0007 隔離空間

 方角から見ると、船は南東方向に進んてるはず、この台湾海峡を経て、すぐ台湾を見付けるはずだ。


「少尉、あそこです。」


「うん?何もないですけど、夕日?」


 があぁぁっ!こいつの脳みそは何製だ!?


『何が夕日だ!今何時だと思った!?』


「あれ?あ、朝日か?」


 天然にも程があるだろうが!うちを殺す気か!?


「ははっ、よく見てください、この船はいま台湾と中国の間の折り返しに居ますよ。」


 東方の地平線には丁度日が登って、僅かだけど見えるようになった。


『一体どういうことだ?今の位置は台湾海峡の真ん中にいるなら、とっくに見えるはずだ。』


 それなのに、何もない?


 そんな…そんな馬鹿な…、台湾が…



 台湾が……消えた。



「え?台湾が消えたの?」


「そうです、正確には消えるのではなく、見えないのです。」


 これは、まさか……。


「今の台湾は、不可解な現象によって隔離されたっと、研究部門の結論です、肉眼が見えないだけではなく、あらゆるセンサーも探知できない、偵察衛星すら見えない、既知の通信方法も通用しない、あらゆる方法で得た情報は、ここは海しかいない、地殻の隆起すらなくなった、まるで最初から海だけで、島なんて何もないような。」


「じゃあどうして消えていないのを分かるんですか?これじゃ完全に消えたじゃないですか?」


「理由はこれです。」


 赤毛は後ろの艦橋に手を振り、船はゆっくりと前進した。


 そして、ありえない現象を見てしまった。


「え?ええーーーー!?」


 船首部分は、前進と合わせて、ゆっくりと消えた。


「ははっ、少尉落ち着いてください、実は無害ですよ。」


 赤毛はまた手を振り、今度はゆっくりと後退し、船首は後退と合わせてゆっくりと元に戻った。


「ふええーーー!?これは何かの魔法ですか!?」


 魔法、か、確かに魔法に見えるな。



 参ったな、まさかここで、地球人のファンタジー作品の中で想像された不可解な現象は、現実に起きたとは。


 いや、理解できない科学は魔法になる。


 空を飛べる金属の塊は、昔の人間に見られたら、それも魔法そのものだろう、これも多分今の人間には理解できない科学だけだろう。


 大したものだ、しかし一体どういうことだ?これはもううちの知る“あの装置”と、何もかも違う。


 いや、隔離空間だけが同じだ、しかしこんな形ではないはずだ。


 うちは確かに記憶を捨てたが、それは自分の人生の記憶だけだ、氷人に対での文明には全部覚えているはず。


 いや、まだ分からない、もしかして地球人の仕業かもしれない。



「ねえ、いーちゃんの質問ですけど、これは氷人の仕業なの?」


「そうなりますね、もちろん理由はわかりません。」


 そうか…やはりか、しかしなぜだ?


 とにかくわかったのは、ほぼ確実に、台湾には氷人がある、しかも多分大人数、だったら丁度いい、うちの目的もこの中にある。


「話を続きます、推測では、この空間の中心地点は多分台湾の台東地区の三仙台灯台辺り、地殻から宇宙まで、半径250kmの円柱状で隔離されました。」


 もしうちの知ってるあの装置と同じ原理だったら、なにをやっても無駄だ。


「そしてさっきの船首は、実は消えるのではなく、侵入地点の相対位置、つまり500kmの向こうの海上に出現しています、しかも生物も含め、すり抜けた全ての物質は、分子レベルまでに影響が出ていないだそうです。」


「じゃあ、なにも入れないんですか?」


「推測では、どうやら人工無機物と、人間のみです。」


 人工無機物?つまり生命のないものは全部隔離対象なのか?


 だったらなぜ人間だけを?


「じゃあ、人間以外の動物なら入れるんですか?」


「ええ、正確には、人間以外の天然有機物ですね、自然の空気、水、動物、あと人工的な放射線は入れないが、太陽光など自然の放射線ならできます、とにかく自然環境現象は全部普通に出入りできます、ただ全ての天然有機物を試す事なんて無理ですから、確証はないですが。」


「氷人も?」


「……そうです。」


 氷人も?変だな、なぜ同胞すらも拒絶するんだ?


「さて、状況は理解しましたね?では任務についでの話をしましょう。」


「私の服は?」


「ああ、そうでしたね、見ての通り、中の状況は全然わからないので、色々考えた結果、やはり国際通用の正装を着る方がいいと思います。」


 なるほど、一理ある、少なくとも失礼にはならないだろう。


「はあ……」


『そんなに嫌いなのか?』


「うん?実は結構好きですけど、大人の魅力とインテリ感が丸出しって感じですね、ただサイズが合わないからきついです。」


 ああ、中身はバカだから、せめて外見を…か?


「では任務の説明に入りますね、さっき言った物品の回収を除き、まず一つ目は、台湾の現地調査です。」


「調査?どうやるんです?」


「実はあんまり気にしなくてもいいですね、少尉はイブとリンクした時点から、少尉の見聞は全て、イブが自動的に記録しています、少尉が戻ったあと、イブからデータを引き出せば、なにもかもわかります。」


 なるほど、うちの参加理由の一つか。


 メインシステムはもうコントロールできないし、つまりこれは監視も兼ねるのか。


 後の祭りになるが、中で変なことをすれば、帰って来ても死刑か?


「ええーー!?風呂も入れないじゃないですか!?」


「それは…仕方ない事です、しかしそのデータはもちろん極秘情報です、見えるのは上層部でもごく一部の人間しかありません、非常に残念ですが、私達は見えないので、どうかご安心…げふー!」


 ぬお!?ストレートパンチだ!綺麗な直線軌道を描き、赤毛の胸部にヒット!


「なにが残念ですか!?」


「げふっ、ゲホッ、ゲホゲホッ、しょ…少尉…いまの君は、くっ、もう普通の…人間ではない…ので、こんな…乱暴な事は…控えて…ください…ゲホッ。」


 ああ、こりゃ効いたな、息もうまくできなくなった。


「変なことはいったから!」


 千月のやつ、筋力がないが、いまのパンチの狙いの正確さとスピードは人間離れだな、これもイブのサポートの成果か、さっきは一瞬だけ起動したし。


「ああ、ふう…すみません、結構効いた、ふう……」


「もうエッチな事を言わないでくださいね。」


「ああ、迂闊だった、もうしません、私はまだ死にたくありませんので、ははっ…」


 まだ笑えるのか、今度したら本当に殺されるかもしれないぞ?


「では、任務の話に戻ります、二つ目は、もし中でありえない現象を発見したら、その対象はできる限り保護、回収、もしくはその現象を再現できる方法を見つけ出す。」


 はあ?どうしてそんな仮定を?


「三つ目は、隔離空間の発生源を特定し、解除する、回収可能であれば回収、もしくは保護する、しかし破壊は許されません。」


 つまり未知のもの全て、研究したいのね。


 まあそれもいいか、人間の探究心は進歩の原動力だからな。


 しかし難しすぎじゃない?独りで全部やろってのか?

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