2039 天上の目的
C.E.2063_0526_1414
内蔵時計は、無機質で、ゆっくりと、動いている。
この病室は、というか普通の部屋、今千月と、この変な医者しかいない。
なんとこの医者さん、死ぬ寸前の人すら生き返らせるらしいぞ?だから伝説となった。
変な医者さん、名前不明。
真っ白な薄い髪、男性の老人だ、多分70才以上、いやらしい顔付き、メガネ、太い、医者らしくない黒いシャツだけが着ている。
もう、2時間も過ぎた、この医者さん、本物なのか?さっきから千月の足を、太ももを弄って、触って、撫で回して、超絶いやらしい。
2時間もだぞ?まさかこいつ、ただ千月の脚を見惚れただけじゃねえか?おじさんだし。
「ふん…、千月っと言ったな?」
「はい…」
「お主、この重体は一体どうやって?」
「…………」
「……言いたくないようじゃな。」
「先生…治せますの?」
「もちろん治せるさ、この程度ワシにとって造作もない。」
「ほ、本当ですか!!」
「ああ、お主の脚の神経と筋肉、骨などの構造を一通り調べた、問題ないじゃろ。」
「そ、そうですか…てっきり…」
おお?千月もうちと同じ勘違いをしていたな?おじさんだし。
「骨は折れた、というより、粉砕された、神経も千切れた。」
「わー…、聞くだけでも超怖い…」
「見るか?」
「え?」
医者さんは両手で、千月の足首を持ち上げると…
「ひぃぃぃぃーー!?」
あ、足が…まるで軟骨生物のように、ありえない方向へと曲がった。
こんなことされても全然痛くない、いや、なにも感じない。
「ここまで綺麗に粉砕された骨は、見たことないぞ。」
「もうそんなことしないでくださいよ!気持ち悪いんです!」
自分の足なのに、ひでぇな。
「しかし何故か筋肉だけ、元に戻った。」
ああ?筋肉だけ?もしかして春ねえの仕業か?
「お陰で辛うじて足の原型を保ってるじゃのう。」
「あの…こんなの…本当に治せますの?」
「ああ、問題ない、ただどうやってこんな状態になったのか、非常に気になるのう。」
「もういいですよそんなこと、ただの事故です。」
「では、今ここで、治療に入るかね?」
「え、ええ…」
「本当に?」
「な、何が問題でも?」
「問題は二つあるじゃな。」
「…なんですか?」
「まずは、ワシの能力なら、この治療作業は約1時間弱、この間、お主は普通の人間では耐えられない程の痛みを耐え続けなければならん。」
「そ、そんな…」
「ワシの能力は人体組織の透視、検査、そして再生、再構築じゃ、じゃがそれはあくまでその人の治癒能力を千倍万倍に引き上げることに過ぎん、つまり加速じゃ、その過程は激しい細胞運動になり、元々自然修復できない部位までも再生できる、だから自然回復もなくなった死人ならお手上げじゃ、そして損傷程度によって、痛みの程度も変わる、お主なら、確証はないが、体が完治できても、精神的には耐えるかどうか…」
「そんな…痛いのはいやです…」
「そして二つ目は、人間ではありえない肉体能力も、治療後は元通りになる、肉体変異系の超能力者にとっては毒にもなる、能力が失われるからだ、あなたの肉体は普通じゃが、あなたの超能力に何らかの影響を与えるかどうかはわからんぞ?」
「それについでは大丈夫です。」
「そうか、では始めるか?」
「ちょ、ちょっと待って…、心の準備が…」
「拒否してもいいが、ただワシは二倍の治療代も貰ったからな、このまま何もせず帰す訳にはいかん、最低限の治療をさせてもらうぞ。」
「最低限って…?」
「骨だけが再生してやる、それなら痛みもないだろう、神経は切れたままだからな。」
「そんな…それじゃ意味がないじゃないですか?」
「そうじゃな、動けないのは相変わらずじゃ。」
「……先生。」
「うん?」
「麻酔薬とか、ないんですか?」
「貴重品じゃ、20年前のビーム事件後、怪我人が多すぎて、隔離によって成品はおろか原料すらも輸入できなくなる、原料の自力生産なら出来るが、やはり品薄じゃ。」
「そ、そんな…」
「残念じゃが、麻酔薬はもう王族か貴族しか使えないものになったのじゃ。」
『千月、あきらめろ、このまま一生歩けないより、この一時の痛みを耐えた方がいい。』
そうだ、やはりこのままではいられない、ここで止まることは、死と同義だ、だったら賭けるしかない、千月の精神力に。
「……先生。」
「なんじゃ?」
「ゆうちゃん…佑芳と佐方を呼んでくれませんか?」
「ああ?何故じゃ。」
「もし、私が耐えきれなくなったら、最後に…あの子達が側に居てほしい。」
「そうか、覚悟が出来たようじゃな?わかった。」
#
そして、治療が始まった…
「それではお姉様、私とさーちゃんはお姉様のお側で待っています、どうか…どうか…」
「ええ、ありがと、もし、私は…」
「千月。」
「え?」
…え?天上がまたいきなり現れた!
「て、天上様!ここは立ち入り禁止ですぞ!」
「っ…、済まない、まさか治療中だったとは知らなかった。」
「天上様、一体何の御用で?」
「ああ、話は聞いた、麻酔薬がもってきた、これで痛みも軽減出来るだろう。」
なに?貴族専用じゃねえか!?
「おお!素晴らしい、それなら話は早い、ちょっと待ってくれ。」
そして医者さんは麻酔薬を持って、部屋から出ていった。
「…済まないな、千月、では…」
「待ってください!」
「…なんだ?」
「天上さん、まさかこの医者さんの治療代も、天上さんが…」
「ああ、金銭的には結構余裕があるからな、苓蘭に頼ることも出来るが、雲林の戦争はもう緊迫状態だ、国庫にはこれ以上の負担を掛かると不味いからだ。」
国庫レベルだと?まさかとんでもない金額が…
「ありがとうございます、天上さん、私の為に、色々と…」
「気にするな、お前を失う訳にはいかないからな。」
「どうしてです?」
「…………」
「最初からおかしいと思いました、どうして見ず知らずの私達を助けたのか、どうして春ねえに紹介し、さらにとんでもない援助をくれたのか、そして今も…、その理由はなんですか?」
「……佑芳と佐方はここにいるぞ、言っていいのか?」
「大丈夫です、この子達は私の家族です。」
「ねえちゃん…」
「ああ…お姉様。」
な、何言ってんだ…?バレたらヤバイじゃないか?
「いいだろう、では単刀直入に言おう。」
天上は、こっちに向いた。
「お前、外側から入った人間だな?」
「なっ……」
なんだと!?どうして!?どうやってわかった?
「まずは、お前の衣装だ、そのデザインは確かに普通の仕事着だ、今の台湾でも結構流通しているが、材質は普通じゃないな。」
「…え?」
どういうことだ?
「お前のあの加速能力、二回も見たが、通常なら、あの稲妻より凌駕した速さでは、どんな材質の衣装でも溶けるだろう、だがお前のそれはここ数回の戦いを経ても、破損など一切しない、そんな技術、今の台湾ではありえん。」
……え?そういえば気づいてなかった、確かにおかしい、体も溶けたのに…
ってことは、多分赤毛の特製じゃないかな?もしかしてリボンも?
「お前らがあのハゲワシと戦った時、お前の加速を見たあとすぐ疑った、だから助けた。」
「それだけで…」
「無論それだけではない、その後、お前の言動には不審な点が多くあった。」
「不審?」
「ああ、例え田舎だとしても、そこまでの世間知らずとはありえん、もう十数年も主要交通手段の馬車すら乗ったことない、普通になりずつあった超能力にも興味津々な態度、自分にも超能力があるに関わらず、まるで初めて見たような数々の言動。」
「…………」
不味い、とんでもなく不味い。
そういえば、どうして今まで気が付かなかったのか?テレビなど、千月の年齢から考えればありえないだろう。
「天上さん、凄い観察力ですね。」
「いや、我はそこまでの観察力がない、お前と比べれば雲泥の差だ、ただお前の言動は不審過ぎた、長くお前の身辺にいる人間なら、誰でもすぐ気付くだろう、幸い今はこんな子供と大雑把なセントしかいない、まだ気付かれていないだろう。」
「……そうだとしても、どうするつもり?まさか出る方法を…」
「いや、それについでは興味がない。」
「だったらなんです?」
「我は隔離から今まで、長年の願いがあった、その願は、お前なら叶えてくれるかもしれん。」
「どういうことです?」
「あの隔離も通れる程の技術なら、恐らく我の願いも叶えるかもしれん。」
「つまり、私の事を…」
「そうだ、はっきり言おう、利用だ。」
「…っ。」
「無論無償ではない、もしお前は本当に我の願を手助けしてもらえるのなら、我のこの力、未来永劫、お前のために振るおう、我の命すら、その願を叶えた暁には、お前のものとなろう。」
話は大きくなったぞ!?
非常に魅力のある話だ、こんな戦力、必ず今後の力となるだろう、だがまだ信用できない、会って数日しかない人間にはどうして信用出来るか…
「…話はわかりました、しかしその答えについでは保留します。」
「そうか、いいだろ。」
「…………」
ちょうどその時、医者さんは戻った。
「準備できましたぞ、さあ天上様、どうかご退室を…」
「ああ、頼む、必ず、治してやってくれ。」
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