第8話008★前世の記憶が複数あるようです、1人目は女性?

 原因を思い出してつぶく。

 それと同時に、婚約破棄イベントのときの映像が思い起こされる。


 騎士団長の息子に押さえ込まれて、サークレット・ネックレス・ブレスレットの3点セットをむしり取られた瞬間を思い出して、あることに気付く。


 「そう言えば、あの時

  なんか………


  パチッという音と

  ピシッという音と


  ガラス細工のようなモノが

  壊れるような

  カシャーンッという音を


  続けざまに聞いたような

  気がするわね」


 あの音が、私に…いや、正確には、あの皇家から下賜かしされた3点セットに込められていた呪力が、思考の拘束対象たる私からはががされて、破壊された音だとしたら………ラッキー……。

 ………じゃなくて、完全にアレが引き金よね。


 その直後から、とめどもなく記憶があふれて来て、何時の間にか、無自覚の涙があふれていたわね。

 けして、婚約破棄されたセイで泣いたわけじゃないわよ。

 あんな脳内お花畑の馬鹿皇太子に、微塵みじんも恋情なんてないもの………。


 じゃなくて、記憶よ記憶………。

 あの記憶の群れは………たぶん、前世のモノよね。

 それは、こうして落ち着いてくれば判ること。


 でも、あの記憶の群れを考えると、私・シルビアーナの前世の記憶は1人分ではないのは確かだわ。


 ラノベやネット小説にも、前世の記憶とかってモンをあつかったモノ多かったし、時には人格が残っていたりなんてモノもあったわね。

 ………ぅう~ん……記憶をたどっても、記憶の蓄積ちくせきはあるけど、どうやら人格の方はカケラもなさそうね。


 そんなことを思考しながら、テーブルに並べた干した果物を口に運んでいた。

 ゆっくりと食べれば、空腹感がいやされ、気持ちも満たされてくれるので………。


 そうしているうちに、1人の記憶が浮上してくる。

 ソレは、酷く殺伐とした女性の記憶。

 誕生した時から暗殺を生業とした、組織の暗殺道具としての記憶。


 感情というモノは幼少期にけずり取られ、色すら識別できないほど無機質な殺人マシーンだった、私。

 両親というモノは存在せず、ポッドという育成機械の中で、選びぬかれた卵子と精子に遺伝子改良をして、培養液の中で育てられたデザインベイビーが、私だった。


 こんな状態(言われない冤罪で断罪され、脱出不可能な迷宮送り)でも、冷静沈着でいられるのは、その時の記憶と経験があるからなのでしょうね。


 当時の私は、与えられた任務を淡々とこなすだけの殺人機械だったもの。

 そう、人型をとるだけの、殺人にタブーなど一切ない、感情というモノを忘れた生物兵器だったわ。


 任務の都合上、女子高生(当時、年齢的には中学生だったが)に成りすます為に、話題に乗れるようにと、その年頃が好むネット小説から、いくつかの乙女ゲームまでを知識として詰め込んだのを覚えている。


 そう、その中に、世界を守るという役目を担う女戦士と、普通の男の子の命がけの恋愛というモノを見て、全てに無感動だった私は、たしかに『羨ましい』という感情を覚えたのを思い出す。

 たしか、その物語は少女マンガだったわね。


 ほかにも、当時、内臓をバケモノと入れ替えて、いずれバケモノに変容するのに、ただただ自分の目的の為に、バケモノと戦う女戦士というモノがあったわねぇ………。

 その物語の方は、いずれはバケモノに変容する女戦士に恋して、頑張る男の子の話しだったわね。


 こっちの方は、たしか少年マンガだったような気がするわ………。

 当時、結構人気のある作品だったから、一応ということで読んだ記憶があるもの。


 2つの恋愛マンカを読んで、自分のような、人の女性の姿をしているだけの生物兵器にも、愛情を注いでくれる者は何時か現れるのだろうか?

 なんて、ほのかにせつない希望を抱いたこともあったわねぇ………。


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