2029 千月の両親

 C.E.2063_0504_1312



「…………。」


『…………。』


「遅いですね、ここで食事をくれると思ったのに…腹が減りましたわ。」


『ああ、一時間以上過ぎた。』


 佐佑はもう寝ちゃった、このソファすごく気持ちいいけどな、うちまで眠くなったぞ。


『ちょうどいい、千月、実は最初から、どうしても気になることがあるんだ、なかなか聞ける機会がないんで、いま聞いていいかな?プライベートな話しだけど。』


「うん…スリーサイズ?」


『ちげえよ!そんなもんとっくにわかってるわ!』


「そう言えばそうですね、シャワーも一緒だし……いいよ、いーちゃんなら。」


『じゃあ、もし気に障るなら先に謝って置くよ、千月、おまえの父親って、どんな人だ?』


「…………」


 いきなりだんまりか、やはり言いたくないようだ。


『……すまん、言いたくないならそれで…』


「父さんは、超能力者なの。」


 ……え?ま、まさか…しかしなぜ外側の人間でも…


「どんな能力か、よくわかりませんが…、父さんは国家機密機関で働いているってことは、中国にいる時も言いましたよね。」


『ああ、確かにおまえの大まかな事情は聞いた。』


「父さんは、すごく偉い地位にいるらしい、お陰で私の進学も確約されたものなの、例え全部赤点でも。」


 なるほど、努力しなくても成功は確約されるから、勉強する必要もなくなる、道理で万年赤点だ、だから父親がいきなり死んたあと、生きる術すらなくなったか。


「小さい頃は結構尊敬してますよ、お父さんのこと、すごい人だなって、例え、母さんが毎日泣いていっても……」


『毎日も…?』


 確か、母さんも亡くしたな、あの時聞いた話では。


「原因はわかりません、多分子供には知らせたくないことでしょう、小さい頃はまったく気にしていませんが…その日までは。」


 千月は、天井に向いて、切ない声で…


「私の16才の誕生日の三日後、母さんは…自分の部屋で、包丁で…自分の手首を切り落として…大量出血で…」


 なんだと…まさか、自殺だったとは…しかし手首だけなら、即死には至らないはずだ。


「前もいったけど、父さんはあまり家にいませんの、誕生日の三日後はちょうど土曜日、私は友達の家で遊んでいる、発見した時は、もう日曜日の夜だった…」


 ……二日も過ぎた…か…。


「その日から、私は必死で、母さんの自殺の原因を探している、しかし母さんはなんの遺言か遺書も残ってない、それところか、昔の写真か書類か、とにかく母さんと関わるものは一切残っていません、父さんはあまりいないので、二人の喧嘩も見たことない、どうして母さんは毎日も泣いているのか、今でもわからない、自殺までの日々は、毎日泣いていることを除けば、本当になんの前触れもない、どう考えても、きっかけなどいない、突然過ぎます。」


 確かに妙だ、例え16才だけの子供でも、なんの異常も気付けない、なんの情報も残っていないなんて、まるで、巧妙に隠蔽されたような。


「母さんはすごく優しい人です、私の事をいつも案じていて、穏やかて、すごく綺麗な母さんです、しかしなぜか、あまり笑っていません、私の前では微笑みをくれましたけど、それ以外は…暗くて、悲しくて、絶望を満ちた顔をしていました…」


『……千月、ご両親の感情はよくないか?』


「実はよくわからない、しかし、確かに喧嘩することはないけど、父さんは久々に帰った時、いつも以上に邪険な顔をしていた、多分そうでしょう、私…気付くのが遅かった、母さんが自殺するまで、なにも、気付きませんでした…、毎日も…ただ遊んでいて、家のことは、まったく気にしていなかった…」


『父親の所から、何か手掛かりはないか?』


「ありませんね、事後から思えば、父さんはほぼ私と話していなかった、それところか、まるで私のことを眼中にないような…、母さんの葬式すら…顔を出ていません、だから母さんが自殺したあと、この事を気づいた時から二年間、私にとっての父さんは、尊敬する人からどんどん、どうでもいい人になった。」


『……そうか、済まなかった、悪い事を聞いた。』


「いえ、もう吹っ切れたわ、ただ時々自分の…鈍感さを、嫌う時がある、もしもっと母さんのことを気にかけていたら…」


『千月…、済まないな。』


「いえ、大丈夫です、これでいいかしら?」


『もう少しだけ…、確かご両親は、台湾人と日本人だよな?』


「ええ、母さんは台湾人らしい、父さんは日本人ですね。」


『らしい?つまり推測だけで、確定じゃない?』


「うん、実はよくわかりません、ただ結婚前の国籍は確かに台湾ですね、しかし顔つきは東方人と似ていません、正確な人種についではよくわかりません。」


『千月、ここに入った後、疑問を感じないか?その、超能力って。』


「父さんのこと?」


『ああ、外側では、超能力自体ありえない現象だろう、ただしここは超能力者が普通に大勢いる、もしかして何らかの関わりがあるかもしれない。』


「確かに澎湖で超能力者のことを聞いた時、疑念も浮いたわ、もしかして父さんはここから脱出した人間かと、しかしありえないわ、ここから出る方法はないでしょう?それに、父さんと母さんが知り合った場所も確か台湾ですよ?つまりあの時はまだ隔離されてないわ、あと時間的にも合わないでしょう?」


 ああ、確かにそうだ、ここの人は20年って言ったけど、実は18年未満だ、千月の誕生日は2044年8月3日、この隔離は赤毛の話によると、確か2045年9月26日、隔離は千月が生まれた一年後のことだ、つまり千月の父親は隔離前から超能力が持っている、確かに時間的にはありえない。


『父親の仕事についでも、何も知らない?』


「ええ、前にも言ったでしょう?極秘事項だそうです、家族すら知らされていません、超能力者についでも、言い出すことはいけませんっと、いつも酷く厳重に注意されています。」


 ああ、言い出したら、多分千月はとっくの昔に殺されるだろう。


『そうか、なら考えてもしょうがないことだな、情報はなさ過ぎる、ここまででいい、色々と、済まなかったな。』


「もう…気にしてませんから、もう謝らないて、いーちゃんと私は生命共同体だし。」


 ああ、だがもう、これ以上聞きたくない、深入りすぎると、客観的にいられなくなる。


 もし、うちの記憶がまだ残っているのなら、何かわかるかもしれないが、わかったとしても、今のうちらとは関係のないことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る