2037 諸刃の剣

 C.E.2063_0505_1812



 はあ……、一難去って、また一難か…。


 この一騎討ち、何故か天上も異論がないようだ、こんなことをする時間もないのに…


 嚮後は数歩下がって、もう臨戦態勢に入ってる、やる気満々だ。


「千月さん、準備はいい?」


「はあ……どうしてこうなるのよ…私、超能力者じゃないし…」


「はあ?アンタ、超能力者じゃない?」


「あ、いやいや、正確には…戦闘出来る超能力が持っていません。」


「あきらめろ、お前のような飛び抜けた才能を持っている人間は、嫌でも持ち出されるのだ、我と、このセントも、そしてあの嚮後も同じだ。」


「ねえちゃん頑張って!」


「お姉様気を付けてくださいね!」


「もう…どうなってもいいよ…、いーちゃん、さーちゃん、私の鞄、しばらく持っていて。」


「いいぜ。」


「了解ですわ、お姉様。」


 そして大きいリュックは佐方が、小さい鞄は佑芳がそれぞれに預けた。


「超能力者じゃない?どうなってもいいわ、アンタが低位超能力者なら都合がいいわ、この戦い、絶対取って見せる!さあ、立ち会い人もいっぱいいるから、始めましょうか。」


 げっ、いつの間に、兵士達に囲まれた、味方も敵も…


「はい……」



 そして戦いは、また始まった…


「では、いくよ!」


「…っ!」


「まずは小手調べよ、あたしの召喚に答えよ!ファイアエレメント!」


 嚮後の両手がいきなり…火に覆われた!


 風じゃないのか!?さっきは風の応用とか何とか言ってなかった!?


 あとなんだよ、その中二病全開の技名は!魔法の真似事か!?


「ふえーー!?風ではありませんの!?」


「ふっふっふ、あたしの能力は、元素操作よ、人呼んで、エレメンタルマスター!」


 無敗の戦姫じゃなかったっけ?


「さあ行くよ!ファイアエレメントシュート!」


 嚮後の両手に纏っている火炎は、まるで弾丸のように飛んてきた!



《イブ・システム、身体機能サポートプログラム、起動しました、出力10%》



「え?ええー!よっと!」


 あ、避けた、威力はわからんが、あのスピードでは当たらないだろう。


 10%だけで行けるなら問題ないな、体の負担も少ない。


「……避けたか、アンタ、回避能力系の超能力者みたいね。」


「い、いやーーははっ、たまたまですよ。」


「戯れ事を!マシンガン!」


 ぬお!?れ、連射だ!マジでマシンガンみたいだぞ!



《出力15%》



「よっと、ふん、よいしょっと!」


 まただ、あのロボットと戦う時みたいに、雨のような弾幕は全部避けた。


「な…馬鹿な…」


「ち、千月様…まさかあんな攻撃を浴びても無傷…」


「ふんっだ!嚮後さん、それだけ?楽勝じゃん!」


 ああ!また性格が変わった!


「な、何が低位能力者なのよ!あの攻撃は、防げる人はいるが、避ける人間は初めて見たのよ!」


「いや…遅過ぎるし。」


「っ!ファイアストーム!」



《出力20%》



 また、周りの時間の流れが…全部遅くなった。


 千月にいる地面から、一筋の火炎の柱が伸び上がった、そして徐々に円周範囲で拡大していく…が、ゆっくりし過ぎて、難なく避けた。


「わー、陰湿ね、あなた、まさか足元でいきなり吹き出したねー!」


「う、うそ…即時発生の攻撃すらも…さてはアンタ、未来予測能力か!」


 何故か誤解はどんどん大きくなったぞ!


「くっ、ウォーターエレメント!ウォータープリズン!」


 今度は水か!マジでエレメンタルマスターだぞ!冗談かと思った!


「うおっと!これなに?中に封じ込めて窒息させる気?」


 大きな水の玉だ、中に封じ込められたら溺死じゃねえか!


「くっ、やはり即時発生魔法も通用しないか!」


 魔法!?魔法だって!?こいつどこまでの中二病だよ!もういい年なのに!


「もう終わったの?」


「舐めるな!サンターエレメント!サンターストーム!」


 だからそんな叫びはやめろよ!恥ずかしくないのか!?



《出力25%》



 え?こ、これ以上は!


『千月やめろ!これ以上やったらまた倒れちゃうぞ!』


 周りの時間がもっとゆっくりとなった。


 そしていかずちは、千月の頭に落ちて…


「うおお!?あっぶないねー!」


 くっ、いかずちだったら、25%でもギリギリか…


「あ…ありえない…雷撃だよ!?光速だよ!?アンタ本当に人間か!?」


 光速ってなんだよ!とんでもない誤解だぞ!!こいつ実はただアホか!?


 しかし誤解だとしても、雷撃はあのビームより数倍早いぞ。


『千月、雷撃は厄介だ、これ以上やったらこっちが先に自滅しちゃうぞ!早く仕留めろ!』


「ええーー?遊び足りないよーー。」


『てめえ!あんな痛みはもうごめんだ!うちのことも考えろよ!』


「ウィンドエレメント!ウィンドブーツ!」


 なっ、なんだと!風の衣!?


 嚮後の足の回りに、視認できるほどの強い風が纏った、そして…体がゆっくりと浮いた、まさか!


「ああっ!ずるい!!飛ぶのは反則!!」



《出力30%》



 げっ!また上がった!周りの時間はほぼ停止している。


 そして、千月は走った。


 千月は浮き始めた嚮後の隣まで走って、右手のフックパンチが、嚮後の腹に向かって一発!


「ぐふっ!?」


 時間が…戻った。


 嚮後は大きく吹き飛ばされた、そして地面に数回転したあと、そのまま倒れ込んた。


 20メートルくらい吹き飛ばしたな、浮遊状態が原因だろう。


 いまのは確かに入ったな、手応えがあった、千月は非力だが、女の肉体だけなら結構効くだろう。


「な、なにが…起こったんですか…?」


「さあ?」


「天上様!まさか天上様すらも…見えないのか!?」


「ああ、一筋の青い軌道しか見えないな、あの動きは多分稲妻より早いぞ。」


「ば…ばかな…、天上様すら見えない速度…、まさか千月様は…人間じゃない…?」



「ふうーー、終わったね。」


『ああ、だが反動はそろそろ来るだろう。』


 もう、あんな痛みはいやだったのに…


「…くっ…、ま、まだよ…うっ…!」


 …え?


「…え?まだ…倒れてないの?」


 やはり攻撃力がたりないのか!!


「ウィンドコート!」


 ああ!いきなり飛んた!?


 嚮後のやつ、今度は足だけではなく、全身も風の渦に纏った。


「ちっ、飛んたら届けないわ、お手上げよ。」


 こいつもかなり出鱈目な超能力を持っているんだな、もう4種類だぞ?まさか自然元素全部も操れるじゃないだろうな?


「うぅー、痛いわ…、こんな…ゴホッ、ゲホッゲホッ!くっ、こんな痛み、初めてだわ…。」


「そっか、だったらもっと味わおうか、美味いよ?」


「ふん!アンタも飛べるの?まさか…」



《出力60%》



 なっ!何しやがる!?


『千月!死ぬ気か!こんな子供の喧嘩に命掛けをすんな!!』


 千月はうちの警告を無視し、勝手に走った。


 周りの時間が、本当に止まったようだ。


 ロボットと戦った時は50%だけだ、今回は60%だぞ!入院だけじゃ済まないのだぞ!


 …うん?千月のやつ、何をしている?


 嚮後の真下で、嚮後を中心に、小さな円を描いたように、回り続けている…。


 …もう30秒過ぎた…いや、うちらの30秒は、外では1秒以下じゃないか?


 こんな状態で30秒も…し、死ぬ…


 そして千月はいきなり遠く離れた、続いて、時間の流れも戻った。


「え?な、何を…わー!ぎゃああああぁぁぁ!」


 嚮後の悲鳴。


 ああ、周りも次々と悲鳴が起こったな。


 嚮後を中心に、トルネードが起こった、風の螺旋だ。


 嚮後とその纏た風ごと飲み込まれ、その竜巻の渦に耐えきれなく、全身が凄まじい速さで回転している。


 人間、あんな速さで回転したら、下手をすれば死ぬぞ?


 幸いその竜巻の維持時間は3秒しかない、風の勢いが徐々に弱っていく。


 そして嚮後も地面に落下し、そのまま気絶した。


「ああ…自分は…一体何を見たのですか…」


「フフフ…素晴らしい…」


 ああ…褒められても嬉しくないぞ…、だって…、もう…


「ゴホッ…、ゲホッ…ゲホッ!」


 ああ…千月のやつ、血が、吐き出した。


「ゲホッ!うげっー!はっーはっー、ははっ…い、いーちゃん…ゴメン…ね…」


 バタンっ!


「ね、ねえちゃん!!」


「お姉様!お姉様!!」


「ち、千月様!!」


 ああ…声が、どんどん聞こえなくなった、痛い…、痛いよ…

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