ルール

中田中中高

ルール

 ルール、ルール、ルール、ルール。


 分からない。


 目隠しと手を縛られて部屋に入れられた際に「ルール」と言われたが知らない。分からない。何故こんな扱いを受けなくちゃいけないか全くもって理解できない。だが仕方ない、ルールを探すしかない。部屋は書斎とでもいうべきものだ。幾つもの本棚に幾つもの本。普通の机に座り心地のよさそうな椅子。本の題名にルールが入っているものが一つもないのが意地悪だ。とりあえず脱出ゲームだと思って本を全てめくってみたり床を這いつくばったり机の引き出しを全て開けて中身を見たし椅子の生地を引き裂いてみたが何もない。鍵がかかっていたり謎が提示されていたりする方が良かったが本当に何もない。こうなったら試しにドアが開くか試すと簡単に開いた。


 壁だ。


 私が入れられてから壁が音もなくスライドして封じ込められた感じでもない。何しろドア枠が外れて四方が壁に囲まれている事を発見してしまったからだ。何ということだ。これでは私はどうやってここに入れられた。奴はどうやって私を入れた。


 分からない。


 引き裂かれてはいるが座り心地のいい椅子にゆっくりと座ってぼうっと呆けている。のどが渇いた。蛇口は無いしコップも無い。何の気なしに「水が飲みたい」と言うと机に頭の中で想像したコップと水が七割ほどまで注がれた状態で出てきた。恐る恐る口をつけてみたが水だ。喉が本当に乾いていたので飲み干してじっくりと考える。


 これがルールか?


 口に出せば解決する?


 次の言葉は「外に出してくれ」と言ったが何も起こらない。ドアを使わなければいけないと思いもう一度声に出してから壁に付けずにそのまま開くとそこは外だった。どこだか分からない森か林か何なのか。閉めてから「街に出してくれ」と言ってドアを開けると街が見える。だが悪い事に人気が全くない。出てみるが道路に車が走っていないどころか路駐もない。様々な店は明かりはついているものの人はいない。私は人類が滅亡した真っ只中にいるのかと思ったところでふと思った。


 私は誰だ。名前が思いつかない。何の職業をしてどこに住んで誰と付き合いがあって両親はどんな人なのかも好きな食べ物嫌いな人行ったことのある街知らない国。まるで覚えていない。記憶を操作するにしてもそんな技術は聞いたことがないしテレポート出来るドアも知らないしそもそもそんなルールは聞いたことがない。


 一先ず閉じ込められた部屋に戻った。全く分からない外よりも四方を壁に囲まれた部屋のほうが落ち着く。もう一度喉の渇きを癒やしてから自分の名前と職業を問う。


 「私の名前は、職業は何だ」


 紙切れ一枚が机に出現して取ってみるが何も書かれていない。名前も職業も必要ないということだろうか。頭がおかしくなりそうで叫ぶように


 「ここから出してくれ!」


 その瞬間、目が覚めた。


 「お目覚めのようですね」


 初老のバーテンダーがコップを磨いている。酒場だ。他にも酒を片手に眠りこけながらうなされている者、楽しそうにはしゃいでいる者、恐怖におののいている者、多種多様な者がいる。


 思い出した。ここはルールという酒場だ。酒を飲み多様な夢を見せて楽しませてくれる。もちろん違法だがここにたどり着くまでにも幾つものルールが用意されていてパスできない者はここには来れない。


 バーテンダーはこちらを見て微笑みながら話しかける。


 「次は何にします?」


 「怖いのは無しで、楽しいやつをくれ」


 「それではこちらをどうぞ」


 目が覚めた。夢の中で誰かに「ルール」と言われた気がしたが気にすることはない。ここは堅苦しいルールの無い南の島の楽園だ。七色に輝くカクテルを掲げて。


 「ルールの無い世界に乾杯」

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ルール 中田中中高 @waruituti

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