第12話012★もう、白銀色の子虎もどきにメロメロです
そう思った時には、その感情のまま白銀色の子虎もどきを抱き上げていたのはいうまでもありません。
と、興奮しすぎた私は、白銀色の子虎もどきが怒らないのを良いことに、その身体をもふもふしてしまいました。
「ふわぁぁ~………
たまりませんわぁ~……
この手触りは最高ですぅ~…
これは、何がなんでも
生き残って
この子を連れて世界旅行が
したいですわぁ………」
興奮しすぎたセイか?言葉遣いも、シルビアーナの口調にやや戻っていましたが、そのことにほとんど意識が向かず、気付きませんでした。
この時は、とにかく白銀色の子虎もどきをもふもふしてみたいという要求しかありませんでした。
ぅん? あら…この子…小さな翼がありますわ…それも3対も………。
本当に、あのスノーボールの中に入っていた幻獣の幼体のように見えますわ。
その上で、額の真ん中に小さな角がありますのね。
うふふふふ………額の毛の中からチョコンと尖った先端が見えて可愛いですわ。
そんなことを考えながら、私は夢中で白銀色の子虎もどきをもふもふする。
そんな中、人差し指にピリッとした痛みが走って私はハッとする。
「……っ…痛っ…えっ…えぇ……
もしかして…角に刺さった?
と言うか、掠ったのかしら?」
どうやら、額の中央にある硬い角の先端に指先があたり、柔い私の皮膚が裂けてしまったようです。
私は、慌ててソファーに寝そべったままだった身体を起こした。
そして撫でる両手に、子猫のようにじゃれて嬉しそうにしている、白銀色の子虎もどきを膝上に乗せ、片手で支えながら、切れたらしい指先へ目線を向ける。
「うわぁ~…私って………
どんくさい…というよりも
いままでのシルビアーナが
ひ弱ってことよね
……じゃなくて………
でぇぇ……やだぁ~……
ふえぇ~ん……血が
止まらないんですけどぉ」
そう思っている間にも、切れた指先からは鮮血が次々と
やだぁ…もしかして、血の止まりが悪くなる、潮時だったのぉぉ~………。
ほんのちょっとしか切れてないのにぃ………じゃない…いやぁぁぁぁ~ん。
白銀色の子虎もどきちゃんに、鮮血が
真っ白を通り越して、キラキラの銀色の毛皮や、私を見上げたことで額から顔にまでダラダラと滴(したた)り落ちた真っ赤な鮮血に、パニックを起こしてしまう。
「ふぅにぁ~ん」
自分の顔や身体に
いや、文字通り、ゴロゴロウネウネと身体をくねらせながら、甘えたような声でひとしきり、鮮血に
この時の私には、魔物の子供かも知れないとか、危機的状況かもしれないという意識は、綺麗さっぱりとなかったのは言うまでもありません。
ただただ、降りたての新雪のような身体に落ちた、真っ赤な鮮血が、子虎もどきちゃんを汚すことに慌てるだけでした。
「いやぁぁぁ~……
真っ白なのにぃぃ…
じゃないでしょ…私……
うぅぅぅ…どうしよう…
ほんのちょびっと
指先が切れただけなのにぃ
……血が止まらないん
ですけどぉ~………」
そう叫ぶ私に気付いたらしい、元白銀色で今は見事に鮮血色の子虎もどきは、ふこふこの私のお腹に両手をかけ、身を伸ばして、いまだに出血の止まらない指先を丁寧になめ始める。
少しチャリチャリした舌の感覚によって、ピリピリとした微かな痛みを感じたが、それもすぐに感じなくなっていた。
よくみると、指先の切り傷の血は止まり、うっすらとピンク色の皮膚が再生しはじめていた。
「えっ…えぇぇぇぇ~……
すっごぉ~い…やだぁ~
この子ってば
再生能力持ちなの?
………じゃなくて
助かったわぁ…
ありがとうね」
そう言って、私は子虎もどきちゃんを抱き上げ、その額にチュッと口付けていた。
勿論、指先の二の舞いはゴメンなので、角の手前に口付けたことは言うまでもない。
子虎もどきは、コテンッと再び小首を傾げると、身体をブルブルッと軽く振るい、柔らかく甘い声で鳴く。
「ふなぁぁ~ん」
その声と同時に、子虎もどきちゃんの全身に塗れていた鮮血も、ドレスも綺麗さっぱりと元の光沢のある薄紫色に戻っていた。
へっ…えっ…えぇぇぇ~…すっごぉ~い…この子虎もどきちゃんて……もしかして万能なのかしら?
「すごいぁ~……
これは貴方がやったの?
とても助かったわぁ~…」
そう言う私に、子虎もどきちゃんは再び小首をコテンッと傾げてから、前足を持ち上げた。
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