1021 望まぬ戦い
うちらは今、事前に手配していた船の船艙に隠れている。
キャラック船みたいな構造だが、現代の機材も混ざり合っている、異質な船だ。
兵士達はあの光のせいで、警戒の注意力は全部壁に向かった、お陰で難なく赤ずきんと接触が出来て、すぐ船に上がった。
結局、余計な事をしちゃった、赤ずきんは最初から港にいる、しかも港辺りは赤ずきん一人しかいない、普通に来でもすぐ発見できるのにな…。
「あれ…ここは?」
「ああ!ゆうちゃん!大丈夫か?僕心配したんだぞ!」
「そうですか…ごめんなさい、なぜかいきなりめまいが…」
「ここは船艙の倉庫よ、ゆうちゃん本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫です…どれくらい寝ましたの?私。」
「4時間も寝たわよ、ぐっすりと。」
「そうですか…迷惑をおかけしました…」
「いいのよ、あとはここで出航を待つだけだし、朝まで寝てもいいのよ、出航の予定は6時らしいわ。」
「はい…」
「でもゆうちゃん、あとさーちゃんも、今後こんな出鱈目な事をするのはやめなさい、もし敵の前で昏倒したら、死ぬわよ?」
「はい…大きなロウソクを作り出したいだけなのに、なぜかあんなものを出てきちゃいました…」
ロウソクだと!?違い過ぎるだろうが!
「そっか、ねえちゃんもこんな出鱈目な事をしちゃったから入院したんだ…」
「そうよ、お姉さんみたいになりたくないでしょう?」
「…うん。」
「だったらゆうちゃん、さーちゃん、お姉さんは超能力の正しい使い方は知ってるから、今後、お姉さんの言う通りに使ってね、慣れるまで。」
「おっす。」
「わかりましたわ、お姉様。」
おお?流石だな千月、上手い話術だ、これで二人の暴走も抑えることが出来たな。
そう言えば、二人の弱点の一つも、これである程度カバー出来るだろう。
それは、物理法則の知識と理解力、あと想像力の不足だ。
こんな正統な教育も受けていない、12才の子供、多分どんな原理で飛んたか、どんな原理でワームホールを作り出したのか、わかっていないだろう、あれはもうただの本能だな。
千月とうちの指揮に従ってもらえば、あの力はもっと強力になれるだろう。
しかし限度もあるな、例えば病室にいる時、水を溶岩に変わってっと言ったが、溶岩など見たこともないから、当然想像もできないので、変えることができなかった。
この子達の見聞を広めることは、今後の課題だな。
「すまない、やばいことになった。」
赤ずきんはいきなり船艙に入った。
「え?どうしたの?」
「さっきの光のせいで、双方は警戒態勢から一気に戦闘態勢に突入された、双方もあの光は向こうからの攻撃だと勘違いしていて、双方部隊も集結中だ、岐頭港に停泊してる南部の戦艦も発進準備に入り、ここへ向かうつもりだ、このままでは出航はおろか、この船艙に隠れてもいずれ発見されるぞ。」
ちっ、面倒なことになった。
「私の…せいです…」
「……それで?今はどうすればいいです?」
「方法は3つあるんだが、どれも一定の危険性がある。」
「聞かせてください。」
「まず、船から降りて、戦闘が終わるまでどこかに隠れて待つことだ、しかしいつ終わるかわからん、あと近くの村も確実に巻き込まれる、その時はここまでの船を貸せられるかどうかはわからんぞ?」
貸したものなのかよ!
確かにこりゃやばい、普通の漁船で海を渡すには危険性が高すぎる。
「次は、今すぐここから出航することだ、だがこっちに向かって来た戦艦と鉢合わせる可能性が高い、こんな戦時での脱走船は発見されたら、多分問答無用で攻撃されるぞ。」
こりゃ問題じゃないな、戦艦って言ったけど所詮火の矢しか使えない、硬いだけのものだ、この子達がいれば、回避出来る方法はいっぱいある、これでいこう。
「……最後は?」
「最後の方法は、多分一番単純かつ確実だな、おまえたちの話によれば、あの太陽のようなものを作り出したのは、このお嬢さんだろう?あんな出鱈目な超能力、南部で1年もスパイ工作をやってきた俺も聞いたことないぞ?」
「……何が言いたい?」
「あんな力があれば、話は簡単だ、南部の連中はここから追い出せばいい話だ、それならなんの心配もなくなるぞ?」
なんだと……?
『千月!あいつの口を止めろ!これ以上言わせたら大変なことになる!』
「ふざけないて!私達は脱走のためにここまで来たのよ?湧にいの話、聞いてないの?」
「ああ、当たり前だ、俺に頼んだのは確かに湧にいだ、要人の脱走に協力しろってな。」
「だったらなぜそんな話を持ち込むの?湧にいの意向に反するではないか!」
「確かに湧にいはかなりの権力を持つ北部指揮官の一人だ、しかしまさか要人って言うのはこんなに強い超能力者だったとはな、こりゃ湧にいの頼みより、うまく利用して戦争に勝つ方が…」
「黙れ!もういい、私達は今すぐに出航する、戦艦など眼中にないわ!」
「まあおまえ達みたいな超能力者に逆らうつもりはないけどな、しかし本当にいいのか?味方を救える力を持っているのに、それを使わないなんて、味方を殺すと同じ意味だぞ?」
『ヤバイ!千月!力ずくでもあいつを止めろ!』
「お姉様……」
「ゆ、ゆうちゃん、こいつに騙されないで、ゆうちゃんはなにも悪くない!こいつはただゆうちゃんを利用したいだけなの、耳を貸すのはいけない!」
「人聞きが悪いな、お嬢さんはこれでいいのか?北部の味方を見殺し、自分だけ逃げ出すつもりか?人を救える力があるのに、味方を、湧にいを見殺すつもりか!」
……終わった、何もかも、遅かった…。
「…お姉様、お願いします、こんなことになるのは私のせいです、どうか、今回だげは…」
「ねえちゃん、僕も…」
くそが!こんな子供に、責任感を無理矢理引っ張り出すような誘導、そんなの抗えないだろうが!
「くっ…貴様…!」
「姉さんよ、俺はただ事実を言っただけだ、恨むなら、南部の連中に恨むがいい。」
「……ゆうちゃん。」
「南部を白沙から追い出せばいいんだ、別に南部に攻め込むなんて言ってない、簡単だろう?」
「お姉様…」
湧にいの言うことは、今なら実感出来たな、確かにこいつらは戦場では信頼出来る、忠誠心がかなり高い、しかしその忠誠心は北部同盟全体だけに向かっている、湧にい個人ではない、だから個人的には信用できない。
……ここまで来ると、もう引き受けるしかない、ここで拒絶して、無理矢理この子達を連れ出したら、今後の悪影響になるだけだ。
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