2038 計算違い

「どうしてあんな事をするんですか!!」


「責任取れよ!ねえちゃんを返してよ!」


 …うん?声が…聞こえてきた、佑芳と佐方か、一体何が起こった?


 千月?うん?なにも見えない、真っ黒だ、どうしたのだ?


「ごめん…ごめんなさい…こんなつもりじゃ…」


 うん?今度は嚮後の声か、もう起きたのか?早いな、さっき気絶したばかりじゃないか。


 うん?気絶?なぜ嚮後が気絶しちゃったの?


 ……あ、さっきが千月と戦っているからな、そして千月は…うん?思い出せない。


「すみません、天上さん、流石にここまでの重体だと、私の手に負えないわ。」


 ……春ねえ?つまりここは、嘉義城内か?


「……そうか、お前までも治療できないのか、厄介なことになった。」


「出来る限りの事をするわ、しかし嚮後さん、あなたまた子供みたいな行動をしたのね、もう25才よ?いつまで子供で居るつもり?」


「……ああ、まさかこんなことになるなんて思わなかったわ、今回に限って、確かにあたしの過ちだわ、まさか…、こんな…」


 あん?一体何を言っている?


「クスッ…お姉様…、死なないでください…目をあげてください!うぅー」


「絶対…、絶対に許さないぞ!ぶっ殺してやる!」


 え?ええ?何が起こった!?なぜ佐佑が…


 え?か、体が…い、痛い…あ、ああ!


「さ…ちゃん…」


「っ!!」


「お、お姉様!お姉様!!」


 光が…差した…ゆっくりと、どんどん強くなった光…


「千月様!目をあげたのですね!」


「さ…ちゃん、嚮後さんの…せいじゃないわ…うぅ…。」


 うぅーああぁー、痛いよ…イタイイタイイタイイタイ…!


 ああ…思い出した、千月はまた、あんなことを…


「嚮後さんを責めないでね、さーちゃん、こんなことになるのは、お姉さん自身の…、責任なの…。」


「し、しかし!」


「佐方様!千月様の話をよく聞いてください!」


「さーちゃん落ち着いて!そんなことをしたら、お姉様が悲しむだけですわよ!」


「あ、ああ…ごめん…。」


 あ…見えるようになった…あ、赤い…痛い…、赤い天井、赤い…世界…


「千月、目を開けちゃダメ!」


 春ねえ…何を…?


 うぅー、目を閉じたみたいだ、みえなくなった…イタイ…


「お姉様!」


「千月、よく聞いて、今の君は絶対動いてはダメだ、目も開けないて。」


「…春ねえ…」


「口も動くな!喋るな!」


「…………」


「お、お姉様は一体どんな状態ですか!?もう起きたじゃないですか!?」


「天上さん、皆さんも、済まないが、ここから出してくれないかな?後は私に任せてね。」


「ああ、頼む。」


 ああ…みんな、行っちゃったようだ、眠い…、イタイ…、もういっそ、死んた方が…



 #



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 ……うぅ……


 意識が…戻ったようだ。


 あれ…いきなり、20日も過ぎた?


「あ、いーちゃんおはよう御座います。」


 またそんな呑気な…


『…なあ、千月、あれからどうなったか?』


「よかった!!やっといーちゃんの声が聞こえた!久しぶり!」


『ああ、本当に、死ぬかと思った。』


「ゴメンねいーちゃん、私、またやっちゃった。」


 ああ、そうだな、千月のやつ、まさか50%も突破された。


 痛みは…もう感じない…20日も寝たか、回復が早いな。


『ああ、お願いだから、もう二度としないでくれ。』


 もう二度と、危険に飛び込まないてくれ、勘弁してくれ。


「うん、流石に今回はいい教訓になりました、でも大丈夫よ、もう、二度と…」


『それはよかった、それで?なんであんなことをするの?子供の喧嘩に自爆までするなんて、アホか?』


「うん…、実はいいことを思い付いちゃったけど、まさかこんな結果になるとは思いませんでした。」


 いいこと?まさかまた何かの計策を…?


『まあいい、それで?状況は。』


「うん…春ねえはすごいですよ、まさか回復系の超能力者だなんて。」


 なるほどな、つまりうちらを治療したのは春ねえか?


「それでね、天上さんよく看病しにきたのよ?ああ…このまま一生ここで寝てたいわ…」


『アホか!』


「あと嚮後さんも二、三回見に来たらしいですよ?」


『ああ、半分あいつの責任だしな。』


「あと、雲林がすごく危ない状態になったらしいですよ?」


『あん?そんなもんどうでもいい、うちらと関係のない事だ。』


「もういーちゃんったら…」


『体の方はどうなった?動けるか?』


「ええ、大分治りましたわよ、ただ足が…」


『あん?どうなってる?』


「エヘヘ、ゴメンね、いーちゃん、足が、壊れたようですよ?」


『あん?どう言う意味だ。』


「うん…春ねえの話ではね、もう、二度と動けませんの。」


 なっ…何を…言っている…


「ゴメンねいーちゃん、私、一週間前から目が覚めたの、いーちゃんはまだ寝ている時ね、うん…もう、一週間前からね、足の感覚が…なくなったのよ?エヘヘ…」


 ……冗談だろ?笑ってるし。


『千月、冗談をいってないで、早く氷人の情報を…』



「冗談じゃないもん!!」



『……千月。』


 千月が…いきなり、泣いた。


 足が…本当だ、足の感覚が、なくなった…。


『まさか…足が…』


「うぅー、ゴメンね…ゴメンね、いーちゃん、クスッ…、まさか、こんなことになるなんて…」


 ああ…何故だ…なぜ、こんなことになるんだ?


 なぜ、あんなことをするんだ?


『……もう…、治せないのか?』


「わからない…数日前から、嚮後さんはゆうちゃんとさーちゃんを連れて、台南へいったの、なんか、春ねえ以上の回復系超能力者がいるらしいの、でも…」


『つまり、まだ希望はある。』


「うん…ゴメンね、いーちゃん…、ゴメンね…」


『もういいんだ、起きたことに後悔しない、重要なのは反省と解決だろう?おまえのセリフだし。』


「うん…いーちゃんすごいね、前向きで、いつも客観的で。」


 そんなことない…


 うちだって、泣きたい、だが泣くことができない…


 もし…、本当に治せない、もう二度と立ち上がらない場合、これからはどうするかね……


 本当に一生も、この嘉義城で過ごせるのか?


 ああ…本当にそうなったら、それも仕方ない事だ、これからは何にも考えず、任務も目的も全部忘れて、ここで生活するのも、悪くないな。


 前向きで…考えよう…、ああ…そうしよう。



 #



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 バダンッ!


 うん?扉は開けられた、誰か入ったようだ。


「ねえちゃん!」


「こらさーちゃん!お姉様を起こしたらどうするんですか!」


「あっ…ごめん。」


「大丈夫よ、お姉さんもう起きたわ。」


「ねえちゃん!」


「お姉様!ただいま戻りましたわ!」


 佐佑はすぐ千月の傍に駆けつけた。


「お疲れ様、さーちゃん、ゆうちゃん、どうだった?」


「はい!お姉様、直せそうですよ!」


「ああ、すごい先生らしいぜ?もう連れてきた、いまは城の客室で休んでいるぜ!」


「そうか、二人とも偉いね、ありがとう。」


「はい…」


「…ねえ、あれからはどうしたの?」


「お、お姉様……」


「ねえちゃん…、僕、言いたくない。」


「ゆうちゃん、聞かせて?お姉さんは一ヶ月近くも寝ちゃったよ?この間に一体なにが起こったのか、知りたいの。」


「はい…」


 そして、うちらが倒れたあとからいままでの事は、佐佑から聞いた。



 うちらが倒れたあと、天上の指示に従い、嚮後と一緒に、この城に運ばれた、もちろん移動は佐佑頼りだ、見える範囲で交代にワープして、数分だけで嘉義城に戻った。


 ちなみに、あのワープを見たセントはびっくり過ぎて気絶寸前らしい、まあどうでもいいけど。


 嚮後は数時間だけで目が覚めたようだ、そしていきなり大暴れしたらしい、しかし千月の状況聞いたあと、すぐ収まった。


 千月は…、佑芳の話では、生きているかどうか怪しい状態だそうだ、全身血まみれ、皮膚と髪は大抵焼き焦がれ、特に足は文字通り溶けそうになった。


 目も、髪も、鼻も、全部血まみれ、どうやら全身の血管は破裂しているようだ。


 さすがにここまでの重体だと、イブのサポートがあっても治せないだろう、もう少し遅かったら…、うちらはもう…、ここで喋ることもできないだろう。


 幸い春ねえはかなりの回復系能力の使い手のようだ、外見だけは、元通りに治すことができた、そう、外見だけは…。


 春ねえの話によると、内臓はめちゃくちゃ、足の骨は粉砕されたようだ、内蔵はある程度回復できたが、さすがに粉砕された骨までは治せないだそうだ。


 一番厄介なのは、ちょうどその時、雲林の戦況はさらに悪化した、春ねえはこれ以上うちらに時間を費やすこともできなくなった、そして嚮後の提案で、台南にいる、春ねえより強い回復能力を持つ医者を求めにいった、しかし佐佑はあいつのこと信用できない、だから千月のことをセントに任し、監視として一緒に付いていった。



「そうか…、ありがとう、苦労したのね?」


「お姉様…お願いです、もう二度とあんなことをしないでください!」


「はいはい、お姉さんも流石に怖くなってきたわ。」


 ああ、勘弁してくれ、60%だなんてマジで自殺だ、それ以上の出力は…想像もしたくない。

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