率直な問いに美波は苦笑せずにいられない。たしかに美波の着ているブラウスもスカートも靴も、持っているバッグも、少女向けのかなり高級なブランド品ばかりだ。とはいっても美波の趣味というより母親の好みなのだ。母は、高校生であっても自分の娘が安物を持つのが嫌なのだ。嫌、というより、ゆるせないのだろう。 「たいしてお金持ちってわけじゃないけれど。……で、あんた、名前は?」

 相手の口調にあわせて美波もくだけた言葉づかいをしてみた。

「あたし? 小瀬おぜ夕子ゆうこ。趣味は音楽鑑賞。好きなスポーツはバレー。得意科目は英語」

「へえ」

 こんどは美波が目をぱちくりさせた。得意科目が英語とは意外だ。いや、彼女に得意な科目があるということ自体が――失礼ながら、意外に思えたのだ。あまり勉強好きというタイプには見えない。

「どんな音楽聞くの?」

「ロック。今一番好きなのはスロウダイブ」

 興味のない美波にはわからず、作り笑いで流して自己紹介した。

「わたし、近藤美波。趣味は読書。好きなスポーツはなし。得意科目は英語と国語かな。血液型はA型。星座は牡羊座」

 相手より詳しく述べてやった。

「あたしはО型で獅子座。あんたと同じ高二。ねぇ、あんたは何したの?」

 さすがにこの質問には美波は鼻白んだ。

「な、なにって?」

「えー、だって、この時期に転入ってことは、なんか問題があったからでしょう?」

「ないわよ、べつに」

 ちくりと、まち針を胸に突き付けらたような痛みに気づかないふりをして、美波は校門をさがしてみる。

「ほら、あっちよ、行こう」

 象牙色の壁に沿って歩くにつれて、壁に蔦が増えてくるのが目に入る。

「なんか……外国の建物みたい」

 夕子がぽつりと言うのに美波も同意した。象牙色の壁を這う緑のつた。まるでこの学院をつつみこむ天然のカーテンのようで、見ているとふしぎな心持ちになっていく。

「なんか、すごい、この蔦……」

 夕子がまた感心したように呟く。

 バス停からはそれほど見えなかったが、正門近くになるとかなり凄かった。見ているだけでその茂りように圧倒されそうだ。

「海外の修道院みたいね」

 美波も言ってみた。人によっては異国情緒あふれて面白いと思うかもしれないが、美波はだんだん嫌な予感がしてきた。外から眺めているだけならまだしも、自分たちはこの蔦のなかに入って行くのかと思うと、奇妙な胸さわぎがしてくるのだ。

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