ただ前に進んでいけ

快亭木魚

父からのルール指定

「ルールは一つ。この道を前へ進め。何があっても前へ進むんだ」


父のこの言葉を守って、俺はルールを守ってこの道を前へ進み続けている。


くる日もくる日も前へ向かって歩いているのだ。


途中で定食屋に入ったり、歩きながらビラ配りのバイトをしたり、色々やりながら前へ進み続けている。


ただ、一点気になることがある。


大きなUFOが空から落ちてくるのが見えるんだ。道の先へ墜落しそうな気配。これはやばいなと思うのだが、前へ進むのがルールだ。俺は道を曲がることができない。


UFOは俺が進む道の先で落っこちた。


これはまずい。どうにかしてよけつつ前進しなければ。


墜落したUFOから侍が出てくる。侍はこう言った。


「拙者はお主がルールを逸脱していないか定期的に確認する監視員である。この道をまっすぐに進めという言葉をお主は守っているか?」


「ああ、守っている。だから墜落したUFOからあなたのような侍が出てきても前へ進むのだ」


そう言って墜落したUFOから出ている炎を飛び越えて、俺は前へ進んでいく。


UFOから出てきた侍はなぜか斬りつけてきた。


「さあ、この剣をよけつつ前に進むことができるか?」


「ああ、ひどいことをする人だ。俺はUFOのかけらであなたの攻撃を防ぎつつ、前に進むしかない」


俺は自分で発した言葉のとおり、UFOのかけらで刀をうけつつ、前へ進む。ついでに侍の足を蹴って転ばした。侍は驚きの表情でこう言う。


「なんて男だ。お主の父上はお主に期待している。期待にこたえることができそうだ」


何やらよく分からないことを言っているので、無視して歩き続ける。


この道は不安定だ。突然道が広くなり、車の交通量が多くなってきた。交通ルールを守って規則正しく走る車達に俺のルールを従わせるのが申し訳ない。


さらに豚と象に猿、虎の群れまでもが道の上を歩いている。


この交通量の多さはやっかいだが、ルールをやぶるわけにはいかない。


俺は直進を続ける。まず車の群れは片手でどかしていった。俺ほどの人間になれば片手で100台くらいの車は道のはじによせることができる。


豚と象、猿と虎に関しては、それぞれの背中にのって渡る方法をとった。動物達の背中は不安定なのだが、人生よりはまだ歩きやすい。


俺の歩きなら車の群れも動物の群れも難しくはない。


だが問題はこの先の道だ。道が途切れる。とてつもない崖が見えてきた。崖を超えるにはどうすればいいか。


崖の手前にバナナの皮が見える。これを使うしかない。


俺はバナナの皮で華麗にすべった。すべった勢いで天高く飛ぶことに成功する。見事に崖を飛び越えることができた。


俺はなおも真っすぐに進んでいく。


道の途中で評論家が現れ、こう言った。


「なんて愚かなんだ。物語にはルールが必要なんだ。適当に思いついたままの展開を垂れ流しても誰の共感も得ることができない。何のクリエイティビティもない。最低だ。ルールをわきまえろ」


「そうですね!」


俺はとびっきりの笑顔で評論家に返答した。それが俺なりの対まともな人間への対応ルールだったからだ。


俺は父から定められたルールにのっとり、ひたすら前へ進んでいる。人生など、そんなものだと思うのだ。


だいたい自分で選択していると思いこんでいる現象ほど、大きい意思の影響下にあるものだ。それはそれで理不尽ではあるが道が見えやすいという利点もある。


なおも真っすぐに歩いていると、道の果てに父がいた。道は途切れて崖になっている。崖の前で誇らしげな顔をする父の姿は滑稽にも見えた。


「おお、息子よ。お前はよくぞこの最果てまでの道をまっすぐ前へ進んできた。ルールをきちんと守ったと言えよう。この強度、さすが私が作りだした人造人間。さあ、世界のルールを破壊して新たな秩序を作るのだ!今から新しいルールを授ける。私に従わない全人類、全動物を皆殺しにしろ!」


父はマッドサイエンティストだった。


俺は、道で出会った交通ルールを守っていた車達や、自然界のルールで生きてきた動物達とのふれあいをとおし、父の示すルールが最上のものとは思えなくなっていた。


「俺が知ったこの世のルールでは父のような人は振り落とされる」


俺はバナナの皮を父の足元に転がした。見事にすべった父は転んで頭をうつも、なんとか立ち上がろうとする。


俺はそんな父の足を蹴って転ばす。父は崖の下に落ちていった。


予想どおりUFOが崖の下でスタンバイしており、父を救い出す。


「お主!父上に対してなんとひどいことを!」


UFOから出てきた侍は落下した父を全力で受け止めたショックで顔が曲がっている。旧型の人造人間であるがゆえに口調が古く、命令にも忠実なのが、この侍だ。


「侍よ、俺はあなたのように父のルールに従うことができるような優秀な人間ではないのだ。さらば」


俺はそう吐き捨てて、崖を後にした。


俺は俺のルールに従って、歩き続けることにした。きっとどこかへたどり着くことができるだろう。曲がりくねった道の先には評論家がいて、こう言った。


「準備はできたか。真のルールはここからだ。気をひきしめろ」


「そうですね!」


俺は苦笑いを含んだ笑顔を見せ、そのまま蛇行しながら延々と歩き続けた。


(終)



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ただ前に進んでいけ 快亭木魚 @kaitei

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