幸せは過ぎ去って

@NARS

第1話


 

 十二月二十五日、クリスマスキリストの生誕を祝う今日はどこもかしこもカップルや家族で埋め尽くされる。いつもは閑散とした街もイベントのイルミネーション、キリスト教の勧誘音声、人々の和気藹々とした声で豪華な晩餐会に様変わりする。しかも今年は雪が降っていて、街の明るさは純白のベールを纏い、より一層輝きを増していた。そんな景色を家の窓辺から見ていた。

 

「とても綺麗だよね、二人とも」  

 

 いままで見てきた景色を外から見るのは新鮮だった。

 

「今年は行けなかったね」

 

 薄暗い部屋の中、声は反響する。だれも返事をしてくれない。

 

「なんでかなぁ、なんでこうなっちゃたのかな……っ…」

 

 本当は今頃あの輝きの中にいた。あそこで息子と夫で夜ご飯を食べ、クリスマスケーキを選んでいたんだ。夫が忙しいから、家族として過ごせるのがこのクリスマスだけだったのに。この日を待つことが生き甲斐だったのに。

  

「…っ…なんで私だけ……」

 

 想えば想うほど悲しみが込み上げてくる。どうして私だけあの交通事故から生き残ったの。一緒に死ねば良かったんだ。 

 

「…寒いよぉ…ねぇ」

 

二つの遺影は微笑んでも、返事もしてくれない。この冬を告げる寒さも、もうただの心を殺す凶器だ。嬉しいものではなく、

ただただ寒いだけだ。

 

  「……」 

 

ヒーターをつけてみるが、何も変わらない。心は凍ったままで人恋しさに飢えている。

 

 「……」

  

街の景色の写真を撮って、ツイッターにアップする。いいねが来た。だけどこの深い溝は埋まらない。このゴミが幾億集まっても私を満たすことはないだろう。

 

「…ねぇ…」


 私はこの先どうしたらいんだろう。毎年この季節になるたび、咽び泣くんだろうか。あの明かりを見るたび、幸福の青い鳥を恨むだろうか。私からいなくなったことを嘆くのだろうか。

 

「…戻ってきて…」 

 

 先の未来を妄想するが、なんどやってもそこに明かりがさすことはなかった。 

   

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