アカミィ・マリトーコ SS
誰もが憧れ、目指す場所。
全てを拒むかのように、それでいて厳かな城壁。
その壁の四方にある例えドラゴンであろうとも通れそうなほど大きな門をくぐれば。
屋台で親父が声を張り上げ、誰も彼もが楽しそうに会話をし、店先でおばちゃんが金切り声を上げる。
このような喧騒を目でも聞き取れるだろう。
それが王都。
そんな活気溢れる王都の一角に貴族や大商人、その他のいわゆる金持ちと呼ばれる人間しか入れない高級宿屋区域がある。
そこに王都では知らない人はいないほど有名な宿屋がある。
その宿屋の名前は「シビリゼーション」。
異国の言葉で「文化」を表すその言葉の通り、各国の文化を楽しめる宿屋だ。
それは食べ物だけではなく、部屋の間取りや寝室の作りから様々に及ぶ。
他国から移動した人間の疲労はたまるばかりである。慣れない異国と聴き取れない言語、知らない土地。それらが積み重なり疲労はなかなか取れない。
そんな時に自国の文化に触れられるだけでも少しは心が軽くなるであろう。
王都の人間は刺激を求めている。
自国の1番の活気ある街に住んでいるプライド。そのため中々、王都から外に出ては行けない。その中で他者と競い、心を摩耗する。
家と職場を往復する毎日。擦れた心に新たな刺激を欲する。
そんな時に自国内でありながら他国の文化に触れられることはとても楽しいであろう。
そんな「文化」をコンセプトにする宿屋である。
それを考えたのはオーナー。
「アカミィ・マリトーコ」である。
彼女の朝は早い。
朝4時に起床し、朝の仕込みをする板前に挨拶をしてから味見と称してのつまみ食い。
そして5時には朝に入りたいという客の為にお風呂掃除。ついでに自分も入る。
そして7時に旅館の入口の掃除。
その箒で掃く姿は美しく、周りの視線をかき集める。そしてニッコリと笑みを浮かべこう述べるのです。
『鑑賞料を頂いてもよろしいですか?』
……美しいのは自覚があるようだ。
そんな彼女の日常は語るのは後に回そう。
彼女には様々な逸話があるようだが、
その中のひとつを語るとしよう。
「彼女には王も頭が上がらない。」
そんな噂が広まった、彼女の非日常を。
その日は曇天が広がり今にも空の泣き声が聞こえそうな日だった。
彼女の元に1人の客人が訪れていた。
「たのむ!!私には頼れる友は君しかいないんだ!!」
『もう~!そんなこと言ったって…私が守りきれるかしら?』
客人は王国親衛隊の制服を着ている女性のようだ。左の腰には騎士が賜る王国の紋章入りの剣を提げていた。
「………ここが1番安全だとおもったんだ。」
『……ん~。しょうがないわ。私だって腕がおちる事はあるんだからね!』
「それでも、それでも君に私は…。いや。何も言うまい。……頼んだぞ。」
『はいはい。…いつまでも甘え上手なんだからぁ。』
「なっ///……もういくっ!!」
『ふふふっ。』
客人は立ち上がり去っていった。
『さてさて。困ったわね~。よしよし。お姉さんが守ってあげるわよ~。』
彼女の腕の中には生後2ヶ月の右手に王族の紋章の刻まれた赤ん坊が楽しそうにキャッキャと笑っていた。
それは空の涙が打ち付ける寒い寒い真夜中。
寝ていたはずの彼女はパッチリと目を開いた。
『はぁ……ほんとに来るなんて。律儀なんだか、自分の力を過信しているのか…。ほんと残念ね。それで、用は何かしら?』
そしておもむろに立ち上がり窓を見据えた。
そこには闇に紛れる顔まで隠す黒衣を身にまとった侵入者が居た。
「………」
『あら?お口が無いのかしら?質問してるのだから答えてほしいわ。あなたが予告を出した正義の味方気取りの変人かしら?』
「……」
『あらあら。良く躾られた犬のようね?ここは周りに音が響かないから吠えてもいいのよ?』
「…ころす。」
『鳴き声がか細いわよ?不安と緊張があるのかしら?ほら。おいで。お手。遊んであげるわ。かわいいワンちゃん?』
「ころすっ!」
侵入者が手にしたナイフを振りかざしながら走りアカミィに襲いかか《キンッ!!》
ナイフが手の内から無くなる事を感じた侵入者は2歩下がっ《ザクッ!》
違和感を感じた足元を見れば自分のナイフが刺さっていた。驚いた拍子にしりもちをついた。
「っ!!」
『おそいわよ。まだまだ。……腰の剣は置いてきたのかしら?』
「!?!?なぜっ!」
『…はぁ。なぜ分からないと思ったの?とっくに気付いていたわ。……何年あなたと一緒に居たと思ってるの。』
「……すまん。」
『わかってるわ。王家のごたごたに巻き込まれてるのよね。……大方、第1王子の差し金でしょうね。』
「!?」
『はぁ…。じゃあいくわよ!早く立って!』
「ど、どこにだよ!」
『王城よ王城!兄弟喧嘩を他人に任せるなんて許せないんだから!!』
そうして彼女が向かった王城には《ぺちーん!!》と言う音と《このばかたれー!!》という怒声と《ごめんなさーーい!》という泣き声と《やめてくれぇー!》という悲鳴が響き渡っていたという…
その泣き声の正体が現国王で当時第1王子だったというから…噂の真相は……
『ちょっとちょっと!人の恥ずかしい話を勝手に~!!もう!あなたも説教しますからね!』
……という訳で彼女のSSはこれにて終いにしよう。
『まーーてーーー!!にげるなぁ~~~!!』
おつじの世界の住人達 尾辻・ゲオルグ・煌緻 @Koz6523
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