ノア魔王 声劇用
私の手は溢れ零れ落ちる魔の力でいっぱいだ。
だから、誰かの涙を拭えないし、誰の重荷をささえることすら出来ない。
差し伸べられた手すら掴めない。
そう、思っていたんだ。
あの日、彼女に出会うまでは。
走って走って、まだ走って。
迷子になった私に手を差し伸べてくれた。
お姉さん。
とても暖かい笑顔を向けてくれてた。
でも私は手を振り払ったよね。
驚いた顔をした貴女は頭を撫でてくれた。
とてもとても暖かくて優しくて。
泣き出した私をギュッて抱きしめてくれて。
だから。
今では分かるよ。
だって、私も。
手を差し伸べれるようになったから。
「お前が!!お前が憎い!!!お前が居なければ!!私は!!私は…幸せを!!ずっと!!」
その時胸を染めていた感情はどう表現すればいいか今でも分からない。
苦しい?悲しい?怒ってる?
ただ、許せない。それだけは間違いなく言えるだろう。
禍々しく歪んだ城の1番豪華な部屋の豪華な椅子に座りこちらをニヤケながら一瞥する大切を奪った奴。
複雑に入り組んだ感情を乗せ、私は手を振った。
……後に残ったのは遥か彼方の地平が見えるほど穴の空いた心だけだった。
そう。戻ってこないのだ。大切な人は。
「うぅ…うっ……お姉さん……。」
どれだけの時間その場にうずくまり、どれだけの涙を流したか分からなくなった頃、流れ込んできた共に魔王討伐を誓った仲間たち。
そして魔国は滅び、世界は平和になったかと思っていた。
「ん?なんだ?……酷いことするなぁ。」
失意の中歩いていると、見かけたのは魔族の子供が人間の子供達に殴られ、蹴られているところだった。
「おい!なにやってんだ!……それ以上やるのなら私が相手になってやろう!」
言葉と共に手を振り、地面をえぐると子供達は尻に火がついたように慌てて逃げ出した。
「大丈夫か?……協定で人間と魔族は対等の関係とするってちゃんと書いたのになぁ……。ほら、立ち上がれるか?……いたっ。」
差し伸べた手は叩かれた。
私は分かっていなかったのだ。
人間と魔族の確執を。
だからこそ。もう一度。
優しく笑顔を見せて安心させる。
頭を撫で呼びかける。
あの日のお姉さんのように。
「怖くないよ。だって話せば伝わる、同じヒトだもの。さぁ。ご両親も待っているだろうしお家に帰ろうね。」
しかし魔族の子供は泣き出した。
両親は居なく孤児院に住んでいたが今回の戦争で人間に奪われたとしゃくりをあげ、半ば叫ぶように子供は告げた。
「なら。私と一緒に行こう?君と私は今日から家族だ。」
必死にしゃくりをあげ、歪んだ顔が驚きに染まってるのを見て私は笑ってしまった。
こうして、私は家族を得た。
この後には何度も同じことをした。
家族が増え、家族と共に歩んでいた。
「はぁ?私が?王だって?……この現状を見て、変えたいと願っていた所だ!王でもなんでもやってやるよ!!」
共に過ごす家族から後押しされ、そして各国の王達から懇願され。
私は王へとなった。
「私は!!魔族だの人間だのつまらない境界など要らないと思っている!!必要なのは相手思いやれる心だけだ!!良き隣人として一緒に歩もうでは無いか!!」
人には相手へ差し伸べられる手があるのだから。
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