第9話009★前世の記憶、1人目プラス2人目、そして………


 そう、そんな奇跡が私の身の上にも起こらないだろうかなんてね………。

 あの当時は、殺伐としすぎる日常からの逃避で、ほのかに、そんなせつない希望を抱いたこともあったわねぇ………。


 もっとも、二十歳を少し過ぎた頃に『ブレイン』候補になってしまって………。

 慌てて、私はなりふりかまわずに、あの暗殺組織から逃亡したのよねぇ………。

 誰が、培養液ばいようえきに漬かる脳だけの存在になりたいだろうか?

 あげくが『ブレイン』としての能力が低下すれば、処分が待っているだけなのだから。


 生物兵器としての資質だけをチョイスしたデザインベイビーだったお陰で、容姿は平々凡々で周囲に容易に紛れ込めたのは幸いだったわねぇ………本当に。

 そのお陰で、普通の女性を装い、クリスマスまでは生きられたもの………。


 勿論、逃亡後の多くの時間は、知識オタクと化した私の中の好奇心を満たす為に、無料で書物が読める図書館を利用させてもらったわね。

 そして、あちこちにある図書館の本という本を片っ端から読破どくはしたのわねぇ………。


 各地の図書館のありとあらゆる分野の本を読みつくした私は、今度はネットカフェに入り浸り、ネット小説やゲームなどに全てをついやしたわ。

 そういう施設が充実した、日本の都心は本当に良いところだったと、今更ながらに思うわねぇ……ええ、本当にね………。


 暗殺組織での当時の私の名前は、いったい何だったっけ?

 ナンバー呼びの他に、通称の仮名もあったはずなんだけど………。

 綺麗さっぱりと思い出せないのよねぇ………。

 ただ、死因は判っているけどね。


 私を追ってきた追っ手から逃れている最中に、小さな女の子が暴走した巨大トラックに轢かれそうになっているのを見て、どうせ死ぬならと助けるという選択をした結果だと。

 女の子をおろおろしている夫婦らしき2人の腕の中へと放り投げたのよねぇ………。

 ……キャッチするところは、目端めはしで捕らえていたから大丈夫だったと思うけど………。


 同時に、自分の身体が暴走トラックにね飛ばされて、そのままタイヤにつぶされたところまでは意識が残っていたわ。

 そう、私の頭蓋骨がベッシャリとなる直前まで記憶があるから………。


 私は、そのことを思い出し、ちょっと、いやぁ~な気分になったてしまったので、口の中のモノが食べ終わったことを幸いに、別の干した果物を手に取り、ポイッと入れた。

 そして、別の記憶を引っ張り出すことにした、そう別の前世を………。


 んぅ~とぉ…もう1人、生物学的には女性の記憶があるわね。

 この記憶は、アラフィフの喪女ね。

 滅茶苦茶内向的で、自虐的なタイプだったわねぇ………。

 容姿は残念ながらブサイクだったし、太ってもいたわね。

 そう、今の……いや、今まで私と同じタイプの女性だったわ。


 あのまま、あの皇家から下賜かしされた3点セットを身に付けたまま、あの脳内お花畑の限りなく馬鹿で阿呆な皇太子の………うわぁぁぁぁぁ~……考えたくないわ。

 いや、もう、アラフィフの人生は終わっているから大丈夫………じゃ無くて………。

 

 記憶をたどったモノを簡単にまとめると、アラフィフの喪女でブサイクでデブでオタクな人物だったようね。

 好物は、マンガに小説にゲームというところね。

 BL好きの腐女子…いやいや、これは貴腐婦人きふじん超えて、鬼腐神きふじんまで到達とうたつしていたわね。


 過去の自分ながら、ちょっと引くわね。

 死因は……典型的な出不精でぶしょうの結果………。

 珍しく都心に降雪した時『寒いわねぇ~……』と言いながら、歩いて滑って転んだ結果、寒さもあって心筋梗塞でコロッと逝ったのよねぇ………。


 うわぁぁぁぁぁぁぁ~………今更だけど、あのコレクションの群れ、どうなった?

 誰が、アレを片付けたのかしら?

 オタク仲間の数少ない友人の誰かだったら良いなぁ………。

 いや、今更よねぇ………ああ、暗いわ。


 他の人生ってあったかしら?

 ああ、あるわね。

 コレは珍しく男性ねぇ………。



 

  

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