1018 財湧の本音
4日後の、夜10時。
千月の体はやっと全快した、うちらは明日、村から出て、本島へ向かうつもりだ。
ただ今回の“うちら”は、うちと千月だけではない、あの子達も一緒だ。
「…………」
千月は屋上での一件以来、毎日も屋上まで来ている、今も廃墟をじっと眺めて、なにを考えているのか、わからない。
「湧にい、私を選ぶ理由を、詳しく聞かせてくれませんか?あの子達はどう考えても、私なんかいなくてもここから逃げ出せると思いますが…」
「…あの子達は賢いだが、力の加減には下手だ、脱出の理由は、正体不明の南部の超能力者を怖がるより、この村の安全を確保する方が重要だ、俺の言うことをよく守っているが、事件は事件だ、何かの間違いを起こし、あの子達が暴走したら、この村はおろか、付近の村すらも全滅するかもしれない、だからあの子達の暴走を抑えることが出来る人間は必要だ、戦闘力だけではなく、心の制御もな。」
「でも、どう考えてもあの子達には勝てませんが…。」
ああ、最初は足手まといになるだけの子供だと思ったが、あの子達の能力を見たあと、逆にこっちが足手まといになるかもしれない。
「本島は外国人狩りなどしていないが、ここより遥かに危険だ、巨大で凶暴な動物だけではなく、戦争も澎湖より何十倍以上に激しい、しかしそれでもこんな味方すら信用できない所よりマシだ、だがあの子達だけでいけばまず生きられないだろう。」
「…湧にい、本当にそれだけ?何年も信頼してきた仲間より、出会ってから1ヶ月も経っていない私を選ぶ理由は、それだけではない気がします。」
「外国人狩りをしている味方は信用できないのは事実だ、戦場では信頼出来るが、こんな外国人の子供を連れて遠くへ逃げる仕事は、どうしても信用できないのだ、俺の立場では、ここから離れるわけにはいかない、だからもう君しかいない。」
「…ですが…」
「千月さん、君は自分の事を記憶喪失とか言ったが、俺は今でも信じていない、だが君のことを信用出来る理由は他にいる。」
「…………」
「……でははっきりと言おう、まず、一番疑うべき点は、氷人との一件だ、言葉はわからないが、あの様子から察するに、あいつは多分、君を殺すために来たわけではない、あと君はどうして氷人語を喋れるのかも気になる。」
不味ったな、こりゃ確かにおかしい。
「そしてあいつらはそれっきりだ、君を殺すつもりなら、何度も来るはずだ、どう考えてもおかしい。」
確かに変だ。
「あとあのボートの事だ、確かにあのビームは極力生き物を避けるのだが、ボートだけ撃ち抜くことが出来るはずだ、だが君はボートの上にいる時だけは全然攻撃されない、そんなの聞いたこともない。」
ちっ、弁解もできないな。
「あとは、君の鞄だ、その鞄の中に、起動出来る携帯電話がある、しかも見たことのない形だ、バッテリー不足と表示して起動できないが、それでもビームの攻撃対象のはずだ、これはどう説明するんだ?」
なに!?そんなものがあるのか?初耳だぞ!
「……変なものが入っていないって、最初の検査で言ったじゃないですか?」
「あれは部下の仕事だ、女性用品がいっぱい入っている女性用の鞄、普通警戒心も減るだろう、だからあいつは多分全部調べていない、だが俺はどうしても君への疑心は減らせない、寧ろどんどん大きくなった、だから君は病院で意識不明の時、勝手に調べさせてもらった。」
「…………」
「最後は、君はよく隠してるいるが、俺はこの1ヶ月で、君に対しての監視観察はこっそりとやっている、君はよく独り言をしている、しかもちゃんとした会話対象があるように見える、だが君は精神病患者のようには見えない、だから君は多分何らかの方法で、こっそりと誰かと連絡をしているかもしれないっと、俺は疑っている。」
これも説明できないな、疑われても当然か。
「しかしこれらの疑いは、何故か逆に、君のことを信用出来る気持ちはどんどん大きくなった、理由は、氷人との関係だ、多分君は氷人と何らかの関わりが持っている、氷人は自分から地球人と接触をすることなんて、聞いたこともない、君へのビーム攻撃も一切しない、もしかしてあの独り言も、氷人と連絡をしているかもしれない。」
「…………」
「だから俺は一つ大きな賭けを賭けてみたいのだ、君ならもしかして、氷人の占領地に入れることが出来るかもしれない、そのついてに、あの子達も安全な氷人の占領地で住めることが出来るかもしれない、俺の勘違いだとしても、こんな危険な澎湖に居るより遥かにマシだ、いつ死ぬかわからない上、日の下で生きていけないだなんて、不憫過ぎる、だから君という希望を賭けてみるしかないのだ。」
さすがリーダーを務めている人間だな、年の功ってやつか?千月程ではないが、大した観察眼と推理能力だ。
「君は言いたくないか、言えないか、もう俺にとってはどうでもいいことになった、君はきっと、何か大きな目的を持っている、君のあの自滅能力では、きっと助っ人が必要だと思う、だからこれは君にも利点のある話だ、何の目的も私欲も持っていない、ただ俺の命令を遂行する部下より、私欲で動いている人間の方が遥かに信用出来ると思ったのだ。」
そして、湧にいは屋上から立ち去る前に、最後の一言を送った。
「千月さん、無事に澎湖から脱出出来たら、あの子達のいのちを確保出来る前提であれば、あの子達をどう扱っても俺は一切問わない、これは取り引きとして受け取っても構わない、俺はもう年だ、死ぬ前の最後の望みは、あの子達は無事に生き続けることだ、君の目的のために、あの子達を利用しても、俺はそれでも構わない、だがそれが終わったら、どうか、あの子達に安住の地を、与えてくれ…」
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