3046 決別
C.E.2063_0530_0826
翌日、全員で春ねえと初めて出会ったあの応接室で、春ねえへの報告と情報交換を行った。
「そうか…、天上さんまでも…」
「ああ、お前も知ってるだろ、我の願いを。」
「うん…、その願いを叶える目処が付いたら、ここから立ち去るって。」
「そうだ。」
「しかし天上さん、あなたまでいなくなったら、みんなに大きな不安をもたらすのでしょう、もちろん…私も…彼女も…。」
彼女?だれだ?
「我らの目的は、先程も言ったろ?」
「ええ、確かにそれを成し遂げたら、安全も確保されるでしょう、しかしその保証はどこにあるの?もし失敗し、天上さんを失ったら、私達はどうなるか…」
何故か、春ねえは弱気になっている、こんな性格の人間ではないと思うが…、多分個人的に、天上がここからいなくなることを嫌いだろう、好きだし。
「春ねえ、すみませんが、一ついいかしら?」
「なんだい?千月。」
「確かに、台湾全土を統一することについで、保証など出来ません、しかしやらなければなりません、これはきっと、ここだけではなく、全台湾の人々も望むことです。」
「そういえば、初めてここで会った時、確かこう言ったよね?人々を纏める人がいないかって。」
「そうです、それはすなわち…」
「英雄…か。」
「そうです、英雄です、この混乱した世界には、人々の希望と未来を全部背負える、英雄が必要です、そして私達は…」
「君達は、その英雄になりたいっと?」
「そうです!」
「……そうか、よかったね、セント、あなたも遂に、長年待ち続けた人物と出会えたのね?」
「はい、姫様、自分は千月様と共に、この偉業を成し遂げたいのです、そして大きな栄光と名誉も掴みたいのです。」
「そうか…、遂に、ここから歩き出す時が来たのね…」
「はい…、姫様、ご容赦を、そして何卒、お許しを…」
「もちろん許すわ、元よりそのつもりだけどね、行ってらっしゃい、セント。」
「はい…、ありがとうございます、姫様。」
「嚮後さんは?どういうつもりなの?」
「ア、アンタと関係ないでしょう!?」
「そうか、まあ好きにすれば?しかしオヤジの方は?まだ言ってないでしょう?」
「い、言ったら監禁されるじゃないか!言えるか!!」
わーー、ここまでするの?あの領主さん、筋金入りの親馬鹿だな。
「まあいいけど、せいせいしたわ、あなたみたいな、嫌がらせしかできない邪魔者がいなくなったら、寧ろ助かったよ。」
「なっ!アンタ!喧嘩する気!?」
「とんでもない、あなたみたいな馬鹿力女と喧嘩するなんて、こっちの品位も下がっちゃうわよ。」
「アンタねっ!!」
「あっ、あわわーー、お、落ち着いてください!こんなことをする場合ではありません!」
「「こんなことってなによ!!」」
はあ…、この二人、実は仲がいいじゃないか?
「す、すみません…」
「落ち着け、喧嘩なら他所でやってくれ。」
「……天上さんがそういうのなら。」
「残念ですな、久々に姫様とお嬢様の喧嘩をみせて貰いたいものですな!」
セントのやつの大概ひどいな!
「そ、そういえば、お二人は、どうして喧嘩を?」
「…些細なことよ。」
空気読めよてめえ、こんな時で聞く!?
「何が些細だよ!あたしにとって死活問題でしょうが!」
「ふん、なにいってんたか、あなたこそ、勝手に私の宝物を持ち出すだけでも許さないことよ、その上まさか破れるなんて!」
「アンタだってあたしの宝物を壊したじゃないか!」
「え、えっと…、宝物って、一体なんのことでしょう?」
「私の漫画よ!」
「あたしの熊ちゃんのぬいぐるみよ!」
「…………」
「…………」
「…………」
アホか!!
女ってのはこんな面倒な生き物なのか!?あんなもののために戦争までするのかよ!?
うちは…そんなことないよな?多分。
「えっと、お姉様、マンガってなんです?」
「ねえちゃん、ぬいぐるみってなに?」
「知らなくてもいいわよ、人間の脳に悪影響を与える本とおもちゃなのよ?」
「こ、怖いものをもっているのですね、春ねえ様は。」
「千月!今のは聞き捨てならないわ!あれはいまの台湾にとってどれだけの価値があるのか知らないの!?」
「悪影響ってなによ!あたしの熊ちゃんに悪口をするな!」
「あっ!すみませんすみません!」
「そういえば嚮後様、ハチミツ刑ってなんでしょうか?すごく気になります。」
「いいこと聞いたねゆうちゃん、あれはあたしの新発明なの、全身をハチミツで塗り尽くし、ネバネバで超気持ち悪いでしょう?さらに熊ちゃんと一緒に閉じ込み、全身舐められるって、どう?怖いでしょう、しかも死なないから、いい処罰だと思わない?」
イヤ死ぬだろうが!?さらにいうとハチミツはクマの好物っていうのも誤解だぞ!!
「わぁーー、怖いですね…」
「お前ら、会議はどうした?」
「うっ…、済まない天上、確かにこんなことをする場合じゃなかったわ。」
「ふん!」
「あーはははっ……」
「では話を戻そう、これからはどうするつもり?」
「まず聞きたい事があります、多分春ねえしかわかりません。」
「うん?」
「嘉義城にいる氷人を紹介してくれませんか?」
「…………」
「ダメ?」
「私が知ってるいるのは一人しかないよ?」
「え?確か数人いますよね?まさか春ねえまでも、一人しか…」
「残念だけど、本人が伏せているのなら、流石に見分けが付かないのでね、昔のDNA検査ならできるかもしれないが、設備がないのでそれもできないわよ。」
「では一人だけでもいいです、紹介してください。」
「それについでは、天上さんに聞いてみよう。」
「天上さんが?」
「ああ、我の知人だ。」
なるほど、春ねえも多分天上から聞いたな。
「…天上さん、ダメ?」
「仕方ない、だが、会えるのは千月、お前だけだ、済まないが、これはもう最大の譲歩だ。」
「そうですか…」
ここまで保護しているのか、もしかして、天上の妻と何か関係が…?
「では後でよろしくお願いします、天上さん。」
「ああ。」
「千月、これからどうするつもり?私のできることない?」
「ありがとうございます、春ねえ、しかしこれ以上迷惑を掛けたくありません。」
「そうか、それもそうだな、将来敵対関係になるかもしれない相手に、これ以上貸しを作る訳にはいかないか。」
「そ、そんな!私は春ねえと敵対するなんて…」
「可能性はないっと言い切れるのか?君の目的は台湾制覇じゃない?」
「そうです、しかし相手の出方次第に、敵対関係にはならないのかもしれません、例えば…」
「降伏か?それとも同盟か?」
「はい…」
「ないね、ないわそんなの。」
「ど、どうしてですか!?」
「まあ、いまの君はただの一般人だ、理由を知りたければ、私と同等の立場になれ、もっとも、出来ればの話だけどね。」
「……絶対、なってみせます!」
「確かに君は凄い人だ、雲林の話も全部聞いたしな、それについでは感謝する、ただし戦いの才能と人々を導く資質は別物よ?」
「やってみなければわかりませんよ!」
「そうだね、いいでしょう、ただしこれだけは覚えておけよ?もし君は本当にどこかの領主になって、この嘉義、雲林に足を踏み入るつもりなら、どんな理由でも、必ず追い出して見せるわ、降伏か同盟など、絶対にない!」
「そんな…」
「もちろんセント、嚮後さん、あと天上さんも、その時が来たら、あなた達はもう私の敵よ、例え相手があなた達だとしても、この地を絶対に守り抜くわよ?どんな手を使ってもだ!どう?後悔するならいまのうちよ?」
「そうか、わかった、異論はない。」
「姫様…、自分は…姫様と戦えません…」
「ちっ、この女、またかっこいい事を言いやがって!」
「セント、大丈夫です、私を信じてください。」
「…千月様。」
「話はここまででいいでしょう?ここはもう、君の居るべき所ではない。」
「わかりました、これ以上何を言っても、多分無駄だと思います、私の決心、これからの行動で証明してみせます!」
「千月、いくぞ、その氷人を紹介してやる。」
「はい…」
「そうだ天上さん、彼女も、出来れば連れて行ってくれ。」
彼女?さっきも言ったな、つまりその氷人のことか?
「…何故だ?危険だ。」
「さっきの話、聞いてないの!?もし天上さんが攻め込んて来たら、私はどんな手でも使うつもりよ!」
「なに…?」
…え?天上がいきなり、凄まじい気圧が発せられた、これは…殺気か!?錬火と戦う時以上の殺気だ!
「……っ、ま、まさか天上さん、ここで私を…殺すつもり?」
「て、天上様!なりません!姫様のご恩を忘れましたか!?」
セントが春ねえの前に立ち、身を守ってる。
「恩だと?逆だろ、確かに我に仕事を与え、あの子に安住の地を用意したのは苓蘭だ、だが我はそれ以上の働きをした、我はもうこれ以上付き合えん、我の願いを叶えてくれると言い、ここまで付き合うのだぞ、それがどうした?もう5年も過ぎたぞ!」
なに?つまり天上はただ雇われているだけか?つまりここを守る理由も、あの氷人を守るためか?道理で雲林が落とされてもどうでもいいって言った、戦争に参加しない、嘉義城だけ守る理由もそれか。
「…………」
「いいだろう、あの子を連れていくぞ、千月、ついてこい。」
「て、天上様…」
天上は応接室から立ち去った、嚮後と佐佑も一緒に出ていった。
「…セント、まさかこんなことになるなんて…、すみません。」
「いえ、千月様の問題ではありません…」
「セント、まさか私との敵対を恐れて、ここに残るつもりじゃないでしょうね?」
「そ、それは…」
「セント!しっかりして!」
「ち、千月様…」
「セント、あなたの覚悟はこの程度なの?こんな女々しい感情に縛られては、どうやって大事を成せるのか!?この程度の人間が付いてきても、足手まといになるだけよ!こんな仲間、いらないわ!」
ち、千月…、一体なんてことを…
「そうですな…、千月様の言う通りです…」
「分かればいい、さてどうする?私と一緒に、天下を取ろうか?」
「はい!それはこのセントラルの、長年の夢ですぞ!」
「ではセント、この時から、あなたはもう私のものよ!」
「はい!」
「裏切りなんて絶対に許さないわよ!」
「はい!改めて決心がつきました、このセントラル、千月様に付いていきますぞ!」
「よろしい!」
す、すげー…、精神攻撃か、今度こそ本当に決心が付いたようだ、セントはこんな覇気溢れた人間に弱いからな。
「千月…セントのこと、ありがとう、そして、さようなら、出来れば、二度と会うことがないように…」
「春ねえ…短い間ですが、今まで…ありがとうございました!」
千月は、春ねえに深いお辞儀をした。
「千月…さん、あなたのことを恨みます、たったの一ヶ月で、私が長年慕っている、大切な方を奪い、その上唯一の親友だった幼馴染も奪われました。」
「……っ!」
「セントも…私にとっては、父の代わりのような存在でした、これは私の望みでもありますが、まさかこんな形で…」
「姫様…」
「春ねえ…」
「もう行って、二度と戻さないで、早く!」
千月は頭を上げ、セントに退室の指示を下した、そして最後、千月は扉から出る前に、もう一度春ねえにお辞儀をした。
部屋に残された、春ねえのその顔、そして…涙、それはうちの春ねえに対して、一番深い印象だった。
やはりこの人は勇者だ、自分の守りたいものに、なにがあっても絶対に屈しない、その強い意志、そして卑怯な手を使いたくない潔さ、本当に、勇者そのものだ。
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