3049 イブの再出発



「お姉様…、その、そろそろイブお姉様の事を…紹介してくれませんか?」


「あっ、そういえば忘れてた。」


『てめえ!ひでぇーぞ!』


「ゴメンゴメン、しかし紹介か…、いーちゃんの声は私以外聞けないし…どうしょう…」


「それなら私、考えがあります、成功出来るかどうかはわかりませんが、試してみましょうか?」


「それは?」


「メメちゃんのシステムとリンクしてみます。」


「ふええーー!そんなこともできるの!?」


 マジかよ…、うちは外側でも世界レベルのハイテクだったはずだぞ?一人で解析できるのか?


「理論上は可能ですね、しかもすぐ実験できます。」


「お願いします!」


「では千月さん、こちらへ。」


 千月はナナメの指示に従い、メメちゃんの前に立った。


「こう?」


「そのままじっとしてくださいね。」


「わかりました。」


「では、メメちゃん、索敵モード起動、索敵範囲は3メートル、索敵パターンC。」


《了解しました、索敵モードへ移行、索敵範囲は3メートル、索敵パターンC、索敵します……》


 索敵モード?ああ、多分付近にいる電子信号をサーチするつもりだろう。



《警告、警告、不明なデバイスより、不明な干渉信号を検出されました、敵性体からの電子信号サーチ行動だと推測します。》



「あれ…?変な警告が聞きました。」


「それはそうですね、索敵モードですから、逆探知されたら敵性体からの攻撃だと誤認されるでしょう。」


《……パターンCによる、電子信号の検出は失敗しました。》


「凄いね、やはり私もまだまだですね…」


「……もしかして信号が弱すぎるのでは?」


「そうですね、強度を上げることができますか?千月さん。」


「普通なら…出来ませんね、意のままに操ることができません。」


 そういえば赤毛も言ったな、いつも無意識で起動しているらしい、つまり人間の副交感神経と同じ理屈のようだ、錬火の時も、敵意に反応したものだろう。


「普通?」


「ええ…、あの、ナナメさん、この子に、攻撃命令を出せませんか?」


「攻撃?目標は?」


「攻撃目標は、私です。」


「ええ!?」


「ち、千月様!」


「アンタね!また無茶をするつもり!?」


「千月さん、それはどういう…」


「いいからいいから、その手で、私を握り潰すという命令を、もちろん殺すつもりで。」


「……なるほど、理屈はわかりました、しかしそんなことはできません、危険過ぎます。」


「そうですか、ではナナメさん、メメちゃん、ゴメンね!」


 千月はメメちゃんの脚に向かって…



 コンッーー!



 キックした!!


『てめえなにしやがる!?』



 コンッコンッコンッコンッーーー!!



 さらに連続のキック攻撃!


「あっ!あああっ!千月さん!私のメメちゃんになにを…!」


《敵対行動を受けました、自動防衛モードへ移行します。》


 わっ!?メメちゃんの右手が千月を掴んて来たぞ!



《出力10%》



「よっと!」


 この程度の攻撃では問題ない、問題があるのはナナメの方だ!賠償を要求されたら大問題だぞ!


「お姉様!いけません!」


「大丈夫よゆうちゃん、ナナメさん、今です!」


「っ!メメちゃん、攻撃中止、さっきと同じの索敵モードを!」


《了解しました……微弱な電子周波を検出されました、対象に攻撃しますか?》


「攻撃は却下よ!イブさん聞こえますよね?そのサーチ信号を乗せるかどうかは試してみて!」


 よっし来た!とっくに掴んたぜ!


《警告、不明なデバイスによる逆探知をされていました、索敵モードの中止を提案します。》


 なんだ、簡単じゃん、なるほど、中身は所詮20年前の地球の技術レベルか、あの時で学んたものだしな、ちょろいもんだ!つまりナナメは自分から解析する必要はない、最初からうちに頼るつもりだな?やっぱり賢い人だ。


「そのまま続いて!」


《了解しました……サーチ信号が不明なデバイスにより上書きされました、ウイルスの可能性があります、索敵モードの中止を…中止を…》


「……メメちゃん?」


《ナナメ様、その不明なデバイスからの電子化人格により、人工知能システムの干渉要請が受けました、承認しますか?》


「承認!承認よ!」


 ぬお!?あっさりと干渉できるようになったぞ?



《……あっ、ああーああー、マイクテスト。》



 ぬお!?変な感じだ、成功だな!やったぞ!遂にうちも千月以外の人間と交流出来たぞ!


「いーちゃん!いーちゃんの声だ!」


「おお…、成功しましたな!千月様!」


「フフフ…マイクテストか、随分と古風だな。」


《天上!てめえなに言ってんだよ!》


「フフフ…ある意味初対面の人間だろ、初対面の挨拶はこれか?面白いやつだな。」


「…これは、イブお姉様の声…ですね?」


「イブのねえちゃんも可愛い声だぜ!」


「しかし言葉遣いは乱暴ですね。」


《ほっとけ!》


「千月さん、確かイブさんも…氷人ですね…?」


《ああそうだ、とりあえず自己紹介するか、イブよ、そこにいる女の脳みそはおっぱいに入ったから、うちの本体は仕方なくそいつの脳に代わっている、よろしくな!》


「なっ!?いーちゃん!なに言ってんですか!」


《ナナメ様、それはどういう意味でしょうか?》


《メメちゃん、おっぱいが脳みそで出来ているというのは、つまりおっぱいだけが無駄に大きいのバカ女だ。》


《理解しました、イブ様、ジョークの一種ですね?》


「いーちゃんのエッチ!!戻ってくださいよ!」


「ええ?メメちゃんの人工知能システムまだ残っていますの!?」


《あったりめえだ!おまえ達はある意味、うちの世界を広げた恩人だろう?消されることなんて出来るか!》


「え、ええ…いや、コビーは残ってるから消されても問題ないですけど…、しかし上書きされているはずじゃ…、まさか両方も共存出来るなんて…」


《うちは誰だと思ってんの?この世界もっとも強いシステムだぞ?この程度造作もないわ!》


「イブさん…ああ、本物の人工知能…感激です…大感動です!」


《いや人工知能じゃねえよ、元々は氷人だし、これは電子化人格だって、さっきメメちゃんも言ったろ?》


「は、はい!そうですね、これからはよろしくお願いしますね、いーちゃん!」


《いーちゃんって呼ぶな!》



 ああ、なんと心地いい感覚。


 体の五感はもちろん千月のままだったが、まさか声を出せるだけで、こんな感動な気持ちがいっぱい溢れて来るとは…


 ああ、本当に感謝の気持ちがいっぱいだ、まあ口にはしないけどな、恥ずかしいし。


 これからのうちもようやく、普通に会話出来るようになった、うちにとっては、また一つの新しい始まりだったな。



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