3053 台南領主

 嚮後の顔パスで、うちらは順調に台南の将軍城に着いた。


 嘉義と同じの城廓都市だ、規模は嘉義城程ではないが、かなり発展していた都だ、町作りも嘉義城に似ている、ただ一番違うのは、嘉義では町の真ん中に大きな王城がいる、ここにはないな。


 北と東は将軍渓に囲んで、元々ここにいる農地と養魚池、あと小規模の廃墟を片付いた後建った城だったな、平坦な土地と、そのまま堀として利用した将軍渓、なるほど、ここもいい立地だな。


 メメちゃんは城外に待機させた、流石に人が多い所に連れ回す事ができない。


 嚮後の指示で、馬車は道なりに進んて、ある建物の前に止まった。


「ここはオヤジの屋敷だよ。」


 おお?ちょっと大き目な建物だ、いわゆる領主館かな?結構豪華だ、しかし出入りする人が多いな、自宅ではないようだ。


「つまり、嚮後さんのおうち?」


「違う違う、あそこはオフィスみたいな所よ、行政機関ってやつね、ただオヤジはおうちに帰るのは面倒で、大抵あそこに住んているわ。」


「なるほど、酷いお父さんですね…」


 そういえば千月の父親もほぼ帰宅してないな、自分の父親の事を思い出したんだろう。


「そんじゃ、あたしはここまでよ、みんな勝手に入ってね。」


「ええ!?嚮後さん、案内してくれませんの?」


「オヤジの顔見たくないわ、それに、あたしが旅に出る事をバレたら…」


「ああ、監禁されるかもしれないですね?」


「そゆこと、まあここまで来ると、あたしの出番はなくなったわ、後は天上とセントがいれば十分よ。」


 嚮後は馬車から飛び降りた。


「そんじゃ、あたしおうちに帰るから、場所はセントに聞いてね、終わったら迎えに来て。」


 うん?嚮後の後ろに…誰がいる?


「きょうちゃん!!」


「ひぃぃーー!!」


 おう?いきなり嚮後を後ろから抱き締めた!


「久しぶりだよ!どうしてパパを会いに来ないの?」


「オ、オヤジ!は、離せ!」


 ああー…、嚮後のオヤジか、つまりこいつが領主だな、待ち伏せされたか。



 それから強引にオヤジ…じゃなくて、領主の執務室に連行された。


 普通のオフィスだな、いらぬ装飾はほぼいないが、何故か部屋の隅に、屏風に遮った小さなベッドが置いている。


「さあ皆さん、座って座って。」


 扉の側に、小さなガラスの四角卓とソファが置いている、多分来客の応接用だろ。


「セントラルも久しぶりだね!何年ぶりかな?」


「はあ…、二ヶ月前の飲み会で会ったばかりではありませんか…?」


 飲み会!?ジジくさい!


 つうかこいつら、戦争ごっこ相手じゃない?飲み会ってやばくね?


「はっはっはっ!そういえばそうだな!はっはっはっ!」


 笑い方まで同じだぞ!戦友というより兄弟だろ!


「っていうかオヤジ!どうしてあたしが来るのを知ってんの!?」


「あん?あったりめえだろ、領主をなめんなよ?」


 ああー、多分台南に入った瞬間バレているだろうな、普通なら即報告されるはずだし、顔パスは失敗だったな。


「あの…」


「おお、初対面の方もいるね、自己紹介しよっか!」



 嚮後のオヤジごと台南領主、名前は宇志、台湾人。


 標準的な中年オヤジ、かなり太く、しかし顔つきは凄く温厚で善良的な雰囲気。


 セントの昔の戦友って言ったが、全然そうは見えないな、かなり豪快な人のようだが、戦闘と全く無縁のように見える。



 それから、天上とセントは大まかの事情を領主に説明した、もちろん秘密事項とうちらの最終目的は抜けている。


「なるほど、天上さんはなぜ嘉義から出てくるのか、こういうことかね。」


「ああ、知っての通り、雲林方面はしばらく問題ないだろ、今のうちに南部の事をなんとかせねばな。」


「うむ、昨日聞いた、まさか敵を全滅させるとは驚きだ、いつも引き分けだしな。」


「ああ、訳ありだ、これからの内乱平定戦、我も参戦するぞ。」


「なんと!天上さんが!?」


「領主様、自分も一緒ですぞ!」


「他人行儀な呼び方はやめてくれよ、何度も言ったろ?しかしセントまでもか…。」


「あの…、領主様。」


「うん?どうしたの千月ちゃん?」


「此度の平定戦、兵を分けて貰いますか?」


「もちろんだとも、嘉義の方々が助太刀してくれるのは願ってもない事だ、ここは雲林と違い、結構平和だしな、南部さえ平定すればここは安泰だ、兵力などいくらでももっていけ。」


 そういえばそうだな、北には雲林と嘉義という味方が守っている、南の高雄は廃墟の事で手一杯だから安全だしな。


「しかしセントよ、なぜこのような子供は4人も連れて来るのかな?」


「それは…」


「領主よ、こいつらは我と互角以上の力を持つ超能力者だ。」


「なっ、なんと!?」


「ああ、数千人ぐらいの砦ならば、この7人だけでも攻め落とす事ができるぞ?」


「はあぁぁ!?」


「そうですぞ?自分も保証できますな。」


 いやそりゃ過大評価だしな、わざとそういったのだろ、天上とセントの口から言われると、信憑性もぐっと上がるしな。


「ま、待ってくれ、7人?」


「ああ、お前を除き、ここにいる全員だ。」


「つまりきょうちゃんも含んている?」


「ああ、何が問題か?」


「大問題だ!きょうちゃんは論外だ!戦争ごっこだけならともかく、命のやり取りになる本物の戦争に参戦するなんて、させねえぞ!」


 わーー、いきなり怒った、マジで過保護し過ぎ。


「オヤジ!」


「領主よ、お前の娘もいい年だぞ?いつまで守るつもりだ?」


「私が死ぬまでだ!」


「オヤジ!あたしもう子供じゃない!」


「そんなの関係あるか!ダメって言ったらダメだ!」


 やっぱりこうなるよな、嚮後はここで脱落か?短い付き合いだったな、顔パスは本当に大失敗だった。


「あの…領主様。」


「なんだ?説得など応じないぞ?」


「いいえ、ただ一つだけ言わせてください。」


「なんだ?いってみろ。」


「私は今年18才、このナナメさんは10才、そして佐方と佑芳は12才になります。」


「それがどうした?」


「領主様、嚮後さんの将来の事、考えていますか?」


「何がバカな事を、当たり前だろ?」


「いいえ、領主様、あなたは全く考えていませんでしたわ。」


「なっ、何を!」


「私達みたいな子供は、この戦乱の世の中に生まれ、生きています、これからも戦争の危険に晒されています、このままでは、将来も安全的な暮らしが保証出来ませんと思います。」


「私が守っているから問題…」



「小さな内乱すらも平定出来ないあなたは、どんな面でそうなことを言えるのですか!?」



「っ…」


 わーー、千月マジ度胸があるな…、仮にも領主だろ?死にたいのか?


「なにが安泰ですか!聞き呆れました、現に反乱も起こっているじゃないですか!?」


「…………」


「私達みたいな子供でも、将来のために一生懸命頑張っています、この戦乱をなんとかしてみたいです、大人の力では頼れません、だってあなた達はいつまでも現状維持、こんな小さな領地だけで満足しているじゃないですか?それでは駄目です、私達は自分の手で、未来を掴みたいのです、嚮後さんもその一人です!」


「…まさか君は…」


「そのまさかです!領主様は昔、セントと一緒に春ねえの父親と共に頑張っているじゃないですか?この戦乱をなんとかしたいじゃないですか?今は?なぜ信じている主様が死んたあと、こんな所で立ち停まるの?主がいなくなったら何もできないというの?信じている主の志は、あなた達は継ぐべきではないの?昔の志はどこ行った!?」


「…………」


「あなたは自分の娘の志を無下にするつもりなの?昔のあなた達と同じ志を持つ、あなたの娘よ?寧ろ誇りを持って送り出すべきではないか!!」


「…………」


「千月様…」


「ちーちゃん…」


「きょうちゃん…それは、本当か?」


「ええ、今のオヤジは嫌いよ、昔のオヤジはいつも活き活きしていて、大きな目標があって、その目標に向かって努力している、あたしはそんなオヤジのことを尊敬して、大好きよ?あたしも昔のオヤジのように、自分の力で何かを成し遂げたい、いつまでも親の庇護下にはいられない、千月と、ここにいるみんなと一緒に、自分の未来を勝ち取ってみせるわ!」



 領主はそれから、言葉を失った、ぼんやりで床を見つめて、全く反応しなかった。


 うちらはそのまま退室した、セントのみ、千月の指示で執務室に残された。


 千月はまた、いつもの人心掌握スキルを発揮した。


 この説得ならきっと、何かの効果があるだろ、少なくとも、嚮後の参戦には反対しないと思う、嚮後は色々と知り過ぎた、あんな性格だし、ここに置いたらちょっと心配だ、出来ればこれからも付いて来る方がいい。

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