第7話007★前世の記憶を、突然思い出したきっかけは?

 ベッドに出来そうなほど大きなソファーは、ホコリひとつ積もっていない。

 空調が効いているかのように、暑くも無く寒くも無い完璧に整えられた空間。


 毎日手入れされているかのように清潔な空間で、私はホッとしながらソファーへと座る。


 いくらバーチャル化していようと、ゲーム空間ゆえに、実際には味わえなかった感覚を肌身に感じて思わず感動する。


 「ふわぁ~…

  このソファーってば

  すごい座り心地が良いわぁ~


  手触りなんかも

  ものりすごく良いわぁ~…」


 そう呟いて、ついつい座ったソファーをでてしまう。

 どうせ、このイベントは攻略できないから、ゲームでない現実として、私はここで死ぬことになるのは間違いない。

 どうしようもない、絶望的な状態に、不思議と微笑ほほえみが浮かんでしまう。


 そして、私はもこもこなスカートの中に手を入れて、非常食を引っ張り出す。

 そう、常に何かを食べていないと落ち着かないので、私はスカートのヒダの間に、色々な非常食を仕込んであるのだ。

 だって、パーティーの間、食べ物のあるテーブルに近づくこと自体を禁じられていたから………。


 飢餓感きがかんを感じたら、そっと壁際にある豪奢ごうしゃなカーテンの陰に隠れて、こっそりとスカートのヒダから取り出して、口に食べ物を入れていたのだ。

 もっとも、コレがルドルフ皇太子に嫌われていた理由のひとつらしいけど………。


 らしいっていうのは、あの脳内お花畑の馬鹿皇太子と、婚約者であるにもかかわらず、ほとんど交流がなかったセイだ。

 ………じゃなくて、とにかく現状認識しないとね。


 私は無意識にひとつ溜め息を吐き、とにかくスカートの中から色々な非常食を次々と引っ張り出し、目の前のテーブルに並べて行く。

 目の前に色々な食料があるというだけで、気分が少し落ち着くので、スカート中に隠していた非常食をありったけ、テーブルの乗せる。


 「とりあえず

  腹が減っては戦はできぬ


  じゃないけどねぇ………


  ここから出て

  あの封印の扉に行けば


  死ぬと決まっていても

  お腹は減るしね


  ここは………

  非常食でも食べながら


  この後どうすれば

  良いか考えないと………」


 非常食なだけあって、基本が乾物ばかりなのよねぇ………はぁ~………。

 水分が摂取できるような生の果物なんて入れてなかったし………。

 重さとかを考えると、断然乾物のが量を摂取できるし………じゃないわ。


 とにかく、この空腹感をとりあえず満たすのよ。

 空腹になったセイで、ろくでもない思考しか思い浮かばなくなってきている気がするし………。

 食べ物を口に入れれば、安心感が生まれて、少しは何か良い考えが浮かぶかもしれないもの………。


 思考がそこにたどりのつくと同時に、テーブルに並べた非常食の中から、果物を干したモノを手に取り、口にポイッと入れる。

 今は肉類の干し物を口にする気分じゃないので、干した果物を選択した。


 果糖は脳をリラックスさせる効果があることを知識として知っているので、無意識に干した果物を選択したらしいと自覚したのは、お腹がいっぱいになってからだった。


 あぁ…喉が渇いたなぁ……とは言っても、ここに《狂いし神子の討伐》のイベント攻略の仲間なんて存在しないし………はぁ~………。

 剣という物理攻撃が得意の勇者や攻撃魔法を持った魔術師という仲間も、癒しと守護の力を持つ聖女も居ないのよねぇ………。


 だからって尻尾巻いて逃げるという選択も、今の武器も防具も無い私には無理なことだし………ああ…残念な死亡フラグしかないわ。

 ただ、なぁ~んにも無いから、苦しんで死ぬってことはないわね。

 基本、この部屋から出て出歩いたら、即死だわ。


 運良く、この安全地帯である部屋に入るまで、なぁーんにもあたらずにすんだけど………。

 ダンジョンから脱出するワープなんてモノ、この神苑の…もとい、絶望の深淵のダンジョンには存在してないし………マジでどうしよう?

 何か良い手はないかしら?


 せぇーっかく、あの脳内お花畑の駄目駄目皇太子との縁が綺麗に切れたのに、人生を楽しむこともなく、このままむざむざと死ぬのは不条理ってものだわっ……。


 って…そうよっ…謎の記憶の群れに、何かこの死亡フラグしか存在しない、ココから安全に脱出する方法があるかも………。


 あのたくさんの色々な記憶が、突然に浮かんできた要因はなんだったのかしら?


 私は自分に、そう問いかける。


 「要因……は、アレね…たぶん………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る