第13話013★名前を失ったという子虎ちゃんに名前を考えましょう

 私は、子虎もどきの愛らしいその仕草に、ついつい視線が釘付けになってしまう。


 ああ、ここをなんとか脱出して、この子と旅がしたいわぁ~………。

 もう、可愛すぎよぉぉ~……いや、本当に………なんとかならないかしら?


 そんな妄想へと突入しかける思考に、聞き慣れない音?というか思考が唐突に流れてきました。


 『オレのホウコソ…

  アナタの…オカゲで…


  ジュバクから…カイホウ…

  された……カンシャし…ても


  …シキレナイ……

  アリ…ガトウ……』


 直接耳に聞こえているわけではなく、脳内へと届くような声?に、私は首を傾げて問いかけてしまう。


 「えっとぉ~…今の声?

  …ってあなたで良いの?

  子虎ちゃん?」


 確認する私に、子虎もどきがコクッと頷く。


 『ソウ…オレ……の…

  …声…とどイ…て…

  ヨカ…た……』


 やだぁぁ~…本当に可愛いわぁ~…ちょっと聞きづらいけど……。

 透き通ったような少年の声だわぁ~……って、まてよ………。

 意思疎通できるなら、抜け道ないか聞いてみれば良いじゃない。


 それに、一緒に行こうって………うふふふふふ……思い立ったらよ……。

 話しかけてくれたってことは、少しは私のことを気に入ってくれたってことよね。

 そう考え付いた私は、子虎もどきちゃんに話しかける。


 「ねぇ…子虎ちゃん……

  ここのダンジョンから


  どうにか安全に抜け出る

  方法ってないかな?


  私、ここに来たくて

  来たんじゃないのよ」


 私の言葉に、子虎もどきちゃんは小首をコテンッとさせる。

 その愛らしい仕草に、クラクラしながらも、私は必死に言葉をつむぐ。


 「でもって、あなたも一緒に

  私と行かない?


  ここをどうにか脱出して…

  各地の美味しいモノを

  食べ歩いたりしながら…


  ギルドに登録して

  冒険者とかしながら

  世界を見て歩くの………」


 儚い希望と思いつつも、ついついそんなことを考えながら、私は子虎もどきに話しかけてから、その言葉を待った。

 子虎もどきは、反対側に小首を再びコテンッとしてから言う。


 『オレ…な…ウ…しな…た

  …ちカラ……ふ…ジら…レ

  ………お…に……モツ……』


 しょんぼりとうなだれる子虎もどきに、私は今の言葉の意味を必死に理解しようとしながら、そのあまりにも寂しそうな姿にたまらず胸元に抱き上げる。


 えっとぉ~…聞き取りづらかったけど……名前を失ったって言ってたのよね。

 たしかに、名前が無いと呼びづらいわね。

 ……なら、とりあえず、新しい名前をつければ良いわよね。


 「名前が無いなら

  新しい名前を名乗れば

  良いじゃない


  思いつかないなら

  私が候補を考えてあげるわ

 

  その中から選ぶのは

  どうかしら?」


 それと、力を失ったから、お荷物になるって言ってるけど……。

 私と外の世界に、一緒に行きたくないとは言ってないわね……なら、簡単よね。

 そう思う私の言葉や思考に反応した子虎もどきは、嬉しさを滲ませて応える。


 『あ…たら……シイ…

  ナマ…え……

  ほ…シ…い………』


 その返って来た意思に、私はにっこり笑って考える。

 えぇーとぉ…姿はシルバーウイングタイガーに良く似ているのよねぇ……。

 さて、どうしましょう? どんな名前が良いかしら?


 「それじゃ…私がいくつか

  候補を考えるから

  少しだけ待っててくれる?」


 『ウン…っ…てる…』


 真剣な表情で、私を見上げてくる愛らしい子虎もどきちゃんを見下ろしながら、私は大急ぎで名前の候補を考え始める。


 せっかく、前世の日本のことも思い出したんだから………。

 この子の【真名】は、日本語…それも漢字がいいわよねぇ……。

 シルバーは、銀…ウイングは翼……タイガーは虎…と。


 3個の漢字のどれかは入れたいわね。

 銀は、ギンにインにシロにゴンにシロガネでしょ………。

 翼は、ツバサにヨクにタスクにスケでしょ………。

 虎は、トラにコに…ああ、タケって言うのもあったわね………。


 うぅ~ん…合わないな…となると、単純なのが良いかしら?

 少しこだわりを緩めれば……うん、良いのが思い浮かんだわ。

 とりあえず候補は出来たから、聞いてみましょう。


 「私が貴方のイメージで

  思い浮かんだ名前は

  三つあるわ


  一つ目はありきたりかも

  知れないけど

  大虎(たいが)ね


  二つ目はちょっと凝って

  虎羽牙(こうが)ね


  三つ目は琥珀こはくだけど

  どれが良いかしら?」





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