笹の船

ある☆ふぁるど

第1話

 小学校の帰り道に、よく友達と笹の船を作りました。通学路の脇に小川があって、笹はそこにいくらでも生えていたのです。のどかな田園風景の中に、ポツリと建っている小学校。全校合わせても、二百名前後しか生徒がいない小さな学校でした。そこに、私たちは通っていたのです。

 通学路の脇の小川は、いつものんびりと緩やかに流れ、私達はそれぞれ自分の作った笹船を、そこに流しました。そして、競争です。水面まで突き出た岩や、水中から生えた植物などの障害物が、レースを盛り上げていました。最終的に、小川と道の分かれ目のところで勝者は決定します。そこから川は、少し大きなもうひとつの川と合流し、私たちの帰り道とは反対の方へと流れていくのです。笹の船もまた、流れに乗って遠くの方へと運ばれていきます。私たちは、ゆっくりと流れていく船を見送り、そして、帰路についたのでした。


 船は、独りになってからも、ずっと流れ続けていました。船には、自分がどこへ向かっているのかすらもわかりません。ただ水の流れに任せて、ゆっくりゆっくりと水面を漂っていました。


 青空を見上げて、船はぼんやりと考えました。

 ――僕は一体、何処へ行くんだろう?

 誰もその疑問に応えてはくれません。

 ただサラサラと流れ続ける川の水音だけが、何かを語りかけているような気がしましたが、船には彼らが何を言っているのかわかりませんでした。


 空を見ていると、白い雲がゆっくりと彼の視界を横切っていきます。川はまだ細く、狭く、川岸の方に視線を移すと、景色がめまぐるしく動いていくのがわかりました。前方、はるか遠くに見えていたはずの大きな岩が、すぐに近づいてきて、彼の後方へと去っていきました。水の流れが少しずつ、速くなっていました。水音が急に大きくなりました。視界が真っ白になり、突然の浮遊感。彼は空中に投げ出されました。一瞬の出来事。彼はいったん水底に沈んだものの、すぐに浮かび上がりました。彼の後方に、小さな滝がありました。


 ――・・・僕は今、自由だ。

 それは、彼の中から突然生まれた解放感でした。彼を今まで閉じ込めていた何かがすべて消え去って、今、彼は何もかもから解き放たれていました。彼は限りなく、満足でした。


 ――先に何があろうと構うものか!

 青空を大きな鳥が横切っていきます。

 ――僕は今、自由なんだ! 

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