美波もうなずいた。大学ならともかく、高校でこれほど広々と凝ったつくりの中庭を所有しているのは珍しい。こんな田舎にここまで立派な施設があるだけでも感心せざるを得ない。 

「あれ、あの人、先生じゃない?」

 ちょうど一本径の果て、建物のすぐまえに黒いシスターの装いをした女性が見える。

「ようこそ、ミス・コンドウ、ミス・オゼ」

 声はやや甲高い。そういう呼ばれ方をするとは思っておらず、美波はつい夕子と目を見交わしていた。日本人ではないのだろうか。

 よく見ると、髪は黒い僧服の下で見えないが、眉は茶色っぽく見え、瞳ははしばみ色だ。背は高く、美波よりも頭ひとつぶん上か。色は透けるように白く、鼻筋もすっきりとしている。

「私はシスター・アグネス」

 やはり外国人なのか、もしくはハーフか。美波は軽く頭を下げながら推察していた。

「どうぞよろしく」

 美波は差しだされた相手の手をあわててにぎる。つづけて夕子がその手をにぎる。

「あのー、日本人ですか?」

 これまた率直に訊く夕子にシスター・アグネスは微笑んだ。

 笑うと、人形に血が通ってきたかのようだ。

「祖父がアメリカ人です。ですからクォーターですね」

「あ、やっぱり。アグネスって、本名ですか? もしかして洗礼名とか?」

「本名ですよ。さ、おしゃべりは後にして、まずは学院長にご挨拶に行きましょうか。あと……ミス・サイジョウは?」

「あの、よくわからないですけれど、同じバスにはいなかったです」

 美波の言葉にアグネスは茶色の眉をしかめた。

「遅刻ですね。初日だというのに。これだから……」

 なにか言おうとしてアグネスはそこでやめた。一瞬、血の通っていることが知れた頬は、また青いほどに白くなる。かすかな変貌だが、美波は奇妙なものを感じた。

「さ、行きましょう」

 扉を開けると、アグネスは二人を建物のなかへと導く。

「へー」

 一歩、屋内に足を踏みいれた夕子は感嘆の声をあげ、美波も内部を見て目を見張った。

「珍しいでしょう? この建物はロマネスク様式と呼ばれる建築方式で造られているのです。ゴシック様式は日本でも多いらしいですが、ロマネスク様式というのはあまりないと聞いています」

「はい……。初めて見た気がします」

 と言いつつも、美波は今ひとつこの建物が好きになれないな、と思っていた。

 全体に石づくりで、ひどく重々しい印象を受けるのだ。床はワックスを塗ってあるのか小豆あずき色につや光りして清潔そうだが、やはりどこか重苦しい。

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