3046 決別



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 翌日、全員で春ねえと初めて出会ったあの応接室で、春ねえへの報告と情報交換を行った。


「そうか…、天上さんまでも…」


「ああ、お前も知ってるだろ、我の願いを。」


「うん…、その願いを叶える目処が付いたら、ここから立ち去るって。」


「そうだ。」


「しかし天上さん、あなたまでいなくなったら、みんなに大きな不安をもたらすのでしょう、もちろん…私も…彼女も…。」


 彼女?だれだ?


「我らの目的は、先程も言ったろ?」


「ええ、確かにそれを成し遂げたら、安全も確保されるでしょう、しかしその保証はどこにあるの?もし失敗し、天上さんを失ったら、私達はどうなるか…」


 何故か、春ねえは弱気になっている、こんな性格の人間ではないと思うが…、多分個人的に、天上がここからいなくなることを嫌いだろう、好きだし。


「春ねえ、すみませんが、一ついいかしら?」


「なんだい?千月。」


「確かに、台湾全土を統一することについで、保証など出来ません、しかしやらなければなりません、これはきっと、ここだけではなく、全台湾の人々も望むことです。」


「そういえば、初めてここで会った時、確かこう言ったよね?人々を纏める人がいないかって。」


「そうです、それはすなわち…」


「英雄…か。」


「そうです、英雄です、この混乱した世界には、人々の希望と未来を全部背負える、英雄が必要です、そして私達は…」


「君達は、その英雄になりたいっと?」


「そうです!」


「……そうか、よかったね、セント、あなたも遂に、長年待ち続けた人物と出会えたのね?」


「はい、姫様、自分は千月様と共に、この偉業を成し遂げたいのです、そして大きな栄光と名誉も掴みたいのです。」


「そうか…、遂に、ここから歩き出す時が来たのね…」


「はい…、姫様、ご容赦を、そして何卒、お許しを…」


「もちろん許すわ、元よりそのつもりだけどね、行ってらっしゃい、セント。」


「はい…、ありがとうございます、姫様。」


「嚮後さんは?どういうつもりなの?」


「ア、アンタと関係ないでしょう!?」


「そうか、まあ好きにすれば?しかしオヤジの方は?まだ言ってないでしょう?」


「い、言ったら監禁されるじゃないか!言えるか!!」


 わーー、ここまでするの?あの領主さん、筋金入りの親馬鹿だな。


「まあいいけど、せいせいしたわ、あなたみたいな、嫌がらせしかできない邪魔者がいなくなったら、寧ろ助かったよ。」


「なっ!アンタ!喧嘩する気!?」


「とんでもない、あなたみたいな馬鹿力女と喧嘩するなんて、こっちの品位も下がっちゃうわよ。」


「アンタねっ!!」


「あっ、あわわーー、お、落ち着いてください!こんなことをする場合ではありません!」


「「こんなことってなによ!!」」


 はあ…、この二人、実は仲がいいじゃないか?


「す、すみません…」


「落ち着け、喧嘩なら他所でやってくれ。」


「……天上さんがそういうのなら。」


「残念ですな、久々に姫様とお嬢様の喧嘩をみせて貰いたいものですな!」


 セントのやつの大概ひどいな!


「そ、そういえば、お二人は、どうして喧嘩を?」


「…些細なことよ。」


 空気読めよてめえ、こんな時で聞く!?


「何が些細だよ!あたしにとって死活問題でしょうが!」


「ふん、なにいってんたか、あなたこそ、勝手に私の宝物を持ち出すだけでも許さないことよ、その上まさか破れるなんて!」


「アンタだってあたしの宝物を壊したじゃないか!」


「え、えっと…、宝物って、一体なんのことでしょう?」


「私の漫画よ!」


「あたしの熊ちゃんのぬいぐるみよ!」


「…………」


「…………」


「…………」


 アホか!!


 女ってのはこんな面倒な生き物なのか!?あんなもののために戦争までするのかよ!?


 うちは…そんなことないよな?多分。


「えっと、お姉様、マンガってなんです?」


「ねえちゃん、ぬいぐるみってなに?」


「知らなくてもいいわよ、人間の脳に悪影響を与える本とおもちゃなのよ?」


「こ、怖いものをもっているのですね、春ねえ様は。」


「千月!今のは聞き捨てならないわ!あれはいまの台湾にとってどれだけの価値があるのか知らないの!?」


「悪影響ってなによ!あたしの熊ちゃんに悪口をするな!」


「あっ!すみませんすみません!」


「そういえば嚮後様、ハチミツ刑ってなんでしょうか?すごく気になります。」


「いいこと聞いたねゆうちゃん、あれはあたしの新発明なの、全身をハチミツで塗り尽くし、ネバネバで超気持ち悪いでしょう?さらに熊ちゃんと一緒に閉じ込み、全身舐められるって、どう?怖いでしょう、しかも死なないから、いい処罰だと思わない?」


 イヤ死ぬだろうが!?さらにいうとハチミツはクマの好物っていうのも誤解だぞ!!


「わぁーー、怖いですね…」


「お前ら、会議はどうした?」


「うっ…、済まない天上、確かにこんなことをする場合じゃなかったわ。」


「ふん!」


「あーはははっ……」


「では話を戻そう、これからはどうするつもり?」


「まず聞きたい事があります、多分春ねえしかわかりません。」


「うん?」


「嘉義城にいる氷人を紹介してくれませんか?」


「…………」


「ダメ?」


「私が知ってるいるのは一人しかないよ?」


「え?確か数人いますよね?まさか春ねえまでも、一人しか…」


「残念だけど、本人が伏せているのなら、流石に見分けが付かないのでね、昔のDNA検査ならできるかもしれないが、設備がないのでそれもできないわよ。」


「では一人だけでもいいです、紹介してください。」


「それについでは、天上さんに聞いてみよう。」


「天上さんが?」


「ああ、我の知人だ。」


 なるほど、春ねえも多分天上から聞いたな。


「…天上さん、ダメ?」


「仕方ない、だが、会えるのは千月、お前だけだ、済まないが、これはもう最大の譲歩だ。」


「そうですか…」


 ここまで保護しているのか、もしかして、天上の妻と何か関係が…?


「では後でよろしくお願いします、天上さん。」


「ああ。」


「千月、これからどうするつもり?私のできることない?」


「ありがとうございます、春ねえ、しかしこれ以上迷惑を掛けたくありません。」


「そうか、それもそうだな、将来敵対関係になるかもしれない相手に、これ以上貸しを作る訳にはいかないか。」


「そ、そんな!私は春ねえと敵対するなんて…」


「可能性はないっと言い切れるのか?君の目的は台湾制覇じゃない?」


「そうです、しかし相手の出方次第に、敵対関係にはならないのかもしれません、例えば…」


「降伏か?それとも同盟か?」


「はい…」


「ないね、ないわそんなの。」


「ど、どうしてですか!?」


「まあ、いまの君はただの一般人だ、理由を知りたければ、私と同等の立場になれ、もっとも、出来ればの話だけどね。」


「……絶対、なってみせます!」


「確かに君は凄い人だ、雲林の話も全部聞いたしな、それについでは感謝する、ただし戦いの才能と人々を導く資質は別物よ?」


「やってみなければわかりませんよ!」


「そうだね、いいでしょう、ただしこれだけは覚えておけよ?もし君は本当にどこかの領主になって、この嘉義、雲林に足を踏み入るつもりなら、どんな理由でも、必ず追い出して見せるわ、降伏か同盟など、絶対にない!」


「そんな…」


「もちろんセント、嚮後さん、あと天上さんも、その時が来たら、あなた達はもう私の敵よ、例え相手があなた達だとしても、この地を絶対に守り抜くわよ?どんな手を使ってもだ!どう?後悔するならいまのうちよ?」


「そうか、わかった、異論はない。」


「姫様…、自分は…姫様と戦えません…」


「ちっ、この女、またかっこいい事を言いやがって!」


「セント、大丈夫です、私を信じてください。」


「…千月様。」


「話はここまででいいでしょう?ここはもう、君の居るべき所ではない。」


「わかりました、これ以上何を言っても、多分無駄だと思います、私の決心、これからの行動で証明してみせます!」


「千月、いくぞ、その氷人を紹介してやる。」


「はい…」


「そうだ天上さん、彼女も、出来れば連れて行ってくれ。」


 彼女?さっきも言ったな、つまりその氷人のことか?


「…何故だ?危険だ。」


「さっきの話、聞いてないの!?もし天上さんが攻め込んて来たら、私はどんな手でも使うつもりよ!」


「なに…?」


 …え?天上がいきなり、凄まじい気圧が発せられた、これは…殺気か!?錬火と戦う時以上の殺気だ!


「……っ、ま、まさか天上さん、ここで私を…殺すつもり?」


「て、天上様!なりません!姫様のご恩を忘れましたか!?」


 セントが春ねえの前に立ち、身を守ってる。


「恩だと?逆だろ、確かに我に仕事を与え、あの子に安住の地を用意したのは苓蘭だ、だが我はそれ以上の働きをした、我はもうこれ以上付き合えん、我の願いを叶えてくれると言い、ここまで付き合うのだぞ、それがどうした?もう5年も過ぎたぞ!」


 なに?つまり天上はただ雇われているだけか?つまりここを守る理由も、あの氷人を守るためか?道理で雲林が落とされてもどうでもいいって言った、戦争に参加しない、嘉義城だけ守る理由もそれか。


「…………」


「いいだろう、あの子を連れていくぞ、千月、ついてこい。」


「て、天上様…」


 天上は応接室から立ち去った、嚮後と佐佑も一緒に出ていった。


「…セント、まさかこんなことになるなんて…、すみません。」


「いえ、千月様の問題ではありません…」


「セント、まさか私との敵対を恐れて、ここに残るつもりじゃないでしょうね?」


「そ、それは…」


「セント!しっかりして!」


「ち、千月様…」


「セント、あなたの覚悟はこの程度なの?こんな女々しい感情に縛られては、どうやって大事を成せるのか!?この程度の人間が付いてきても、足手まといになるだけよ!こんな仲間、いらないわ!」


 ち、千月…、一体なんてことを…


「そうですな…、千月様の言う通りです…」


「分かればいい、さてどうする?私と一緒に、天下を取ろうか?」


「はい!それはこのセントラルの、長年の夢ですぞ!」


「ではセント、この時から、あなたはもう私のものよ!」


「はい!」


「裏切りなんて絶対に許さないわよ!」


「はい!改めて決心がつきました、このセントラル、千月様に付いていきますぞ!」


「よろしい!」


 す、すげー…、精神攻撃か、今度こそ本当に決心が付いたようだ、セントはこんな覇気溢れた人間に弱いからな。


「千月…セントのこと、ありがとう、そして、さようなら、出来れば、二度と会うことがないように…」


「春ねえ…短い間ですが、今まで…ありがとうございました!」


 千月は、春ねえに深いお辞儀をした。


「千月…さん、あなたのことを恨みます、たったの一ヶ月で、私が長年慕っている、大切な方を奪い、その上唯一の親友だった幼馴染も奪われました。」


「……っ!」


「セントも…私にとっては、父の代わりのような存在でした、これは私の望みでもありますが、まさかこんな形で…」


「姫様…」


「春ねえ…」


「もう行って、二度と戻さないで、早く!」


 千月は頭を上げ、セントに退室の指示を下した、そして最後、千月は扉から出る前に、もう一度春ねえにお辞儀をした。


 部屋に残された、春ねえのその顔、そして…涙、それはうちの春ねえに対して、一番深い印象だった。


 やはりこの人は勇者だ、自分の守りたいものに、なにがあっても絶対に屈しない、その強い意志、そして卑怯な手を使いたくない潔さ、本当に、勇者そのものだ。



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