少女中毒
嘉代 椛
墓守
「や、止めてくれ…。俺は何もやってねぇんぢょぉ」
泣きわめく男の頭にナイフを振りおろす。頭蓋の硬い感触と豆腐のような脳の柔らかさ。噴出する血が体につかないように死体を横たえてからナイフを引き抜いた。だらしなく舌を出し、目を開けたまま絶命した男を見る。
「そうか、俺は今殺した」
部屋の中には二人の人間の死体があった。一人は男のものだ。俺が今殺した男だ。身長173cm、体重78kg、性別男、好きな食べ物は肉。どうしようもない屑だった。世間一般として見られれば立派な人間かもしれないが、俺から見ればやはりどうしようもない屑だった。
もう一つは少女だ。少女の死体だ。だらしなくベッドに横たえられた少女の死体。それはホルマリンでコーティングされしっかりと防腐処理が施されている。痛々しい姿だ。俺は少女の死体に手を触れた。ぷにぷにとした質感の肌は石のように冷たい。首にできた一文字は、少女がどのように殺されたのかを教えてくれた。
この町は終わっている。
「そうだ、俺は終わっている」
この町で児童誘拐が当たり前になってどれほど経ったのか。町の至る所にショットガンを持つ警官が立つようになってからは?町を出歩く人間がアルコールとクスリのやりすぎでおかしくなったのは?俺もすっかり変わってしまった。変わってしまったというよりも、目が覚めたというべきか。
「墓場に行こう」
俺はそこで眠ることはできないが、そしてこの町も。まずは少女を眠らせなければならない。無垢かどうかは知らないが少女にはその権利がある。
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少女の死体を抱えて町を歩いていると裕福そうな男が近寄ってくる。彼らは死体愛好家。死体を舐め、噛みつき、そして挿入する。人間のなかでも一等下種な存在だ。俺は彼らが押し付けてくる金を一枚ずつ受け取って、墓場に向かう。彼らは口々にわめきながら俺の後を追ってくる。死体に群がるネズミのように、少女の死体に肥大化した一物を入れたくて仕方がないのだ。
墓場についた。ここは親父が所有していた財産で今は俺のものになっている。ここには被害者になった少女が多く眠っており、抱えた死体もその仲間入りをする予定だった。墓場につくと男たちはシャベルを掴んで墓を掘り返し始めた。口からはだらしなくよだれをこぼし、腰は小刻みに動いている。我慢できなくなった男の一人が俺の手から少女を奪い取ろうと襲い掛かる。俺はナイフを突き立てて男を殺した。
「人殺しだぁ!助けてくれぇ!」
彼らは口々に叫んだ。視線は俺とナイフと少女の死体の間でさまよっている。俺は次々に彼らを殺していったが、残った一人が突然走り出した。男は死んだ少女の尻に顔をうずめて地面に向けて猛烈に腰を打ち付け始める。俺は彼の背中にナイフを突き立てて、ゆっくりと引き抜いた。
「…神よ」
吐き気のする光景を見ても心は一切揺るがなかった。以前の習慣で咄嗟に神への祈りを口走ったが、神なんていないということは分かり切っていた。俺は少女の死体を丁寧に埋葬し、男たちの死体にはガソリンをかけて火をつけた。
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その日も一睡もできなかった。墓場の中央に設置された監視小屋で体を起こす。周囲では少女たちの死体を求めて男どもが徘徊していたが、彼らにそんなことをできる体力があるとは思わなかった。アルコールとクスリはいい。それらは快楽を伴って屑どもを殺してくれる。それが俺を殺しに来ないのは、単純に俺がその二つをやらないというそれだけの理由だった。
食事はただの缶詰だった。何が入っているかは知らないが、肉と豆の缶詰だ。味はない。正直どうでもよかった。墓場から出た俺は町の外に建てられた工場へ向かった。工場は俺の仕事場で、鞄を作るための皮をなめす工場だった。
「今日から新しい商品を作るようになった」
仕事場で作業をしていると工場長がそう言った。彼は奥から大量の皮を持ってきてそれをなめすようにと俺たちに言った。全員の手にそれがいきわたり、俺はその皮が何のものなのかに気づいた。それは少女の皮だった。細かい毛穴に独特の柔らかな感触。俺は工場長に、これはなんの皮なのか聞いた。
「ああ、少年の皮だ。特注品でな、急いで作ってほしいらしい」
嘘だ。少年の皮がこれほどきめ細かいわけがない。俺は工場長を殺した。仕事にとりかかっていた同僚もすべて殺した。俺はすべての少女の皮を回収して、墓場へと帰った。すべての皮を埋め終わるころには日はすっかり暮れてしまっていた。
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ある日、一人の老婆が赤ん坊を連れてやってきた。腕に抱かれた赤ん坊はすでに死んでしまっていて、老婆は赤ん坊を埋葬してほしいと頼んだ。
「構わない」
俺はその頼みを了承して老婆に小屋で休んでいるように伝えた。まずシャベルで穴を堀り、次に赤ん坊を包むタオルを剥がした。赤ん坊の股座には穴ではなく棒が存在している。俺は煮えくり返るような怒りが腹から湧いてくるのを感じた。
「ここは俺の墓場だぞ!こんな薄汚い赤ん坊なんぞ埋められるか!!」
俺は老婆を殺した。
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「こんにちわ」
小屋に少女が現れた。生きている。俺は驚きから小屋の中でひっくり返った。死んでいる少女を見るのに慣れていても、生きているのを見るのはずいぶんと久しぶりだった。
「ここって少女専用の墓地なんですよね?私も埋めてもらえませんか?」
俺はその提案をすぐに承諾した。ここに少女を埋めることに、何の抵抗もない。むしろここ以外に少女を埋めることが俺にとっては許しがたいことだった。それ以外に許しがたいことといえば、少女を手にかけることくらいだ。ああ、あと少女の死体をもてあそぶものも許せない。それらは何においても許しがたいことだった。
「ああ、よかった。それじゃお願いします」
少女はそういうと俺のナイフを奪って胸に突き立てようとした。俺は慌ててそれを止めたが、少女は不思議そうに首を傾げた。
「どうして止めるんですか?私、明日14歳になるんです。14歳になったら少女じゃなくなってしまうでしょ?だから今埋めてほしいんです。今死ななきゃだめなんです」
少女はまたナイフを突き刺そうとした。俺は必死にそれを止めようとしたが、勢い余って二人して転んでしまった。起き上がると少女はナイフが刺さって死んでいた。俺が殺してしまった。
俺は二つ穴を掘った。その一つに少女を埋めて。自分はもう一つの穴の中に入った。そして勢いよく自分の胸にナイフを突き立てた。
初めてむさぼった少女の味はこの上なく極上だった。
少女中毒 嘉代 椛 @aigis107
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