4話 戻ってきた櫻とやって来た小悪魔?
櫻の家まで押しかけて、やっと話が出来た翌日。
教室に入ると既に櫻は登校していて、何人かの女子と話をしていた。
久し振りに顔を見せた櫻を心配して話し掛けて来たんだろう。約束通り学校に来ているその姿に、先ずは一安心だ。
俺は家を出て学校までの通学路の途中、櫻との朝の落ち合い場所を通ったが、昨日までよりは気持ちを乱す事は無かった。勿論櫻は待っていなかったが、昨日会えて、話せた分気持ちは穏やかだった。 そして、本当の喜多川櫻を知れて良かったと思う。
取り敢えず良い方向に向かっていると思っておこう。
それから全く別件だが、実は明日から期末試験だ……。
この数日、試験勉強なんて全く手に付かなかった俺は、今日の一夜漬けを覚悟する他ない。
そんな事を考えて憂鬱になっていると、
「よう孝輝」
「おう、おはよう」
声を掛けてきたのはクラスメイトの
「喜多川、やっと来たな」
「ん? ……ああ」
「……ふーん、何だか妙だな」
「何がだよ?」
少し垂れた目を半目にして、訝しげな表情で俺を見てくる雄也。
「喜多川が学校に来たのにお前と一緒じゃないって事は、やっぱり別れたって事だ。でもお前は昨日より元気に見える。喜多川が来たからか? いや、なんか違うな」
……なんだ雄也コイツは、いつも惚けたマイペースな奴だと思っていたが、やたらと鋭いな……。
何だかやり難い奴だ。そう思っている時、俺の携帯にメッセージが届いた。見てみると、
『おはよう孝輝。言っとくけどお弁当なんてないからねー』
そのメッセージの下には舌を出して悪戯そうな顔をしている熊のスタンプ。送り主は櫻だった。
櫻の弁当が食べられないのは残念だが、メッセージの内容は間違いなく自分を押し殺していた時の櫻じゃない。それが嬉しかった。
「やっぱりおかしいな。何をニヤついてるんだ?」
「ああ、いや、何でもない」
雄也に再度指摘されたが、何とか怪しまれない様に取り繕う。自分では気付かずに俺はニヤついていたのか……。
さて、櫻にどう返事しようか? 何だか気持ちは楽しくて浮足立っているのを感じる。櫻とのやり取りでこんな気持ちになるのは久し振りだ。この何とも言えない気分の高揚に、俺と櫻はやり直し始めた。それを再確認する。そして、
『ガッカリだよ。早く弁当作ってくれる可愛い彼女見つけないとな』
そう作った文を、今度はニヤつかない様に雄也を警戒しながら櫻に送信する。
俺と櫻の席は大分離れているから、その分余裕があってこんな内容を送れたのかも知れない。
今も女子同士で話をしている櫻を横目で見ながら様子を見ていると、俺の返信に気付き、携帯を見ていた。
すると俺の席に顔を向け、恨めしそうな視線を送ってきたが、直ぐに顔を背けた。
そんな櫻の仕草が可愛らしくて、堪らなくなる。
――――「ねえ、やめなよ。まだ早いって」
「なんで? 寧ろ今でしょ? 徳永君勿体ないもん」
「ちょ、ちょっと……!」
不貞腐れて顔を背けた櫻から視線を雄也に戻すと、相変わらず俺を怪しむ様に見ている……。友人よ、放って置いてくれ、後生だから。
そんな時、
「徳永君」
「は? ……ええと」
突然俺に話し掛けてきた女子。誰だったか、名前が思い出せないが……。何しろ無防備だった俺は、間抜けな返事をしてしまった。
「ふふ、名前も知らないって?」
「え、いや……ごめん」
俺の反応でそう理解したんだろう。軽く微笑みながら彼女は俺を揶揄う様に見ている。
「
夏目さん、か。大分小柄な女の子だな。髪はハイトーンで、金髪と言ってもいいぐらいだ。緩やかに巻いてある髪をポニーテールにしていて、ツリ目の悪戯っぽい顔が印象的だ。
「ああ、分かった。それで、俺に何か用かな?」
「うん。最近徳永君元気無かったから心配でね。でも、元カノ原因も学校に来た事だし、声掛けてみたの」
……櫻の事か。
悪気は無いんだろうが、少し櫻に対してこの夏目さんは言い方に棘がある様に感じた。
「あれ? 怒った?」
「え……いや」
俺は不機嫌な顔をしていたのか、しかし何とも顔に出やすい男だな、俺は。
「それでね、元気出して欲しいからお誘いに来ました。放課後空いてる?」
その無邪気な顔で、見た目通り悪戯そうに俺を誘う彼女。……何だこの状況は。慣れない現状に狼狽えていた俺だが、他のクラスメイトにも今見られているだろうし、多分櫻も……。
それに今日は試験の一夜漬けが決定している。遊んでいる場合ではない。
「実は期末試験結構危なくて、今日何とか一夜漬けでもしないと赤点食らうぐらいなんだよ。ごめん」
「んー、そっか〜。わかった! でもさ、心配してたクラスメイトの私にちょっとご褒美ちょうだい」
「ご褒美?」
「うん」
何だ?諦めてくれたと思ったらまた変な展開になって来た。何を言ってくるのか、想像もつかない……。
「携帯教えて。それぐらいいいでしょ?」
「……ああ」
それから夏目さんと番号を交換して、彼女は友達の女子の所に戻って行った。
あんなタイプの女子は初めてだった俺は、終始夏目さんに翻弄されていた。
「なぁ孝輝」
「何だよ」
「今のお前の状況、知りたいか?」
「…………」
一部始終を見ていた雄也が頬杖をついて話し掛けてくる。今の俺の状況……。俺は返事をしなかった。すると、頼んでもないのに雄也は語り出した。
「喜多川が休む様になってからお前はあからさまに塞ぎ込んでいた。一週間も経つ頃には周りは別れたんだと認識する。喜多川を哀れむ奴らも多いだろうが、その間のアンデッドの様なお前を見ているクラスメイト達はお前の事も非難し辛い。だから今日喜多川が来ても、お前を悪者にしようなんて奴は多く無かっただろう。そこにきて今の夏目の接近。注目され易い時期にアホ面で番号を交換してるお前の現状は、男女共に最悪だ。孝輝……応援してるぜ」
次々と言葉を紡いでいく雄也。俺は、自分のしてしまった行動と、それによる現状を突きつけられ……。
「……雄也」
「なんだ?」
「応援……頼むよ」
「……ああ、まだ友達だからな」
おい、まだって言うなよ……。
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