おつじの世界の住人達

尾辻・ゲオルグ・煌緻

ノア魔王 SS

-ちくしょう!!お頭ぁぁぁ!!

私は手を振る。

そこから全ては始まった。




「-さま!ノア魔王様!!!」


『なんだ?騒がしい。』


「騒がしいではないですよ!」


そうだ。今日は………


«魔王様バンザイ!魔王様バンザイ!»


私の即位式だ。




…思えば長い長い戦いだった。右が右と分からぬ頃に故郷を賊に襲われ、初めて【手を振る】。そこに何も感情は無く。ただ湧いてでる力をそのまま吐き出した。

幸い、村人には死者はなく。被害は村の入り口にある家に人の頭がすっぽり入るほどの穴が無数に開いただけであった。

それから私は魔法を操る王、魔王と噂されるようになった。しかし、世間一般では魔王とは魔族の王である。

そう。私はその場で《人ではない》と烙印を押されたのだ。


…その頃の私は気付かなかったけど。


友達からは魔王様と呼ばれるようになり。

村人からは崇め奉れる日々。

ウンザリした。

両親も。表面では普通に接してくれたが恐れを感じ取れるようになった。


嫌だった。家族の温もりが欲しかった。友達との楽しい思い出が欲しかった。村の人との何気ない触れ合いが欲しかった。


……だから飛び出した。


向かった先は隣の村。そこならと期待した。

しかし。そこにあったのは冷えた視線と心無い化け物の言葉。


行く宛てなく走った。走って走って走って…

気付けば辺りは暗く、目の前には大きな壁。


立ち往生し周りをウロウロしていると声を掛けられた。


「お嬢ちゃん。大丈夫かい?迷子かな?じゃあお姉ちゃんの所に来なよ。」


救われた気がした。何もかも。

暖かい言葉。暖かい食事。暖かい会話。暖かい人の温もり。


そこからお姉さんとの生活が始まった。

それは今も胸を暖め、そして締め付ける、優しい思い出。




その日は友達と遊んでて帰りが遅くなった日だった。


それは突然現れた。


耳をつんざく白。目を覆い尽くす赤。空を纏う無数のクロ。


魔族の軍勢だった。


私は必死に逃げ、お姉さんを探した。


だが……


「へへへっ。コイツなかなか強かったなぁ!」


「そうだなぁ!最後までノア!ノア!逃げて!って叫んでよぉ。くひひっ。探して後追いさせてやるかぁ!」


その後の記憶は……

私はまた手を振る。そしてまた失った。


……空になった街に背を向け、目指した。

諸悪の根源、魔王を。


そして手を振る。






「-ま!ノア魔王様!!」


『ここからがいい所なのに邪魔をするな!』


「なんのことですか!全く…。ほら、見てください。ノア魔王様の即位の為にみな集まってるのですよ。みな、笑顔がこぼれそうです。」


━━━私は戦った。戦うために手を振った。

━━━しかし、これからは違う。

━━━平和の象徴として


私はこれからも【手を振る】。

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