2035 嚮後
一時間後、うちらは嘉義の布袋城南方、竜宮溪と八掌溪の間にいる廃墟の外周に着いた、ここからは歩行だな。
しかしこの雑草の高さ、半端ないな、これも異変の影響だろう、今日の風も強いし、歩き辛いな。
「でもどうして城に入らないの?確か籠城してますよね?なら戦場は城外ではありませんか?」
「違いますよ千月様、先程もいいましたが、これは戦争ごっこです、実は布袋城は何度も占領されています、しかし向こうはこれ以上深入りしません、占領されても、いつも数日だけで撤退されました、つまりただの嫌がらせです。」
「ええ!?だったら無視すればいいではありませんか!?」
「はっはっはっ、姫様はこういう方ですよ、喧嘩を売るなら必ず買う、回避か妥協など、これまで一度もありません、そして負けっぱなしでは民への示しもつきません、こういう方ですので、領民からの信頼も絶大ですよ。」
ああ、あんな勇者みたいな人間、一般人なら、その魅力に抗えないだろうな。
「さて、交渉はセントに任せよ、我らは少し距離を置き、敵本陣の外で待とう。」
「え?天上さんは参加しませんの?」
「生憎だが手加減には下手でな、我の出る幕ではない。」
ああ、天上の実力はまだわからないが、ヤバイやつに違いない、多分こいつが出れば、死傷者が免れないだろう。
とりあえず、うちらはもう廃墟の中に入った、この前にいる敵本陣に集中しよう。
貧相な本陣だ、仮設テントが多いが、小さいものしかない、まるで学校の遠足だ。
人数は…ざっとみれば1000人くらいか、しかも全員武器らしい武器が持っていない、なるほど確かに戦争ごっこだな、素手で殴り合っているのか?もしくは超能力頼りなのか?
「千月様、ここまでで結構です、これ以上巻き込むわけにはいきません。」
「でもセント一人だけでは…」
「確かに危険ですな、しかし千月様までも危険を晒すような真似はできません、確かに死ぬまでにはいきませんが、負傷されでも一大事ですぞ?」
「はい…」
《何者だ!》
「え?」
……え?女の声…?
《帰れ!5人だけで何をするつもり?》
いきなり、廃墟の中から声が聞こえてきた、大きなエコーだ、しかし敵本陣の方角ではない…?声は四面から出てきた感じだ。
「おっとこれはいけません、千月様、すみませんが、もう発見されたようですな、千月様は早く後退を…」
《答えろ!さもなくば全員ハチミツ刑を処っするぞ!》
ハチミツ刑ってなんだよ!超気になるじゃねえか!?
「また指揮官独りで前を出ているんですかな?何度言えばわかりますかね?本当の戦争なら、死にますぞ?指揮官が先にやられてはどうします?」
《なっ!セントラル!?》
「そうですぞ、嚮後お嬢様。」
突然、うちらの前に、一人の女性の姿が現した。
「アンタ何しにきたの!?」
「ほっほっほっ、嚮後お嬢様も結構上達しましたな、今のは風を操作して、声を運ぶ技ですかね?」
なるほど、この女も超能力者か。
「そうよ、あたしはこの三年間…って、こんなのいいのよ!どうしてセントラルがここにいるのよ!それに後ろにいるのは…天上ではないか!!」
「ああ、久しいな、我の目にも欺いたその技量、確かに上達したな。」
「あの3人は誰だ!女と…子供?」
「えっと、千月と申します、この子達は佑芳と佐方といいます、えっと…よろしくお願いします。」
「あ、ああ、ご丁寧にどうも、あたしは嚮後よ、よろ…じゃなくて!」
「えっと、きょうご…さん?」
嚮後。
かなり端正な顔造りだ、女性のうちでもすごく綺麗だと思った程だ、多分20代前半かな?そして足首まで伸びた、長い赤色のポニーテール、これもまたいい髪だ。
髪色と合わすような、赤色のミニ丈チャイナドレス、露出が多いな、寒くないか?
身長は約170センチ、高身長と長い脚、服装と合わせ、全体的にはとてもいいスタイルだ、モデルも顔負けだ。
バストは平均的だ、よかったな、うちの敵じゃなくて。
「アンタらはどうしてここに居るのよ!」
「お嬢様、自分は一時休戦のために、こうしてお嬢様と交渉しに来ました、まずは交渉の場を…」
「休戦だって!?なぜだ!こんな話聞いたことない!」
「おや?確か数日前、こちらの使者は領主様と停戦交渉の話をしたはずですよ?」
「初耳だ!」
「つまりお嬢様は命令違反ではなく、知らないですかね?」
「例え知っても、オヤジの命令など聞く気もないわ!」
なに!?まさかこいつ、台南の領主の娘か!つまり、こいつは喧嘩の原因?
なるほど、頭を上がらない原因はこれか、多分溺愛し過ぎて、自分の娘に逆らえない親馬鹿だろ。
「はっはっはっ、そうですな、お嬢様は小さい頃から、人の話はあまり聞かない方でしたな。」
「昔のことを言うな!」
「しかし参りましたな、こちらはもうこれ以上ここに戦力を割く余裕はありませんぞ?もしお嬢様はいつものようにこちらに迷惑をかけるのなら、雲林は落とされるかもしれませんぞ?」
「なに!?どういうことだ!」
はあ…つまりこいつの親父は、休戦命令を出さず、休戦の理由すらも言ってないのか?
「台中方面から長年の侵攻、この事はお嬢様もわかるはずです。」
「もちろんだ、しかしいつも小競り合いだけではないか?」
「そうですな、しかし凡そ半年前、侵攻の規模が徐々に拡大し、一騎当千の超能力者も現れ始めた、今はまだ耐えますが、防戦一方になりました、このままではいずれ…」
半年前?確か澎湖も半年前から戦況が悪化されたようだ、もしかしてなにか関係が…
「……そう。」
「わかりましたか?お嬢様、理解できましたら、交渉の場を設け、休戦協定を…」
「話はわかった、なるほど、あたしの信用を得るため、わざわざアンタをここまで差し向けたのね?」
「ええ、自分なら適任かと。」
「確かにアンタなら信用できるわ…」
…セントは一体どういう人物なんだ?なんか色々と大物な感じだな、とても執事だけの器ではない。
「セントラル、事態はわかった、あの女はともかく、アンタ達の領地までいなくなったらゴメンだわ、そういうことなら引くでもいいけど、ただし条件があるのよ?」
「うむ?条件?」
「そう、いつも通り、あたしはここでアンタ達と一戦交える、あたしが勝ったら、台中との戦いは、あたしにも参加し、総指揮を取るわよ。」
「お、お待ちを!そんなこと、姫様は絶対認めませんぞ?」
「はっ!あの女の言うこと聞く気もないね、あたしがアンタ達に勝利を導いた暁には、あたしはアンタ達の救世主になるのよ、そしてあたしも遂に、あの女の上に立てるわよ!今度こそ…あたしの前で、あの女を土下座にしてやるわ!」
アホか!マジで子供の喧嘩かよ!!
「お嬢様、もう子供でもありますまい、こんな理由で…」
「こんなのってなによ!アンタ達では理解できないかもしれないけど、あれは一生の恨みよ!」
一体どんな喧嘩だ…?ここまでするなんて、超気になるな。
「はあ…しかしお嬢様、自分達と戦うっていうのは、天上様も含んていますかな?」
「バ、バカかアンタ!天上は除外よ除外!まだ死にたくないわよ!」
とんでもない評価だな、一体どこまでの強さを持っているんだ?天上は。
「そうでしたか、なら自分だけで…」
「アンタ、なんか勘違いしてるみたいね?」
「勘違い?」
「戦争よ!一個人の喧嘩ではないわ、あたし達は参加しない、軍を率いる、戦術だけの勝負よ!」
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