1024 澎湖からの脱走
午前11時。
佐佑は、まだ寝ている、やはり連続の能力使用も結構消耗するんだな。
千月は出航してから、一言も喋ってない、結構疲るはずなのに、一睡もしない。
『なあ、おまえ、まだ落ち込んてるのか?』
「……いえ、ただ、湧にいのことを、ちょっと心配…。」
『南部を追い返せたいま、しばらくは持つだろう。』
「…………」
『はあ……、まさかおまえ、この期に及んで、澎湖に戻るつもりじゃないだろうな?』
「…………」
『千月、はっきり言おう、実はおまえもわかってるだろう、おまえのやることは所詮焼き石に水だ、時間稼ぎでしかない、北部はいずれ負けるだろう。』
「だったら!」
『まさか佐佑のためか?それこそは本末転倒だ、本当にこの子達のためなら、戦争から避けるべきだ。』
「しかし…」
『それとな、聞こえが悪いかもしれないが、台湾の戦争はぶっちゃけ、うちらと全く関係のないことだ、うちらはあくまで任務のためにここまで来たんだ、今この時でも、イブの監視下にいるのだぞ?変な真似をしたら、帰っても死刑かもしれないぞ?』
「…………」
『それに、澎湖の戦争は所詮数百人の、しかも冷兵器だけの、小規模なものだ、うちから見れば、ただの台湾人と台湾人の味方討ちだ、台湾は元々多国文化の国だ、外国人の比例が高い、だから本島で待つのは、多分数千数万の、違う人種と国籍の超能力者達の殺し合いだぞ?おまえ、この程度で落ち込んたらどうする。』
「……そうですね。」
『さらに言えば、うちらは最初から北部と接触しているから、仲間意識が持つのも仕方ないと思うが、おまえ、忘れたのか?南部も北部からの略奪を受けているのだぞ?客観的にみれば、同じ穴の狢だ。』
「……いーちゃん、あなた、すごいね、いつも客観的に物事を見ているのですね。」
『そうでもない、うちだって感情と感性がある、ただうちは、感性より理性の方が優先するんだ。』
「そうですか、これは多分、私の至らない所かもしれません、これからも、助言してくださいね、理性的な分析って。」
『あ、ああ、そのつもりだ。』
この時、船長は船艙のドアを軽くノックして、入って来た。
「お嬢さん、あと30分くらいで到着する予定です、準備をしてください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
そういったあとすぐ、船長は去った。
『さあ、気を引き締めろ、予定通りであれば、次は嘉義だ、どんな危険が待っているのかわからん。』
「ええ、しかしもう…戦いたくありません。」
『無論戦いを避けるべきだ、この子達のためにもな、ただし…』
「いーちゃん?」
『千月、相談がある、多分おまえを怒らせるかもしれない話だ。』
「…………」
『おまえ、この子達のことどうするつもりだ?』
「もちろん、安全な場所を…」
『おまえ、実はわかってるんだろう?じゃないと、あんな話を言わないだろう?』
「な、なにを…」
『あの子達から離れないって言ったろ?おまえ、実は身辺に置くつもりだからそんな話をしたんだろう?』
「…………」
『正直に言えば、うちもその方がいいと思う、この子達の戦力なしでは、この先が厳しい、ただ感情的には、この子達をうちらの目的に巻き込むのは許さないって。』
「いーちゃん、やっぱりすごいね…」
『おまえ程じゃないが、うちだって人並みに観察力があるんだぞ?』
「私程って、買いかぶり過ぎますよ…」
まさか…自覚なし…か?
『まあ、とにかく佐佑を起こせ、そろそろだ。』
「さーちゃん、ゆうちゃん、朝ご飯だよ?」
朝ご飯ってなんだよ!昼じゃねえか!?
「……うん?」
「……あぁ、お姉様、おはよう御座います。」
「ねえちゃん、着いたのか?」
「ええ、嘉義っていう所なの。」
ああ、やっと、本島まで来た、思いの外時間がかかった。
#
「わーーー!」
「いい景色ですね、お姉様?」
「ええ……」
これが…本物の台湾島か。
船艙から出た瞬間、まず目に映したのは、雲の中に突き刺さった、高い山。
「あれは玉山?」
『ああ、多分、ビームの砲座はその玉山の頂上にいると思う。』
高過ぎて全く見えない、しかし、あれはなんだ?
「うん?なんか長城のようなものが囲まっていますよ?」
ああ、多分あれは氷人の棲家だろう、玉山山脈の中腹を全部囲まれて、さらにその長城の上は薄い膜のようなものを覆われ、雲の中まで伸びている。
「…何かのバリア?」
『多分な、医者さんの話によれば、氷人は地球人を怖がっているのだろう?』
しかし参ったな、超能力者があっても、十数年も氷人の占領地に入れないっと言ったな、だったら多分うちらでも入れないだろう、氷人からの接触を待つしかない…か?
とにかく、ここからが本番だ。
ここまでの出来事は、うちらにとって、所詮この物語の、プロローグでしかないのだ。
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