1022 家族として

「それで、私達はどうすればいいの?」


 今赤ずきんは、うちらに状況の分析をしている。


「あいつらの本陣は岐頭にいる、ここの南部指揮官もそこに巣食っている、元々はただの村長だけだ、だが人一倍に強欲、ここまで攻めて来たのもあいつの独断だ、文字通り壁にぶつかっても、南部からの援軍も貰えない、だから1ヶ月もここで立ち往生してる、つまりこいつだけ排除すれば、ここの部隊も空中分解されるだろう。」


 なるほど、蛇を潰せば頭から、か、中国語で言えば、擒賊先擒王だな。


「……暗殺。」


「方法はおまえ達に任せる。」


「敵の数は?」


「俺の情報では、全体は約2000人だ、戦艦が出航したあと、壁前の部隊も除けば、本陣に残るのは多分300人も満たないだろう。」


 300…千月は戦えない、つまり実質的に、2対300か…無理だろう。


「俺はここで待つ、終わったら即俺に連絡してくれ、北部の部隊はこの機に乗じて一気に攻め込むだろう。」


 照明弾は…使えないか、面倒だな。


「俺は先に北部の部隊に知らせてくる、おまえ達はこの海岸を沿って南下すれば、30分以内で岐頭に着けるだろう。」


「あなた、軍隊の調達も出来るの?」


「俺じゃない、ここの守備軍の指揮官と連絡をするだけだ、あれは俺の嫁だからな。」


 なるほど、勝手にこんなことを出来るわけだ。



 午前3時半。


 うちらはもう岐頭廃墟の近くまで着いた。


「…お姉様…ごめんなさい…」


「ゆうちゃん…」


 千月は佑芳を抱きしめ、頭を優しく撫でた。


「もう気にしないでね、やったことに後悔しないで、重要なのは反省すること、そしてこの失敗を挽回すること。」


「はい…」


「ゆうちゃんはもう十分反省したよね?だったら残るのは、自分の失敗を何とかすることよ、お姉さんも付いてるからね。」


「ありがとうございます、ですが、お姉様までも巻き込まれて…」


「はいはいもういいのよ、私達、もう家族なんだからね、こんな他人行儀みたいな言い方、もうしないでね。」


「家族…」


「うん!さーちゃんも、ゆうちゃんも、もうお姉さんの家族になるんだからね、これからはもう離れない、あなた達のことは絶対に見放さない、だからお姉さんの言うことをちゃんと聞いてね?」


「っ…ねえちゃん!わかったぜ!」


「はい!私も、お姉様に付いていきます、家族として!」


 ……千月、くそー、なんてやつだ、うちまでも泣きたくなるんじゃねえか…


 出会ってから半月も経っていないのに、よくそんな恥ずかしいことを言えるな、大したものだ。



 迫ってくる戦いに集中しよう。


 岐頭の廃墟、やはり大勢の敵がいるな、しかし妙だ、無駄に集中してる。


『千月、この子達は君の指揮に従うのなら、うちからの指示を送れ、勝手に暴走するなよ?』


「…………」


 千月は、佐佑と一緒に、廃墟一番外側の建物の窓口から、敵陣を観察してる。


 1軒家くらい大きな焚き火が…3つもあるな、しかも全部中央の広場に集まっている、周りには…大きな木製軍用キャンプがいっぱい、多分そのどれかの中に、指揮官がいるだろうが、よく見えない。


 あと、軍用のドラム缶も、かなりの数だな、キャンプの側に集中してる、今は動力燃料として使えないから、多分民生用と火の矢に使うものだろう。


 この異常に集中してる本陣、利用しない手はないな、廃墟に遮るので全体が見えないが、何とかなるだろう。


『千月、うちの指示通りに動いてくれ。』


「……ゆうちゃん、見える範囲だけでいいわ、テントとドラム缶と焚き火の位置、全部覚えておいて。」


「はい!」


『え、おい!』


 聞いてないのか!勝手にするなっと言ったんだぞ?3秒も経たないのにもう忘れたのか!?


「さーちゃん、今すぐ、見える範囲の火を全部消して!」


「合点!」


 ええ!?なにを?火を消すなんて、余計に警戒されるだけじゃねえか!?


 そして廃墟の中の明かりが、一気に消えた、こっちまでなにも見えなくなるじゃねえか!


「ゆうちゃん、さっき覚えたテントとドラム缶、全部焚き火の上に飛ばして…今よ!」


「はい!」


 な、一体なにを…ええ?悲鳴が?キャンプの中にいる人も一緒に飛ばしたのか?木製だし。


 そして5秒後、佐方が消した火は先に元に戻った、その瞬間、キャンプとドラム缶は全部焚き火の上から落ちて、火が点った。


 木製と布だし、さらに油という助燃材もあるから、凄まじいスピードで燃え上がった。


 そして、予想外のことが起きた。


 移動されたキャンプとドラム缶は時間切れて、一瞬元の位置に戻り、そのまま燃え続けた、キャンプ内にいる大勢の敵兵は干渉対象外なので、焚き火の中に残された…こりゃ酷い。


 そう言えばそうだな、佐佑は生き物に干渉できないのだ。


 さらに燃えたドラム缶は、少数だけなら爆発までには至らないが、元の位置に戻されて、隣りキャンプと一緒に、一斉で燃え上がったら…



 ドンーーー!!



 くっ、爆発が起きた!連鎖誘爆が起こったぞ!?


「さーちゃん、あの一番高い建物の上に連れてって!」


「あいよ!」


 佐方はなんの躊躇いもなく、ワームホールを開き、全員移動してきた。



 ……っ、何ということだ、こんなの、地獄絵図みたいだ、全身が燃えて奔走してる人、爆発に巻き込まれ四散した人間、集中し過ぎたキャンプが延焼され、さっき見えない所までも次々と燃えていく。


 離れた人はすぐ駆け戻るが、もう負傷者の救助以外、なにもできなくなった。


 たったの数分で、敵本陣が、壊滅された。


 死者は…半分くらいだろうな、少なくとも百人以上が……


「フフフ……クククッ……」


 …千月は、笑ってる、とんでもなく、不気味な笑い声…

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