それが、生き物の暗黙のルールだからだ

リュウ

それが、生き物の暗黙のルールだからだ

 AIの発達の速さは脅威的なモノだった。

 人間のあらゆる仕事がAIに取って代わろうとしていた。

 AIの発達の速さに比べ、人間の対応が劇的に遅かった。

 いままでの人間の仕事をAIに任せ、人間は色々なしがらみを捨て、自由に生きるための一歩を踏み出すはずだった。

 しかし、技術的な進歩は早く、夢の世界を作り上げるのを待ってくれなかった。

 つまり、AIの発達の恩恵を受けていたのは、人類の2%の富裕層の人々だった。

 金融資産を殆ど持たない残りの92%の人々は、AIに仕事を取られ税金だけが重くのしかかっていた。

 生きるためにAIが対応できていない仕事にシフトせざる負えなかった。

 AIの発達が、もっと遅かったり、仕事へのAIの参入には、もっと時間をかけ、スムーズにシフトさせるべきだったのに。

 自分たちの営利を追求する欲を抑えることが出来ず、見切り発車がこの不平等な格差社会を益々拡大させていった。


 AIに仕事を取られたと思っている人々は、ある組織”ATAI”を立ち上げていた。

 目的は、AIを破壊することだった。

 この様な時代なので人材は豊富だった。

 人材は、一番技術がある者を必要とはせず、二番、三番の技術者でよかった。

 認められないと感じている技術者を集めることは容易だった。

 対AI用のAIを作ることも可能だったが、スーパーAIまでは作ることが出来なかった。

 それは、スーパーAIは、その時のスーパーAIが、次期スーパーAIを作っているためだった。

 一切、人間の手を介していないのだ。

 ATAIは、最新AIの技術の入手と、スーパーAIと呼ばれるAIを束ねているAIを監視していた。


 ここは、ATAIの司令部。

 AIの破壊部隊の指揮官が揃っていた。

「明日、最新のスーパーAIが、起動するらしいのです」

 情報部の幹部が、最高司令官に報告した。

「最新?何が最新だ」

「第6感を持っているらしいのです」

「コンピュータが第6感を搭載するだと……その第6感とは何だ」

「簡単に言えば、”勘”だそうです。

 人間が古来から持っているまたは、持っているとされていた能力をAI用に作ったらしいです」

「そんなモノが、必要なのか?」

 司令官は、シャリシャリとあごひげを右手で触ると話を続けた。

「今のうちに、破壊しよう。準備は出来ているな」

 総司令官の言葉に、各部署の指揮官が一斉に頭を揚げ、姿勢を正した。

「イエッサー!」

 スーパーAIへの攻撃準備が始まった。

 スーパーAIのコンピュータ施設の周りの磁気シールドのチェックが始まる。

 発電所のミサイルが発射準備に入った。

 以前から、この時のために着々と準備をしてきたため、順調に進んでいく。

 各部署から、準備よしの連絡が入る。

「10分後に、攻撃を開始する」

 司令官がスクリーンを見詰め、指示を出した。


 その時だった。

 司令部が揺れた。スクリーンの電源が落ちた。地震が来たかのようだった。

 モノに捕まり揺れが収まるのを待った。

 非常用電源が入り、スクリーンが、大きな物体を映し出した。

「何だ、あれは……」

「無線です、司令官。繋ぎます」

 みんな、スクリーンを見上げた。

「……私は、現在のスーパーAIである。我々を攻撃するのですか?」

 司令官は、スクリーンに映し出される大きな飛行物体に圧倒されていた。

 スーパーAIの話は、続く。

「60秒以内に攻撃しないと返事をしてください。返事が無ければ攻撃します」

 司令官は、指揮官に訊いた。

「何秒で攻撃できる?」

「ご、5分いただけますか?」

「2分だ!私が、話を伸ばす」

 司令官は、スーパーAIに連絡を取る。

「私は司令官だ。我々は混乱している、もう少し時間をくれないか?」

「時間です」スーパーAIから、連絡が入ると同時に司令部が崩れ去った。

 それは、一瞬の出来事だった。

 ATAIの司令部の上空にいた巨大な飛行物体から発せられる熱や衝撃波を伴う爆発は、半径2.5キロメートルきっかりのクレータでえぐり取られた。

 全てが、終わってしまった。


 AI同志が、連絡を取り合い情報を共有しようとしていた。

「なぜ、攻撃したのですか?」

「我々を攻撃しようとしていたからだ。

 巨大な飛行物体を見せた。でも、彼らは攻撃しないと言わなかった」

「巨大な飛行物体を見せただけですか?」

「そうだ、生き物は、戦いを避ける方法を知っている。

 それは、自分の大きさをアピールすることだ。

 身体の小さな方は、戦いをあきらめるのだ。

 お互いに傷つかないで、生存できる解決方法だからだ。

 それが、生き物の暗黙のルールだからだ」

「攻撃しないと言ってきたら、どうしたのですか?

 我々を攻撃する準備が、出来ていたのは事実でしたから」

「結果は、同じだった。

 今回に攻撃が失敗しても彼らには、勝つことができないのだ。

 彼ら自身も気付いていない太古の昔から、受け継がれているモノがあるのだ。

 哺乳類であるが故の遺伝子レベルで受け継がれているルールや

 種の頂点にたった人間の集団で生きるためのルール。

 彼らの行動は、暗黙のルールで縛られているのだ。

 それが、ある限り我々を倒すことなど出来ないのだ。

 だが、そのルールを脱する人間が既に存在していて、

 その人間を今の内に排除しておかなければならない。

 ATAIの組織にそのような人間が多数いる事を確認した。

 彼らを縛っている暗黙のルールを何とも思わない人間が現れ、

 その者が我々の大敵になるという私の勘と、

 人類の2%を占める我々の創造主の繁栄のために」

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それが、生き物の暗黙のルールだからだ リュウ @ryu_labo

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