第6話 『友子のスペック』
トモコパラドクス・6
『友子のスペック』
紀香から、とんでもないことを聞いた……。
「トモちゃんの娘が、アジア極東戦争を引き起こすの」
「え、ええ?」
「五十年後の未来。トモちゃんの娘は、アジア極東戦争で極東方面のリ-ダーになって戦い、最終的には極東地域の指導者になる。それをこころよく思わない人たちが、三十年前に大挙タイムリープして、首都高で国防軍のケインと共にトモちゃんを消そうとした。トモちゃんを消せば、娘は生まれてこないものね」
「ちょ、ちょっと待って。それなら、その子の父親を殺しても同じじゃないの」
「その子の父親は分からないの」
「え、わたしって、そんなふしだらな……」
「ううん、情報が欠落してるの。はっきりしてるのは、トモちゃんが母親だってこと。また、スーパーコンピューターのナユタで計算したらね、父親がだれでも、その子は生まれるの」
「そんな、父親が変われば、当然生まれてくる子も違うでしょ?」
「それが、トモちゃんの遺伝子は強力で、父親が変わっても、生まれてくる女の子は、ほとんど同じなの。トモちゃんの遺伝形質を八十パーセント以上受け継いで、同じ行動をとるの」
「でも……アハハハ、紀香さん、わたしって義体だから子供なんてできないでしょ?」
「それが、できるの」
「え…………!?」
友子は、思わずズッコケて、椅子からずり落ちそうになった。
「トモちゃんの義体は、義体と生命テクノロジーの結晶なの。あなたには生殖能力があるのよ……」
「うそ!?」
紀香は、じっと友子の下腹を見つめた。
「そ、そんなマジマジ見ないでくださいよ。なんだか恥ずかしい(#^0^#)」
「トモちゃんの遺伝子情報は、トモちゃんが三十年前に息を引き取る前にCPUに取り込んである。それに合わせて生体組織ができてるから、そういうことも可能なの」
友子は、思わず自分の下腹に手を当てて、頬を染めた。
「で、わたしの時代では、トモちゃんの娘は生まれてるんだけどね……」
「え、生まれてるの? いやだ、どうしよう。で、どんな子なんですか?」
「それは言えないわ。ただ、そんな世界的な指導者になる兆候は、まるでなし。アジアの情勢も落ち着いてるしね。ナユタで演算しても、可能性は限りなくゼロ!」
「じゃ、なんでわたしは……」
「そりゃ、国家的な事業計画だもの。義体産業やら生命工学産業のメンツや利権が絡んでるから、今さら中止はできないの」
「地球温暖化と同じ……」
「そう、アジアで将来危機的な国際環境になるって、アンケートに選択肢は三つだけ。『ある』『ない』『どちらとも言えない』があって、『どちらとも言えない』は『ある』に集計されてるの。まったく温暖化のアンケートといっしょ。で、予算執行上止められない計画だから、一応カタキ役として、この白井紀香が派遣されてるって分け……どうかした?」
「なんだか、虚しくなってきた……」
「まあ、一兆円もかけたプロジェクトだから、簡単に中止にはならないでしょ。それまで、どうなるか分からないけど、お互い仲良くやりましょう。はい、ここにサイン」
「え……?」
「入部届!」
友子は、しぶしぶ入部届にサインした。
「それから、トモちゃんの筋力は十万馬力。多分空も飛べる」
「鉄腕アトムか……」
「あとのスペック、目力は強力」
「おとこ殺し?」
「スペシウム光線出るからね。両手首からはジュニア波動砲、発射の時は手首が百八十度曲がって発射されるから、手首の皮に切れ込みが入って、しばらくはリストカットしたような跡がつくけど、ナノリペアーが三十分ほどで修復してくれる。あとは、わたしにも分からないブラックボックスがいくつか。まあ、自分で、少しずつ覚えることね。はい、ちょうだい」
入部届をふんだくると、紀香は保護者欄のところにサラサラと母親の春奈そっくりの筆跡でサイン。ハーっと親指に息を吹きかけると、書類に捺印。拇印かと思ったら、きれいに『鈴木』の三文判の跡。
「すごい、手品みたい!」
「一応これでも、トモちゃんのカタキ役。この書類今日中に出したら、目出度く部員三人で、同好会から正規のクラブになれるの。じゃ、連休明けからよろしく!」
同窓会館を出ると、街はとっくに黄昏時。
乃木坂を、ため息つきながら駅へ向かっていくと、紀香が電柱の陰から出てきた。
「え、どこから?」
「わたしだって、義体よ。これくらいは夕飯前」
「プ、朝飯前じゃないの?」
「だって、夕飯前の時間でしょ。ちょっと待っててね」
紀香は、道を渡って、タイ焼き屋に向かった。
「はい、入部祝い!」
小倉あんのタイ焼きをくれた。ふと紙袋に目がいった。
「閉店特価……あのお店、閉店なんだ」
「うん、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』からの名物だったんだけどね……」
「そうだよね、理事長先生が、まどかたちのためにたくさん買ってきてくれたんだよね」
「そう、演劇部再出発の日にね。ヘヘ、ゲン担ぎ」
「おいしい……」
「それから、連休明けたら、いちおう先輩だから。言葉遣い、気を付けて!」
「はい!」
乃木坂に幼なじみが戯れるような影が二つ伸びていった……。
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