろう。なかの様子がまったく見えず、またなかからも外の様子が見えないというのが、どうにも隔離された世界を思わせて、美波を落ち着かない気分にさせるのだ。それは夕子も同じのようだ。

「修道院っていうより、ホラー映画に出てくる化け物屋敷みたい」

 壁を見上げながら夕子が呟く。そちらの方が当たっている気がする。

 やがてたどり着いた鉄柵のまえに二人は並んで立った。海外のドラマか映画で奇妙なお屋敷をおとずれたヒロインの気分だ。

「ああ、まずったなぁ……。全寮制の女子高っていうから『クララ学院物語』みたいなの想像していたけど、これじゃ『サスペリア』じゃん」

「クララ学院?」

「知らないの? 女の子たちの寮生活を書いた外国の本」

 意外にも夕子は博識である。美波はふうん……と、そっけなく返した。

「『サスペリア』っていうのは、」

 説明しようとする夕子の言葉をさえぎって美波は言っていた。

「ホラー映画でしょう」

 それは深夜放送で見たことがある。たしか外国の女子寮で女の子たちが殺されるというありがちな設定のホラー映画だ。いや、ありがちなのではなく、その映画が元祖だったのかもしれない。

 そんなことを言っているうちに、門が見えてきた。

 門のそばには守衛らしきグレーの制服すがたの男が二人立っており、鉄柵の向こうに案内所のようなちいさな建物が見える。外からは門は開けられないようで、夕子が声をあげた。

「あのー、すいません!」

「転入生かい?」

 長身の守衛はあらかじめ聞いていたらしく、名簿らしき紙を見ながらたずねてきた。制服の帽子のせいで顔はよく見えないが、声は意外と若々しい。

「近藤美波さんと、小瀬夕子さん?」

「はい、そうです」

 二人はほとんど同時にこたえていた。 

「もうひとり西城さんという人は?」

 守衛の問いに二人とも首をかしげた。バスには自分たち以外それらしき少女はいなかったはずだ。

「遅刻かな……。ま、いい。じゃ、ここにサインして、なかへどうぞ」

 言われるままにサインし、美波と夕子は門内へとすすむ。

「へー、なんかすごい」

 石畳をすすんでいくと、今朝がたの雨に濡れたせいか緑の芝生が艶やかに光りかがやき、眩しいほどだ。あちこちにベンチがあり、遠くに噴水も見える。

「すっごい、豪華。なんか、本当に外国の貴族のお屋敷みたいじゃん」

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