3055 ナナメの気持ち
領主が去ったあと、千月はこの広くて静かな庭園に、独りで散歩している。
光害がない今、満天の星空がより綺麗に映るようになった。
月が一つしかない地球では、その月はまるで自分の存在を強調しているように、強くて美しい光は放った。
「ねえいーちゃん、これで本当に、いいのかな…?」
『うん?どうした?』
「戦争の平定って、私らしくありません…、どうしてそんなことを言い出すのでしょうか、私…」
『今更どうしたんだ?怖じ気付いたか?』
「…うん、ちょっと怖くなって来ました、怖いのは戦争自体ではなく、どうして私はこんなことをするのかなって…、どうして私の考えたことはこうも上手く進んているのかなって…」
『あん?どういう意味だ?』
「最初からおかしいと思いました、澎湖から今まで、何もかも順調過ぎます、まるで神様は私達を導いているような…」
『…まさかおまえ、今までのやることは全部、深く考えていないのか?今まではいつも綿密な計画を練り、それを元に行動しているじゃないか?』
「確かに思い付いたことはいっぱいあります、その時はそうすれば多分いけるかもって、しかし何もかも上手過ぎます、何もかも思い通りになったのです、ちょっと怖くなって来ました。」
なんだと…?いつもの綿密な計画も全部、なんとなくやったことか?
つまりこいつ、まるでゲームのイベント前に選択肢が出て、それをなんとなく選んて、そしていつも大正解になったってことか?
いや、そうじゃない、こいつは上手く説明できないだけだと思う、こいつは確かに綿密な計画を立っている、ただ自分は自覚していない、前も言ったな、普通って、つまりこいつにとって、今までのことは全部自然に、朝飯前のようにやっている。
天才というのはまさにこいつのことだ、凡人はどんなに努力してもレベル100までには上がらない、しかしこいつは生まれからのレベル100だ、だから自覚していない、こいつにとって当たり前のような能力だ。
ようやくわかった、イブの思考速度サポートは作動していないのは、こいつは元々必要ないからだ。
「あれ?千月さんではないですか?」
「うん?ナナメさん?どうしたんですか?こんな所に。」
「多分千月さんと同じです、散歩。」
「そうですか…」
「千月さん、ありがとうございます。」
「え?どうしたの急に?」
「お兄様の事です。」
「天上さん?どうしたの?」
「お兄様はお姉さんがいなくなった後、この18年はほぼ笑っていませんでした。」
「そうなの?結構笑っていると思いますよ?不気味だけど。」
「それどころか、必要以上の会話もしませんでした。」
「ええ!?結構喋っていますよ?ムカツクけど。」
「ふふっ、千月さんと出会ってからですよ?」
「ええ?そんなことが…」
「ええ、だから感謝しています、確実に少しずつ、昔のお兄様戻っていきました。」
「昔の天上さんって一体どんな性格でしょうか?」
「隔離前のお兄様は…いつも元気いっぱいで、暖かい笑顔をしていて、少々天然ドジで、そしてお姉さんと私のことをいつも案じていて…、大好きなお兄様です。」
まさかナナメは、天上の事を…
「そうですか…なんか想像出来ません…」
「はい…、千月さんと出会って、お姉さんへの明確な道は見えるようになった今、お兄様は少しだけ明るくなりました、やっぱり…、私なんかじゃ…お姉さんの代わりにはなれません…」
「ナナメさん…、もしかして天上さんの事を…」
「……千月さん、あなたは本当に、不思議な人です。」
「ええ?」
「どうしてでしょうか…あなたと出会ってからまだ一日しか経ってないのに、何故か心から、この人なら信用できます、この人なら全部任せても大丈夫だって、そう思っていました。」
「…………」
「そうです、確かに私は、お兄様の事が好きです、しかも出会ってから一目惚れでした、実は、先にお兄様と知り合ったのは私ですよ?」
「ええ?どういうこと?」
「お兄様と出会ったきっかけは、あるゲームの発表会でした、昔のお兄様はゲームマニアでした、そのゲームは初の人工知能NPC搭載RPGです、私は凄く興味があって…」
「その発表会で天上さんと出会ったのですね?」
「そうです、まだ台湾に着いたばかりのお兄様はもちろん親戚か友達などいません、一人ぽっちのお兄様と色んな話題で盛り上がり、すぐ親友になりました、そしてある日、私達のうちに招くことになりました…」
「お姉さん、シリルさんと出会ったのですね?」
「はい、そしてお二人は、恋に落ちました、僅か3ヶ月で、お兄様は引越しに来て、お姉さんと結婚しました…」
「ナナメさん…」
「お兄様とお姉さんは僅か1週間だけで恋人関係になりました、それから、お兄様は私への態度は一変し、あまり喋ってくれませんでした、お兄様を密かに慕い続けたあの半年は…嘘のように…」
「複雑ですね…」
「はい、そしてお姉さんは失踪したあと、お兄様の力になりたい、お兄様を慰める事ができる人は私しかいないって、いつもそう思っていました、結局…18年も…、お兄様は18年も私の事を、ただの妹としか思っていませんでした。」
「…………」
「千月さん、私は一体どこがいけないのでしょうか?どうやって、私にも心を開けるのですか?」
「すみません、ナナメさん、私は…ナナメさんから見ればまだまだ子供で、恋愛経験もないんですので、ナナメさんの力にはなれません、しかし…」
「……?」
「これはただの勘です、多分天上さんもナナメさんの事を愛していると思います。」
「……え?」
「もちろん妹への愛情ではなく、異性としての愛情です、ナナメさんは多分見たことないですね?ナナメさんの事になると冷静さを失い、感情的になり、頭はすぐ切れたことを、そして天上さんはあなたを見る、その目に映る感情も、ただの妹だけのものではありません、実の妹ならともかく、ただの義妹にしては、その過保護ぶりと愛情の深さは異常です。」
「……そんなことが……」
「天上さんは多分、シリルさんとナナメさんの事を同時に愛しています、しかしそんなこと、他人が許されても、自分自身は許されません、だからそんな感情を抑え、敢えてナナメさんに冷淡な態度を取ると思います。」
「お兄様…お兄様が…しかし私はどうすれば…どうやってこの想いを告げるのでしょうか…」
「ナナメさん、今はやはりそのままにしておきましょう、シリルさんが失踪した今、ナナメさんを受け入れることは無理だと思います、シリルさんを見つけた後、三人で話し合って、二人の前に打ち明ける方がいいと思います。」
「……ありがとう…、ありがとうございます、千月さん、やはりあなたは素晴らしい人でした、みんなはあなたのことを慕っている理由も理解出来ました、私…凄く楽になりました。」
「……ただの小娘です、恋愛経験もない私なんか…」
「ふふっ、実は私もですよ?お兄様の事は所詮片想いだけですので。」
ナナメも大変だな、その片想いは、まさか25年も続けているとは、しかも25年間も同じ屋根の下で暮らしている、一体どんな心境なのか…、全く想像できない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます