第33話 七つの勁穴
『じゃあ、続きいこう。地面に流した勁を、もう一度身体に戻してくれるかい?』
「もう一度……」
結局、『時間が経たないから大丈夫』的な、本当か嘘かわからない理由で、キレイに丸め込まれたアカツキは、エーヴィヒカイトの指示に従い、そのようにする。
現状、地面へと流れているのは右足から。なので反対の左足から吸い上げるイメージで、出ていくだけだった勁を身体に引き戻すアカツキ。
ところが、である。
「う、ぐぉぉぉぉぉっ」
明らかに、アカツキ個人で生み出した勁を遥かに上回る力が、引き込んだ勁を呼び水として、一気に体内に流れ込んでくる。
『そう! そのまま体内と大地ごと循環させるんだ!』
「むぎぎ……」
やけに熱くなっている感のあるエーヴィヒカイトの支持に食らいつくアカツキ。無理がたたっているのか意図しない声が漏れる。だが、そのまま力を巡らし、再び大地へ。そしてまた身体へ戻す。そういったことを繰り返すうち、アカツキの体内に変化が訪れた。慣れてきたのか、しんどさは和らぎ、体はさらに活性を始める。
それと共に、勁の噴き出し口が増えているのが体感で分かった。丹田と右掌にしか以前は感じられなかったのだが、右足裏、左足裏、左掌、心臓、そして最後は、顔の中心と、徐々に噴き出し口は増え、その数七つ。アカツキの目には映らないが、傍から見れば明らかに別質のものだと誰もが気づくだろう。
―――なにせ金色に輝くオーラを纏っているように見えるのだから。
「なんだよ……これ……?」
目には見えないが、体感として実際に感じ取ることができている。特に七つの噴き出し口だ。絶え間なく体内へと供給され続ける。身体に入り切らない分が、外側へと漏れているというのが、アカツキの感じうる感覚である。
『うんうん。勁穴が全部開いたようだね』
「けいけつ?」
エーヴィヒカイトによれば、人間には七つの勁穴が存在するのだという。ちなみに妖精種は勁穴とは言わず『魔力孔』というようだ。こちらは勁ではなく文字通り魔力を生み出すものなのだとか。数は同じく七つ。
『今はまだ、龍脈の力を取り込まないと全部は開けないけどね。身体が慣れてきたら、自力で全部開けたり、開けたいところだけ開けたりできるようになるから。あとはひたすら循環させるだけだね』
のどかに言ってくるエーヴィヒカイトだが、アカツキの方はそれどころではなかった。
無尽蔵に流れ込んでくるエネルギーの処理に、一苦労していた。いくら身体が慣れてきたと言っても、今日初めて使う器官である勁穴が五つ。疲れが出ないはずがない。あっという間に体力は尽き、ぶっ倒れることになった。
『いくらなんでも無茶だろ』
『そっかぁ……』
息も絶え絶えなアカツキを見て流石に見かねたのか、ドララシェリクディアが口を挟んだ。
『小僧はただの人だぞ。龍脈の力をずっと使い続けられるわけ無いだろ』
『えー? 駄目なの?』
『当たり前だ。お前は樹だから実感ないかもしれんが、生き物には体力ってもんがあるんだ。ずっと何かをやり続けるなんてことできるわけ無いだろが』
『そっかぁ……』
ドララシェリクディアは、いまいち分かったか分かっていないのか、微妙な反応をするエーヴィヒカイトをシラけた目で見る。
そんな時、一つ気配がコチラへと近づいて来ているのを、ドララシェリクディアは察知する。エーヴィヒカイトも同様のようだ。
「アカツキはどうだ?」
『おや、ゼファーくん。どうしたの?』
「心配になってな。首尾はどうだ?」
『いや、始まったばかりだろうが。お前も過保護だな』
「恩人の一人息子だからな。何かあったら、顔向けできんよ」
やってきたのは、集落においてきたはずのゼファー。彼は身軽にヒョイとエーヴィヒカイトの枝の一つに座り、挨拶も何もなくいきなり本題に入った。
ハーフエルフにドラゴン。オマケに樹と、まず見ることがない組み合わせで、会話は続く。ゼファーはエーヴィヒカイトの枝の一つに。ドララシェリクディアは、先程から全く移動していない。結界の中、アカツキの真ん前である。
ドームの中にはエーヴィヒカイトとゼファーの声が響き、逆も普通に通じている。距離があろうが結界があろうが、会話するのに影響は全く無い。
そんな中、ゼファーが口を開いた。
「それで? アカツキはどんな感じだ?」
『だからさっきも『勁穴は全て開けたよ。あとはクセづけるだけ』うぃ……』
ドララシェリクディアの声を遮り、言いたいことをエーヴィヒカイトは言う。尻すぼみになったドラゴンの語尾は、聞き取ることができなかった。
思いの外人間(?)くさいドララシェリクディアを差し置いて、会話は進む。
「じゃあアイツはなんで倒れてる?」
『体力不足』
「あいつがか……?」
一日中野山を巡って、材料探しをしていたアカツキに、体力がないとは思えないゼファーは、神樹の言葉を訝しんだ。
『使うところが違うからね。君だって慣れないことしたら疲れるんじゃない? それそれ』
「ふぅん……?」
まぁ言いたいこともわかるので、納得したゼファーは一番聞きたいことに切り込んだ。
「じゃあエリクシルの精製は、アカツキにできるのか?」
『今のままだと、補助がいるうえに精製場所が限られるけどね。やろうと思えばやれるよ』
「ふむ……ではコチラの目的は達成した訳か」
『これ、せっかちすぎるだろう。もうチョットいたわってやらんか』
ドララシェリクディアは、まるで道具のように扱われるアカツキを不憫に思い、二人(?)を注意する。
神の霊薬エリクシル。死、以外のあらゆるものを癒やす奇跡の薬と言われている。それがどうしてアカツキに関係するのか? 体力を使い果たし、既に眠っている彼には、知る術はない。
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