第24話『水島クンのアドベンチャー・3』

トモコパラドクス・24 

『水島クンのアドベンチャー・3』      



 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。だがしかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された!




「いいえ、あれは宇宙戦艦キイ。ヤマトの拡大発展系……昭二クンが乗っている」


 ここが海なら、キイは沈没寸前の姿であった……。


 キイは、コントロールを失って不自然に傾いだまま、こちらを向いた。

「なるほど、ヤマトより大型ね。兵装も違うわ」

 紀香が呟いた。ヤマトと違いショックカノン砲が連装五十サンチに強化され、パルスレーザー砲も長射程に変わっていた。しかし、そのほとんどが破壊され、伝家の宝刀である破動砲も。双発の戦闘艇が突っこんで、栓ををしてしまっている。エネルギー反応は、昭二の微弱な霊体反応だけであった。


「水島クン、まだ生きてる!」


 友子は、感動のあまり矛盾した感動を口にした。


「ハハ、もともと幽霊だもん」

 マネが、余裕の笑みで答えた。

「でも、霊波動とかあるでしょ」

「それが、あの帝国軍の弱点。やつらは、その宗教概念から、霊の存在を認めないの。だから、わたしたちのように水島クンのことは、奴らには分からない」

「それで、どうしようと言うの? もう、味方は、この船だけなんでしょ」

「船だなんて、普通名詞で呼ばないで。この艦は宇宙戦艦オワリよ」

「気持ちは分かるけど、あんまりオメデタイ名前じゃないわね」

「この食い違う会話って、いいわね。わたし好きよ。地球人の、そういうとこ」


 マネの笑みが楽しげに変わった。


「オワリは、漢字では尾張。旧日本海軍の戦艦大和の後継艦として、概念設計までされた艦よ。ちなみにあのキイは紀伊。でも、今はまさにキイよ。この戦闘の」

「どういうこと?」

「キイの自爆装置が生きている。そのスイッチを水島クンに押してもらう」

「そんなことしたら、この船まで吹き飛んでしまうわよ」

「だいいち、敵艦隊は、ここから四百万キロも先なのよ!」

「そこで、二人の力を借りたいの……」


 マネは、左右の手で紀香と友子の胸に触れた。並の状況なら女同士でもセクハラだが、敵のスパイレーダーにかからないように、アナログな手段で、ロック付きで情報を送ってきたのだ。


――いくわよ!――


 マネの、ダイレクトサインで、三人の念動力(サイコキネシス)は、一つの力となって、キイに送られた。キイの姿が消えた……実際は、時速一光年の速度で、敵艦隊のど真ん中に突っこみ、惑星一つを吹き飛ばすほどの力で爆発した。


 結果は、海王星の陰から出たときに分かった。オワリのレーダーから敵艦隊の姿は消えていた。


「これで、よかった?」

 水島クンが、見慣れた旧制中学の姿で立っていた。

「水島クン、いつの間に!?」

「幽霊は残留思念だからね。だれかが思い出してくれたら、物理的な距離なんか関係ない」

「そうなんだ……」

 友子は、改めて感心した。

「でも、合図をしないことが合図とは考えたね」

 水島クンは、感心して言った。

「どういうこと?」

 紀香が、好奇心一杯に聞いてきた。

「海王星にくるまでにね、水島クンに伝えておいたの。三パターンのシチュエーションを」

「最悪のシチュエーションでしたけどね」

「でも、アナログな幽霊さんが、そんなデジタルなことできるんですか?」

「義体を与えてあげたの。むろん戦闘で機能の九十九%は失われたけど、自爆装置とのシンクロは最後まで失われなかった。で、予定通りってわけ」


 水島クンが、寂しそうな顔で、思い出に耽っている。


「あの義体、よかったなあ……やっぱ、生きてる体はいいですよ。それにハンサムだったし。女性乗組員からもモテましたよ……もう一回、義体になれませんか?」

「そうねえ……」


「「かっわいい!」」


 紀香と友子の黄色い声が揃った。

「予備の義体はこれしか、残ってないからね……」

 水島クンは、なんと女の子の義体をあてがわれた。艦内アテンダントの汎用義体だ。

「こ、これが、僕ですか……!?」

 フェミニンボブにミニのワンピになった水島クンが驚いた。

「これで我慢して。アテンダントだから、この二人のようなスペックはないわよ。空も飛べないし、骨格もただの強化チタン合金。スペシウム光線も、小型破動砲もなし。まあ、並の人間より、ちょいましってとこ。言語サーキットは女性に。居住環境は、サービスで設定。身元は……トモちゃんのクラスメートってことで。わたしじゃ面倒見切れないから」


 マネが指を鳴らすと設定は完了した。ミニのワンピは乃木坂学院の制服に、髪は黒のお下げに変わった。


「わたし……清水結衣」


 清水君の新しい人生が始まってしまった……。



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