1019 別れの時
翌日の午後1時、遂に時が来た、今日からようやく、前に進むことが出来た。
うちらは人目を避け、森を通し、壊れたボートの所まで来た。
佑芳と佐方は、一路は黙っていて、湧にいの手をずっと握っている。
「千月さん、俺はここまでだ、あとは計画通り進めてくれ。」
「はい、この1ヶ月間、色々とありがとうございました。」
「礼を言いたいのはこちらの方だ、さあ佑芳、佐方、千月お姉さんと一緒に行こう。」
「はい…」
「じっちゃん、僕、必ず戻ってくる!」
「……ああ、これからは、千月お姉さんの言うことをちゃんと聞いてくれよ、わかったか?」
「はい…お爺様…お爺様…今まで、ありがとうございました、私達のことは心配しないでください、千月お姉様はすごくいい人です、きっと、私達を連れ帰って、またお爺様と一緒に暮らせることができると信じています。」
「…叶うなら、俺も、そうしたい…」
……湧にいも、覚悟を決めたようだな、ここの戦況は厳しい、医者さんの話によれば、北部には強力な超能力者が居ない、このままでは、北部の敗北も時間の問題だろう、だから覚悟を決めなければ、この子達ともう二度と会えない覚悟を。
しかし、うちらは手を出すことができない、一刻も早く、隔離空間を解除しなければならない、そうすれば、こんな戦争も自然と終わるだろう。
「さあ行け、もう振り返るな、千月さん、あとは、頼んだ。」
「……ゆうちゃん、さーちゃん、行きましょう。」
「うん…」
「はい…お姉様。」
佑芳と佐方は、湧にいの手から離し、千月の手に移して、強く握った。
地球人は、よく議論しているな、この世はもっとも辛い事はなんだろうかって、愛する人との生き別れか、死に別れか、側にいるのに赤の他人みたいな、等々、これも多分、湧にいにとっての、一番辛いことだろう。
確かに、どれも辛いな、だがうちが言うなら、地球人は所詮その程度だ、だって今の地球人はまだ想像もできないのだ、その、一番辛い事を。
その、種族絶滅の危機を……。
#
夜10時。
今うちらは、赤崁廃墟の近くの森の中に着いた。
通樑から赤崁までの距離は、女子供の歩行速度では2、3時間くらいだが、まさか9時間もかかるとは…
途中パトロールの自警団を避け、点在する小さな村から迂回し、北部海岸に沿って移動してるから、思いの外時間がかかった。
今佐佑は、森の中で食事をしている、湧にいの計らいで、食糧は結構確保している。
佐佑、いい略称だろう?
千月は佐佑から少し離れ、廃墟を観察している。
『千月、携帯電話はどういうことだ?』
「うん?普通のケータイですけど?」
『違う!どうしてそんなもの持ってんだ?うち聞いてないぞ!』
「大丈夫ですよ、リボンはちゃんと鞄のファスナーにも付いていますから、ほら。」
『そんなもんわかってる、とにかくだ、携帯電話なんか捨て置け!』
「嫌です!どうしてですか!?」
『危険だ!リボン外したらどうするんだ!』
「いや!いやだ!」
『てめえ……』
「あの…お姉様、どうしました?」
「あ、え、何でもないわ、気にしないでね。」
ちっ、千月のやつ、声が大すぎ。
「お姉様、確か、まず赤崁へ行き、そこから船に乗って、本島へ行く、ですね?」
「そうよ、しかし、これは結構厳しいわ。」
ああ、確かに面倒だ、廃墟だから多分人が居ないと思ったのに、これはどういうことだ?
「人が多いね、廃墟の中で巡回してる、まるで何かを警戒してるみたい。」
「あ、お姉様わかりませんか?先月から、この赤崁廃墟の真ん中に、高い壁が建っていて、道は全部封鎖されましたわ。」
壁?今は夜だから、照明も少ないのでよく見えないが、確かに300メートルくらい先の廃墟の中に、なんか長い壁のようなものが建っている、高さは多分10メートルくらいか。
「…ええ?なんで?」
「だって南部は先月でここまで攻め込んてきましたわ。」
なんだと!?こんな近くまで!?
西嶼との唯一の連絡橋は爆破され、ここ白沙も半分まで占領されたというのか、絶体絶命じゃねえか!
湧にいは戦況についでなにも教えてくれない、多分余計な心配をさせたくないだろうな。
つまり、うちらの目的地の港は、もう南部の占領下にいるのか、面倒だな。
「ねえちゃん、大丈夫だ、あの壁、僕達は何とかしてあげるぜ!」
ああ、そう言えば、この子達が付いてるな、普通の壁だったら問題ないだろう。
「壊しちゃ駄目よ?」
「うっす、じゃあ一気に行くぜ!」
佑芳はなんか慣れた動きで、素早く佐方の背に乗せた、そして佐方はいきなり…千月に姫抱っこを…あああ!なにしやがる!
「え?ふええーー!?」
こんな子供に姫抱っこされるとは、不覚!うちの初めてを返せ!
「ねえちゃん、声出さないでよ!」
いきなり、佐方の目の前に、小さな歪んた空間が現した、佐方はなんの躊躇いもなく、その空間に飛び込んた。
一瞬、景色が変わった。
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