3051 台南の内乱



 嚮後の話を要約するとこうだ。



 台南も元々春ねえの領地、正確には春ねえの父親の領地だったが、7年前の暗殺事件で、各地から独立の声が上がった。


 原因は単純、元々完全民主化の国だから、世襲制の逆戻りに不満を持っていた、正しい手順と選挙を元に、新たな指導者を選出すべきだと謳っていた、しかしそれはただの建前だった。


 本音は、元々春ねえの父親の魅力に惹かれたもの達は、まだ23才の小娘だった春ねえの世継ぎに不満を持っているからだ、今の城主達の半数以上、昔の戦友だった者だ、誰もが自分が正しい継承者だと思っている。


 しかし春ねえが継いたあと、父親譲りの天性のカリスマ性とかなりの政治手腕、そして領土防衛の実績によって、反対の声が徐々に沈静化された。


 ただ問題は、北方から長年の侵攻が原因で、北方の雲林と嘉義に力が入れ過ぎた、相対的に安全かつ辺境の台南南部は、管理と恩恵は行き届けていなかった、その原因で、南方各地からの独立の声が、年に増して強くなった。



「オヤジはいつも、各方面からの圧力を背負い続けている、しかしやはり裏切り者になりたくないって、3年前まで、各地を宥め続けている…」


「しかし嚮後さんと春ねえの喧嘩が最後のきっかけになり、独立が決定した、ですね?」


「ええ、遅かれ早かれそうなるのよ、あたし達はその最後のきっかけに過ぎないわ。」


「つまり今の台南は…」


「南部と北部に両分されたわ。」


「北部は嚮後さんの父親の管轄下。」


「そして南部の連中は、独立後は相変わらず北部と親交しているオヤジに不満を思い、半年前から反旗を翻したわ。」


 半年?また半年前か、澎湖も台中彰化も、半年前から状況が一気に変わった、きっと何かの関連性があるはず。


「よくそんな状況で戦争ごっこをするんですね、南部と内戦しているじゃないですか?」


「ええ、しかし深刻的な問題ではないわ、南部は高雄の問題もあるし、全力で北部と戦う余裕がないから、いつも小競り合いだけで終わったわ。」


「つまり放置しても問題ありませんっと?」


「今はね、しかしやはり解決しないと、いつか取り返しの付かないことになるわ。」


「高雄ですね?」


「ええ、高雄動物園の問題があるから、大人しくしているけど、軍事力はかなり高いので、台南南部はいつ攻めて来てもおかしくないわ。」


「動物園って…」


「ああ、ちーちゃんは知らなかったね。」


「千月様、動物園っというのは、高雄廃墟のことです。」


「あれ?セント、もう治りましたの?」


「はっはっはっ!結構効きましたぞ?しかし自分はこの鋼のような肉体があります!氷漬け程度では…」


「もっかい試してみる?」


「…すみませんでした、お嬢様。」


「はあ…、セントの事は置いといて、動物園ってのはね、発展し過ぎた昔の都市の事よ、嘉義廃墟と台南廃墟も動物園の一つよ?しかし規模がやはり違うわ、高雄の動物園は凄く怖いらしいよ?」


「ああ、我は昔も数回入った事ある、確かセントも行ったことあるな。」


「そうですな、まだ主様と出会う前に、よくあそこで修行をしていますな、あそこは修行の場として、結構人気がありますぞ?」


「修行って…、巨大化動物と?」


「そうですな、自分なんか、入り口付近しかなかったですぞ?天上様は確か…半分まで入りましたな?」


「ああ、半分ぐらいで逃げ帰った。」


「天上さんまでも逃げたの!?そ、そんなに強いの!?」


「ああ、理屈はわからないが、とんでもない強さだった、巨大化だけでも厄介だが、超能力まで使いこなせる。」


「ふええーー!?」


 マジかよ…、ヤバ過ぎるじゃないか?


「はっはっはっ!超音速で飛ぶ30メートルの鳥、口からビームを撃ってくる20メートルのワニ、瞬間移動する10メートルの犬など…」


「ふええーー!?」


 ……魔界だ、魔界から出てくる魔物じゃないか?多分一番深い所に魔王がいるぞ?


 つまりあのハゲワシを一撃で葬り去ることができる天上すらも勝てない動物…、あのハゲワシでさえ、うちらも苦戦しているぞ?だったら台北は一体…?


「あたしは見たことないけど、深刻な問題らしいの、だから高雄の軍事力が無駄に高い、超強い能力者もいっぱいいるのはそれが原因よ、あんな動物達は外に出られたら大惨事なの。」


「なんか…怖いけど、ちょっと見てみたいな。」


「はっはっはっ!やはり千月様は恐れ知らずの方でしたな!」


「というと、高雄の事は放置しても大丈夫ですね?」


「ええ、確かに不安要素の一つだけど、今まで他領に攻める事はないらしい、しかも攻められる事もないわ。」


「ああ、高雄領地はある意味、台湾南部全体の共有資産だな、高雄の軍隊がいなくなると、高雄廃墟の魔物を防げるものもなくなった、誰も高雄を敬遠するのはそれが原因だ、高雄も他に手を回す余裕はないからな。」


「そういえば前もセントから聞いた事がありますね、台北は…」


「台北の事はよくわからんな、それから一度も戻ることはない。」


「そうですか…」


「話は逸らしたな、本題に戻ってくれ、嚮後。」


「え、ええ…、えっと、要はあたし達、台南南部の反乱軍をなんとかしないといけないわ。」


「では、まず台南へ行きましょう、嚮後さんのお父さんを会いに行きますね、丁度いいチャンスですわ…ふふふ…」



 次の戦場は決まった。


 天上がまた強引に、うちらに戦争を巻き込まれてしまった。


 しかし今は寧ろ望む所だ、少しずつ力を蓄え、戦争を平定しよう、天上は別だが、うちらはもう急ぐ必要もなくなった。


 そういえば千月のやつ、また不気味な笑い顔をしている、また何かの怖い計画を思い付いたかな?



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