第14話 王妃カメリアとセレスト王子


 セレストの母カメリアは、名ばかりの王妃だった。


 求められるのは王妃としての、事務的な役割ばかりで、それ以外の場では、夫と言葉を交わす事もままならない。


 王が求めていたのは、愛し愛される妻ではない。欲しかったのは王妃となるに申し分ない身分で、余計な野心を持たない家、そして王妃と言う仕事をこなす能力のある人間だ。


 そこに、心は含まれていなかった。


 王には、すでに自身の心を満たしてくれる存在がいたのだ。心から愛し、愛されている存在。そして二人の間には可愛い一人息子。王妃になれる身分ではなかったため、側室という立場だったが、二人は仲睦まじかった。


 ただ、周りの人間が、どうしても王妃を据えろとうるさいから――批判の目を、愛する家族からそらす目的もあったのだろう――王は、ただそれだけのために、王妃としてカメリアを選んだ。


 愛など無いとわかっていたのに、王に愛を乞うた女が愚かだったと人々が囁く中、カメリアは懐妊した。


 これで、少しは自分に関心を向けてくれるかもしれない。

 仕事としてではなく、人として言葉を交わす事が出来るかもしれない。


 けれど、カメリアの希望は打ち砕かれた。

 知らせを受けた王からは、何の反応も無かった。それどころか、以後王の訪れはぱったりと途絶えたのだ。

 あからさまに、今までは義務で訪れていたと示されたようなものだった。


 これを境に、カメリアの性格は少しずつ変質していく。


 侍女が自分を憐れんだ目で見ている、嘲笑している――被害妄想に襲われるようになっていた。


 そんな形ばかりの王妃と、王の寵愛を受ける側室。どちらが優位なのかは明白だったが、カメリアが産んだ赤子が、男子であるとわかると、その関係性が揺らぐようになった。 


 王の無関心は変わらなかったが、王家には二人の男子が存在することになったのだ。


 先に生まれていたのは側室の子だが、身分が低い女の子供だ。

 それよりならば、王妃が産んだ男子こそ次期王に相応しいのではないか――そんな声が、あちこちで囁かれ始めたのだ。


 側室の子である第一王子派と、王妃の子であるセレストの第二王子派。二つの派閥が出来てしまった。蓋を開ければ、中身は王妃派と側室派の対立だったのだが。


 側室は身分が低いとはいえ、王の寵愛を受けており、その穏やかな人柄も好かれていた。

 対してカメリアは、ひどい癇癪持ちだった。

 特に、子供を産んでからの癇癪は見るに堪えなかった。


 王には関心を向けてもらえず、仕える者たちは王妃である自分ではなく、身分の低い側室に敬意を払い尊重する。


 そんな日々に、苛立ちを募らせて次第に物や人に当たるようになった。

 いつしか息子であるセレストにも、酷い言葉を投げつけるようになっていた。


 呪いのように、何度も何度も。

 お前のせいだ、と。


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