第15話 <emem>

トモコパラドクス・15

<emem>    



「いやあ、すいません。九州で事故っちゃって。とりあえず、あたしたちだけでも間に合わせました」


 小野寺潤のスガタカタチでディレクターにあいさつした紀香であった。

「スタッフの人たちは、事故処理で、まだ宮崎です」

 矢頭萌に化けた友子もかました。

「もう時間が押してるんだ、とにかく衣装つけてメイク。済んだら、すぐに舞台ソデ!」

 ディレクターと入れ違いに、総監督の服部八重がやってきた。

「心配したよ~!」

 まずは、半泣きの顔で二人をハグした。そして、すぐに総監督の顔に戻り、指示をした。

「最初の十分はMCで持たしとくから、曲には遅れないでね。ヨロシク!!」

 まなじりあげて、意気揚々と楽屋を出て行った。仲間への愛情、プロ根性がバランス良く同居している。さすがはAKRの総監督ではある。

 感心している間もあらばこそ、衣装さんが魔法のように二人を裸にして衣装をつけさせる。これに一分。

 すかさずメイクさんとヘアーメイクさんが取り付いた。普段なら、潤も萌もほとんど自分でやる。紀香と友子にも同じスキルがあるが、それではとても間に合わず。急いでプロがでっち上げる。これに五分、そして、六分三十秒後には舞台に立っていた。


「すみませーん、ちょっと衣装破けちゃって、直してました~」

「ちょっと、最近食べ過ぎなのよ。サイズ合わなくなってきたんでしょ」

「そんなことありませ~ん。その証拠に体重計持ってきましたあ」

 萌(友子)が楽屋にあった、体重計を舞台に置いた。

「ちょっと潤、乗ってみそ」

「はいはい……先週と同じ○○キロで~す」

 ピースサインの潤。

「ちょっと、壊れてんじゃないの」

「じゃ、ヤエさん、乗ってみ」

「いいよ」

 ヤエが乗ると、なんと体重計は八十キロを指した。

「ええ、ウソでしょ!」

 観客席に笑いが満ちる。ヤエが乗ると同時に、潤と萌が、片脚を乗せて踏ん張っている。気づいていないのはヤエ一人。やがてそれに気づいて追っかけになるというアドリブをかまして、曲に入った。



《出撃 レイブン少女隊!》 


 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!



 無事に最初の曲の一番を終わると、あとは、スムーズに流れた。

「ねえ、みんな今日の萌ちゃん、すごいよ。この子が歌もフリもノーミスでやったのはじめてだよ。これは記念になにかやらなきゃね」

 ヤエが、さっきの復讐に企み始めた。

「みんなで、萌を胴上げしよう!」

 あっと言う間に、みんなに胴上げされてしまった。

「イヤー、おパンツ見えちゃうよ!」

 そう叫びながら、萌は本物の萌が瀕死の重傷で意識が戻ったことに気づいた。


――やばいよ、紀香。二人宮崎で事故って、瀕死の重傷。まだ発見されてない―― 

――今すぐ行こう!――


「じゃ、あたしたちオフなんで、これでお疲れ様で~す」

「なによ、カラオケ付き合うっていったじゃんよ!」

「悪い、また今度ね~」

 二人は屋上に上ると、ステンレスのダクトカバーを外して、ロケット状に加工して、屋上を飛び立った。マッハ2・5のスピードで事故現場に着いた。


 現場は空港に近道する林道の中だった。


 潤と萌とスタッフの三人は、林道から落ちて谷川でデングリガエシになった四駆の中にいた。三人ともあちこちを骨折し重症で、萌だけが意識があった。

 二人は天使の姿に擬態して、三人の怪我をチェックした。

「……天使さん?」

 苦しい息の下から、萌が声をかけた。

「そう、わたしがミカエル。あっちのヒネたのがガブリエル」

――友子、治せそう?――

――全員体のあちこち骨折。今からナノリペアー注入。萌ちゃんは、肋骨が折れて肺に刺さってる。しゃべらせないで――

 友子は、ハンドパワーで、萌の肋骨を元に戻し、そこいらへんの車のパーツで、ギブスを作り、三人にあてがった。

――どうする、今から救急車呼ぶ?――

――だめだよ、ライブにも出ちゃったし、こんな治療もしちゃったし――


 仕方なく、二人は車をソロリともとにもどし、ボディーを加工して空の低温や、空気摩擦に絶えられるようにした。

「いくよ」

「うん」

 怪我人を後部座席に固定して、元四駆の車を空中に浮揚させると、亜音速で東京を目指した。

 当然、自衛隊やら米軍やら空港などのレーダーに映り、自衛隊にはスクランブルまでかけられた。仕方なく海面スレスレまで降りてレーダーをかわした。しかし、その分人目に触れて、あちこちで写真に撮られてしまった。

 ようやく相模湾上空でステルス化に成功。三人をそれぞれのマンションやら、アパートに運んだ。


「へえ、太平洋側のあちこちでUFO出現……それにしても妙なカタチだな。ねえ、姉さん」

 妻の春奈がいないので、一郎は新聞を見ながら、外見だけ十五歳の姉に声をかけた。

「UFOはね、焼きそばもピンクレディーも苦労したらしいわよ……」

「なんだか、めずらしくくたびれてるね?」

「うん、明日から中間テストだからね……」

 そうごまかして、友子は、再び自分の部屋に戻った。


 このあたりが限界なのか、力の配分なのか、友子は自分の取説が欲しいと思った……。



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