3047 ナナメ

 C.E.2063_0530_1041



 城の一隅、小さな二階建ての、木製の一軒家。


「あれ?ここは確か…天上さんの家ではありませんか?」


 ああ、前はセントに案内された時、確かにそう言ったな、あの時は遠くから見ているだけだった。


「ああ、正確には家ではない、貸されたものだ。」


 天上は扉をノックしたあと、数歩下がった、ってか自分の家なのにノックする必要があるのか?


「ナナメ、開けてくれ。」


「お兄様?」


 お兄様だと!?妹居るのか!


「ああ、用がある、開けてくれ。」


 そして、扉が開けた。


 家から出てきたのは、小さな、女の子。


「か…かわいい…。」


「天上がこんな可愛い妹がいるなんて!」


「可愛いお嬢ちゃんでしょう!自分も初めて会った時、すごく驚いていましたぞ?」


「ゆうちゃんより可愛いな。」


「さーちゃんなに言ってんですか!」


「あ、あの…」


「済まんが、入るぞ。」


「は、はい…」


「声もかわいい…鈴音のように、聞くだけでも心地いいわ…乱暴な男口調のいーちゃんなんかよりかわいい…」


『てめえ!何言ってんだよ!』


 超ムカつく!



 本当に小さい家だ、この人数では、一番広い客間でも手一杯だ、しかも椅子は2脚しかない、天上と千月が座っているが、他の全員は立ったままだ、座れる所すらない。


「あの…、お兄様、これは一体…?」


「千月、こいつがナナメ、我の義妹だ。」


「え、えっと、ナナメです、よ、よろしくです…」



 ナナメ。


 顔立ちだけでもとびっきりの可愛さだが、そのお淑やかでやや内気的な雰囲気、人間の保護欲を極限まで引っ張り出すことが出来る程の化け物だ。


 地面まで伸びた、淡い緑色の長い髪、そして丈が長い、淡い黄色のワンピースレースドレス、髪と凄く似合う配色、まるで…いや、妖精そのものだ。


 背は低い、145センチぐらい、まさに幼児体型、佑芳と違う種類の可愛さだ。



「こいつが、その氷人だ。」


「え、ええーー!?」


 な、なんだと!?


「ま、まさか天上様の妹君が…」


「ああ、セントは会ったことあるが、氷人である事を伏せている。」


「しかし天上様、自分達に知らされては不味いのでは…?」


「事情が事情だ、これからは同行することになるだろ、伏せていても意味がない。」


「義妹っということは、まさか天上さんの奥さんの…?」


「ああ、こいつは妻の妹だ。」


「そうですか、しかしこんな小さい子…どう見てもゆうちゃんより若いはずじゃ…?妹だと言わなかったら、天上さんの子供かと思いました、年齢的には…」


「残念だが、子を恵まれていない。」


 うん?千月は確か氷人についである程度わかっているじゃない?


「千月様、もしかして聞いたことありませんか?氷人と地球人は確かに生物構造ではほぼ同じ、しかしやはり違う所もありますぞ?」


「え?身長だけでは…?」


「あと肉体強度も地球人より貧弱、そして平均寿命が地球人の約半分しかありません。」


「ええ、それも聞いたことあります、テレビから。」


「それと、寿命が半分だけですが、その代わり、成長は地球人の倍ぐらいの速さ、そして一番違うのは、外見のみ、老化は成年したあと止まっていますな、地球人から数えると10才、つまり氷人の20才ぐらいで止まりますぞ?」


「ええ!?なにそれ超羨ましい!!」


「ええ、まあ、しかしいい事ばかりではありません、老化しないのは外見だけで、内臓機能の劣化速度は地球人の倍です、それゆえに寿命も短いですな。」


「つまり…、氷人の10才は地球人の20才と同じ?」


「そうです、肉体だけではなく、精神的にもですな。」


「では…、実はこの子は…」


「ああ、今の我は48才、妻は地球人の年で数えると、今年は42才だったはず、そしてこいつは38才だ。」


「じゃあ…地球人の76才?」


「そうなるな。」


「セントは?」


「自分は51ですぞ!」


 51!?とてもそうはみえないぞ?もしかして肉体強化系能力の影響か?


「つまりこの子…、ここにいる人の中に一番若い外見なのに、実は一番の年長者…」


「ああ、肉体と精神年齢から見れば、そうなるな。」


「う…羨ましい…、羨ましいわ…」


「あ、あの…、確かに肉体的には…老いですけど、やはり生きている時間はお兄様の方が長いです…」


「それでも38才ではありませんか…ああ…、超羨ましい!!」


「はあ…そろそろいいだろ、本題に入るぞ?」


「ではお兄様…、これはどういうことですか?」


「千月、説明してくれ。」


 そしてこの子に、今までとこれからの事を全部、この子に説明した。



「そうですか…」


「ああ、ここはもう居られない、我らと共にここから出るぞ。」


「はい…お兄様…。」


「しかし天上さん、色々と不味いのでは?」


「何がだ?」


「あの…この子…じゃなくて、ナナメさんは…、えっと…」


「千月さん、大丈夫です、何を言っても怒りません。」


「そうですか、えっと…、ナナメさんの年では…危険ではありませんか?」


 そういえばそうだな、外見はともかく、肉体的には76才の老体だ、うちらの旅に付き合うには少々キツイ年齢だろ。


 氷人の個人戦闘能力は、地球に着いた時、全部失われたからな。


「……確かに、氷人は元々、身体能力では地球人に遠く及びません、さらに私は…もう年ですので、もっと弱くなりました…」


「ナナメ、我はお前のことを守って見せる、絶対にだ、安心しろ。」


「天上さん…、すみません、これは流石に…」


「なんだ?はっきり言え。」


「…絶対怒らないっと、約束してくれません?」


「……いいだろ。」


「では天上さん、流石にこれは予想外でした、まさかこんな年寄りだったとは、こんなご老人を守りながら戦うなんて…、足手まといになるだけですよ?」


 なっ!なに言ってんだよ!?


『てめえ!死ぬ気か!?さっき春ねえのこともう忘れたのか!?』


 天上の能力は千月にとっての天敵だろうが!!


「ち、千月様!?な、なんてことを…」


「…………」


 や、ヤバい、ヤバ過ぎる、天上のやつまた殺気が…殺されるぞ!


「お兄様!落ち着いて!」


「……くっ……」


「千月さんの言うことは正しいのです、お兄様はいつからこんなわからず屋になったのですか?もっと冷静で理性的に行動してください!」


「……済まん。」


 ぬお!?す、凄い、まさか天上はこんな弱点があったとは…


「すみません、ナナメさん、天上さん、確かに直球し過ぎました、しかし…」


「いいのです、寧ろ好感が湧きましたよ?下手な慰めかウソばっかりの人より遥かにいいのです。」


「ありがとうございます…。」


「本題に戻ります、確かに体が弱い、さらに氷人は地球人の様な変異は起こっていませんので、超能力も持っていません、しかし身を守る手段ならあります。」


「ナナメ!我が守ってやる、無理をするな!」


「いいえ、お兄様、最初から約束を交わしたじゃないですか?お姉様の目処が付いたら、一緒に付いて行きますって。」


「……ああ。」


「しかし千月さん、まだ納得が出来ません、氷人の地へ入る為に、なぜ戦争の平定が必要になるのかしら?詳しく聞かせてください。」


「そういえばあたしも詳しく知らないわね、その理由。」


「……それに千月さん、なぜあなたは、氷人の…秘密情報をわかるんです?」


「…………」


「…なに?」


「千月様が!?」


「なになに?秘密って?」


 やばっ!リボンのこと全然忘れてた!


「……いーちゃん、遅かれ早かれバレるのです、私達はもう戻るつもりはないので、バレても問題ないわ、みんなのことも信用しています。」


『……本気か?』


「ええ、ここにいる皆さんなら、信用出来ると、私が保証します。」


 まあ、千月のことだ、そうするのもきっと理由があるだろうな。


「お姉様?」


「千月様…誰と話をしているのですかな?」


「……皆さん、これからの内容は、絶対に、秘密にしてください、私のことを信じているように、私も皆さんのことを信頼しています。」



 そして千月は椅子から離れ、みんなの前に立ったあと、うちのことも含め、台湾に来る理由と、戦争を平定したい理由、今度こそ本当に、一切の包み隠しもなく、全部喋った。

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