3048 スーパーナナメ

 結構喋ったな、台湾に入る前のことと、澎湖にいる頃のことも、なにもかも全部、ここにいる“仲間”に明かされた。


「…天上様はもう…知っているのですか?」


「いや、全部知っている訳ではない、イブ・システムのことなど流石に予想外だ。」


「つまりちーちゃんのそのありえないスピードは…イブの力か…、道理であたしと戦う前、超能力者じゃないって…」


「外側の科学技術はもうそこまで発展しているとは…」


「お姉様…やはり普通の人間と違いますね!素敵ですわ!」


「へへっ、やっぱりねえちゃん凄いや!」


「すみませんねみんな、いままで騙していて…、あと氷人の秘密だけは、流石に言えません、氷人の許しを得ない限り…」


「ああ、わかってる、気にするな。」


「ええ、そうですとも、そして戦う理由も全部理解しましたぞ!」


「そうだな、どう聞いてもただの勘ではないな、よく考えたら、お前の推測は多分全部正しいだろ。」


「ちーちゃん、こういうのもなんだけど、今度こそ本当に、アンタに付いて行くと決めたわ、贖罪のためではなく、偉業を成し遂げる為に!」


「ありがとう、皆さん、要約すると、私達の目的はまず戦争の平定、次は氷人との講和、最後は隔離空間の解除、以上になります、もちろんどれも簡単ではありません、一番難しいのは多分隔離後のことです。」


「外側の地球人は全部敵に回すという可能性…か。」


「千月様!自分は今、猛烈に感動しました!まさか…まさかかつての主様以上の志を持っているとは…」


「ナナメさん、これでいいのかしら?」


「ええ、予想以上に、いい話を聞きました、まさかここにいるみんなの目的と目標は、全部そこに集結しているなんて…、戦う理由はもう明白ですね。」


 そしてナナメは扉の前に移動した。


「皆さん、付いて来てください。」



 ナナメはみんなを案内し、家の後ろにいる小さな庭に着いた、僅かな雑草以外、何もない庭だ。


「ここです。」


「…うん?えっと、庭?」


 何もないが…なにが…いる。


「メメちゃん、ステルス解除。」


《音声波紋確認、ようこそ、ナナメ様、ステルス効果全解除します。》


「な、なんです!?」


 そして、何もないはずだった場所からいきなり、帆布に覆われていた、機械のようなものが現れた。


「これは、私の戦う力です。」


 帆布をめくると、予想外のものを見てしまった。


「ふええーー!?」


「これは…ナナメ様の…」


「あ、ありえないわ!これ生きているの!?」


「かっけー…乗りたい…」


「素敵ですわ!こんな大きな人形、見たことありませんでしたわ!」


 まあ人形って言ってもあながち間違っていないけどな。


 そうだ、そこにいるのは、人間の形をしている戦闘マシン、つまりロボットだ。


「この子の名前は、スーパーナナメです、愛称はメメちゃんです、皆さん、よろしくお願いしますね。」



 スーパーナナメ。


 酷いネーミングセンスだけど、なるほど、名前の理由はすぐわかった。


 全身黄色だ、所々綺麗で可愛い装飾が付き、スカートの隅に小さな和平シンボルが描いている。


 機械だからもちろん金属製だけど、ざっとみればナナメと同じのワンピースを着ているような、ふわふわ可愛い外見だ、頭部以外、まるで巨大化したナナメのようだ、しかも自律システムの声もナナメのものだ。


 今は片膝が地面についている体勢だが、全長は多分300センチぐらい、澎湖で遭遇したロボットより僅かに高い、もちろんあのような滑稽な形ではない、こいつはちゃんとした人間の形だ。


 頭部の構造も結構洗練されている、顔はないが、頭頂にアンテナ、目の位置に全周可動式のカメラが付いている。


 右手は人間と同じ構造の掌、左手の前腕は長い砲身に代わってる、あのロボットと同じ、しかしこっちの砲身は見たことない形だ。


 なるほど、こんな城の隅かを選ぶ理由はこれか、後ろは城壁、周りは大きな樹木と築地塀、正面は二階建ての建物に遮っている、こりゃ入らないと見えないな、絶好な隠し場所だ。



「まだ故郷にいる頃のお父さんは、兵士の端くれだったのです、これは昔の氷人の戦闘手段の一つです、お父さんは台湾に着いた時から数年後、原因不明の病気で亡くなりました、この機体はその置き土産です。」


 なるほど、氷人のものか、しかしこんな形、見たことないな、新造機か?


「昔から隠されているものだ、我もよくわからん、氷人の秘密とやらもよく知らん。」


「ええ、千月さんの頭の中にいるチップと同じ方法で、ビーム攻撃から逃れました、詳しいことも同じ理由で言えませんので、ご容赦を。」


「そんなのいいって、要はこいつ、動けるのか?」


「嚮後さん、この機体の手入れは一日たりとも怠っていません、さらに私なりの改造も施したので、昔以上の力が出せるはずです。」


「改造!?そんなことも出来るのですか!」


「ええ、しかし氷人の技術ではありません、地球の技術です、私は機械工学、電子工学、航空、航海、航宙工学、工程学、物理学、人体工学、数学など、この子の体と関わりそうな学問は全部博士号まで取っています、他には…」


「ふええーー!?」


 なっ!なんだと!?


 えー?ありえなくない?学位って、隔離前のことだろう?18年前のことだろう?つまり当時まだ20才…、地球人から見れば40才…いやいや、それでも時間は20年だけだ、これだけの学位は一体…


「他には取り損なった学位も一杯あります、隔離されましたので、それどころではなくなったのです。」


「……博士号…、一体どれぐらい持っていますの?」


「隔離前、最後に取ったのは近年新しく確立された人工知能工学ですね、それで26つ目ですね。」


 なんだと!?20才で26!?総数はこれより多い人間もいるが、20才で26つの博士号も持っているなんて、世界記録じゃねえか!?


「他にも心理学、文学、哲学、軍事学など、この子の人工知能に有益な学問も研修していますが、残念ですが学位は取り損なりました、あと趣味として、天文学と…」


 それだけではないのか!?とんでもない天才だ…、いや、化け物だ。


 ここまでの魔改造が出来る訳だ、しかし素材は一体どこから調達してきたのか?


「す、ストップストップ!これ以上聞くと…、なんか怖くなってきました…。」


「あら残念です、興味がありましたら、いつでも言ってくださいね。」


 さっきの…お淑やかて小さな女の子は、綺麗さっぱり消えてなくなったぞ、もう恐怖的な印象しか残ってないわ…


「はっ…ははっ…、これは夢じゃないかな?あたし…、神様でも見たような…」


「そういえばお嬢様は幼稚園卒…」


「一々うるさいわセント!幼稚園卒で悪いか!?仕方ないじゃないか!」


「し、しかしよくそんなものを持ち出せるのですね、違法じゃないですか?」


「もちろん違法です、千月さん、地球に着いたあと、地球側から厳重な管理と制限を掛かっています、実は、理由はわかりませんが、お父さんは脱走兵です、まだ地球人と交渉中の時期、氷人の母艦から脱走し、近くにいる台湾に着いたのです。」


「子供を連れて…」


「そうです、38年前の事です、その時のお姉さんは4才、私はまだ生まれたばかりの赤ん坊でした。」


「ああ、そして我は25年前、23才だった頃、日本語の教師として、台北へ赴任したあとまもなく、まだ17才の妻と…、シリルと出会った。」


 日本語の教師だったのか!?


「天上様が教師ですと!?初めて聞きました!」


「ああ、元々はごく普通の若い教師だった、台湾に着いた時、右も左もわからない、道の通行方向も逆で、最初は凄く焦っているぞ?フフフ…懐かしいな。」


「そして、奥さんと…シリルさんと恋に落ちたのですね?」


「ああ、最初はただ背が低い、普通の女の子として、愛していた、氷人であることはもちろん知らされていなかった…隔離までは…」


「ええ、台湾に着いたあと、私達はずっと地球人に装っています、まあ私にとっては、氷人である実感すら湧きません、なにせ地球で生まれ、地球に住み、地球人と暮らして来ましたからね。」


「ああ、こいつは確かに氷人だが、氷人のことについで、本当に何も知らない、地球人と同じだ。」


「ええ、氷人語すらわかりません…」


 妙だ、だったらなぜ和平シンボルの事を知っているのか?


「……楽しい7年間だった…、我にとって、生涯でもっとも幸せな日々だった…、まさか…7年だけだったとは…」


「お姉さんは隔離後すぐ、行方不明になりました…」


「その時初めて知った、ナナメが教えてくれた、氷人であることを…」


「…それからです、お兄様は鬼の形相で、お姉さんをずっと探しています…」


「妻ももう年だ、戦争を平定し、氷人の地に入るまで、また数年かかるだろ、その時は…」


 ああ、今も生きているかどうかすら怪しい、地球人からみれば84才の高齢だ、天寿を全うしていても不思議ではない、さらにあと数年もかかると…


「いや、例え亡き骸でも、最悪墓碑だけでも、この目で確かめたい…」


「…天上さん。」


「ああ、やっと一筋の光が見えた、その光というのはお前だ、千月。」


「ええ、これからは私も、この子と一緒に、お兄様と千月さん、そして皆さんに付いて行きます。」


「ありがとう、ナナメさん、これからはよろしくお願いしますね!」



 また大きな戦力を得た、千月も結構恵まれたやつだな、こうも順調に次々と心強い仲間を得られるとは。

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