2032 表と裏

 洋服屋から出たあと、セントの案内で、うちらは嘉義城という城で散策していた。


 標準的な城郭都市、セントの話によると、この城は元々嘉義の空港だそうだ、元から広い整地なので、建造物も少なく、ビームによる破壊も少ない、だからそのままこの整地を利用して建てられた城だそうだ。


 さっきまでの城は、この城郭都市の真ん中にいる、高い城壁だが、外からみれば規模が小さい城だ。


 石畳と木製の建物が多い、コンクリートも少数いる、石畳の街道も綺麗に分けられ、中世の都市みたいな雰囲気、最高は3階しかないが、全体的にはすごく繁栄的な光景だな。


 これって本当に戦時下?確かに現代の電子と電気はないが、結構いい生活をしてるじゃないか。


 しかし、一見普通そうだが、異様な光景もある、超能力者が普通にいるのはわかるが、さすがにこれは…


「セント…、超能力者って、こんなに普通にいるの?」


 ああ、路辺でも超能力を使っている人間がいっぱいいる、水を出して花に水をまくか、物を浮遊して運搬するか、色々ある、非常に不思議な光景だ。


「うん?まさか千月様、都は初めてですかな?」


「ええ…、まあ…。」


「そうですな、大抵の者は、生活にも使える超能力が獲得しました、肉体強化系なら肉体労働、特定物質操作系なら、その物質によって創造、改変、他にも精神系か加速系など、色々ありますな、どれも生活上に便利な超能力ですぞ?例えば木材、鋼鉄、土、石などの生成、操作ができる者達が、建物などを建てる大工になれますな。」


 …つまりここの人たち、現代文明技術がなくても、そこまで不便ではないな。


「そうですか…、ここはどれぐらいの人がいるの?」


「去年の精査では、10万程ですね。」


「そんなに!?」


 10万か、この直径1kmもない正四角型の城郭内、これほどの住民がいるのか、密度高いな。


「ここだけではありませんよ、規模と人数はここより少ないですが、嘉義には他の城もいます、あと前線の雲林にもいますよ。」


「すごいね…人間って、逞しいですね。」


「失礼ですが、千月様はもしかして田舎の出身でしょうか?今の台湾では、どの領地もこんな城がいっぱいあります、千月様はまるで初めて見たような…」


「え、ええ、この子達と一緒に、澎湖から来たのです。」


「なるほど、しかし澎湖の馬公は確かこんな城もあるはずですよ?私は行ったことありませんが…」


「澎湖の田舎です、ハイ…」


「そうですか、しかし千月様、もしかして何か勘違いことをしていませんか?」


「勘違いって、何です?」


「もしかして私達はいい生活をしてるなっと思いまして?」


「え、ええ、聞いた話より…まあ…。」


「では、佑芳様と佐方様の新しい服を試すには丁度いいでしょう、私達が抱えている問題、実際に見に行きましょうか。」


「え?服を…試す?」



 #



 C.E.2063_0504_1812



 セントに案内され、30分くらい歩いたあと、うちらは、昔の嘉義の都心部の外周に付いた。


「…っ!これって…」


 日が大分落ちた、完全に見えないわけではないが、不気味さは半端ないな。


「嘉義廃墟は今、魔物の巣窟になりました。」


 確かに巨大な生き物が多数徘徊してるな、どういうことだ?


「まさか…どうして…」


「今の台湾では、ほぼすべての廃墟がこうなったのです、例外もありますが、元々の発展が進む程、魔物も多くなります。」


「ええ…、じゃあ、台北はどうなったの?」


「それはもう…高雄でも魔界みたいになりました、台北は見たことありませんが、きっと恐ろしい所に成り果てたでしょう。」


「まさか…襲われても…?」


「そうです、今の嘉義城は、ほぼ絶え間もなく、巨大化動物からの攻撃を受けています、もちろん嘉義城だけでなく、ほぼすべての城も同じです、さらに怖いのは、同じ人間からの攻撃ですよ。」


「こ、こんな状態でも、人間同士の戦争をしているのですか!?」


「仕方ないのです、こんな怖い生き物がいる世界、さらに昔の武器も頼れません、誰もが安全な場所と、食い物が欲しいでしょう、だから奪い合うのです。」


 澎湖で聞いた話通りだな、確かに略奪戦争だ、これも生き物の本能かもしれない、生存競争という本能。


「そんな…、みんなで、力を合わせる方がいいはずなのに…」


「超能力者にも、同じことを言えますか?」


「え…?」


「私でも、人並みに超能力があります、あまり強くないが、それでも私より弱い人が少数います、なら…」


「生産より、略奪の方が早い、と…」


「理解して頂ければ結構です、弱い人は生産しないと生きていけません、そして強い人は、弱い人から略奪か、もしくは弱い人を守る代わりに食い物をもらうか、だから最後は強い人達の競争に巻き込まれ、弱い人も戦えざるをえませんでした。」


 こりゃ、まるで人民と軍隊だな、人民は軍隊を養う、そして軍隊は人民を守る、必要であれば他国を占領し、収入を増える、か、地球人の歴史は戦争の歴史、こればかりが繰り返してるから、これも地球人にとっての自然の摂理か。


「…………」


『千月、辛いのがわかる、だが前にも言ったろう?ここの戦争はうちらと関係ないって。』



「関係ないわけじゃないでしょう!!」



 大きく響いた、叫び。


『……千月、もしかして、お母さんのこと…』


「……っ。」


 やっぱりか、ここは千月の母親の故郷にも当たる国だ、だったら千月にとっても、もう一つの故郷だろうな、さらに、母親の自殺理由の手掛かりも隠されているかもしれない。


 非常に不味いことになった。


『千月、戦争を終わらせる一番の方法は、氷人と接触し、隔離空間を解除することだ。』


「…………」


「お、お姉様、どうしたんですか…?」


「千月様…」


「セント、何か、氷人の占領地へ入れる方法はないか?もしくは氷人と接触できる方法は?」


「入れる方法は、私の知る限りありません、もしあるのなら、今頃隔離も解除されたでしょう、接触なら…」


「あるの!?」


「地球人の城に住んている氷人も居ますよ、実は嘉義城にも数人いるのです。」


 なに!?初耳だぞ!


「…え?だ、だったら!」


「しかし無駄だと思いますよ?確かに氷人ですが、地球人と交ざり合った氷人はもう、氷人ではなかったのです、もちろん占領地にも入れません。」


『千月、そんなのどうでもいい、僅かな情報でもいいから、ここの氷人と接触してみよう。』


「……セント、あれはなんです?」


 あん?聞いてないのか…って!何だあれは!!


「はっはっはっ、千月様の叫び声に釣られたようですね。」


「わーー、大きいですが、ちょっと可愛いですね、お姉様。」


「わははっ!すごいのが来たぞ、ねえちゃん!」


「はっ…ははっ、ええ、すごくかっこいいね、フフフ…」


 だあああぁぁぁーー!


 てめえらどういう神経だよ!



 巨大な化け猫だぞ!?怖くないのかぁぁぁぁ!!??

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