第24話 同行人
とある日の王国。グレン王は日課である団欒に精を出していた。
「……」
「あら、どうしたの? あなた」
「いや……今頃アカツキ君は亜人領域の中なわけだが……」
「そうね。心配なの? うまくいっているかどうかが」
「まぁ、なぁ……」
王妃ソフィアには『OK』を一応もらってはいるのだが、どうにもこの話をしようとすると、見えない圧力が増すような気がするグレン。そして、それは決して間違いではないのだ。もごもごと主語を抜かして、何とか理解してもらおうと試みるグレンだったが、ソフィアはサクッとバラした。
「アルルさんのことですわね」
「う、うむ。揉めるとすれば恐らくそこであろう……ちょっと、な、ソフィよ」
「なんざんしょ」
「もうちょっと、こう……抑えてはくれぬか?」
「あら、何のことでしょう?」
そっけなく答えるソフィアだが、この場にいるのはグレンだけではない。レムリアとシャロン以外の兄妹や、世話係などもいるのだが、何の力も持たないはずのソフィアから、震えるようなプレッシャーを感じているのである。表情は一切変わらない。しかし何というか、存在感というかそういうものが増しているような気がするのである。
「ちょ、母上……」
「「しんどい……」」
デュークやアリシアにセシリアも、何が何だかわからないが妙な圧を感じていた。それの発信源が母であるということも。
「そろそろ子供たちにも教えていいんじゃないかしら? あなたの不貞の結果、シャロンが生まれて、不幸な女が一人生み出されたということを」
「あ、言っちゃう? それ言っちゃう?」
「ノリよく言ってもダメです」
「……はい、すみません」
むかしむかし……というほど昔ではないが、かつて王国の貴族が、亜人をさらって売買するという事件が起こった。ファンヴェルフやアイブリンガーでは、労働力やあまり表沙汰にしたくないような用途として、亜人をさらうということが多発していたのである。右へ倣えとばかりにリーネットのいくらかの貴族が真似をしたのだ。
王になりたてのグレンは青臭い理想論をぶち立て、これに追随することを禁じた。
だが、若い王の言うことを鼻で笑って、好き勝手やるような者たちもいたのである。見せしめに当主以外の一族郎党を、口に出すのも憚られるような、ひどい目に合わせたグレンは、王自ら頭を下げに、亜人領域へと向かった。それ以降、貴族たちはわかるようにはやらないようになった。
当主に生きていてもらったのは、仕事に差し支えるからである。無事引継ぎが済んだ時点で、病気になってもらったのは言うまでもない。
「で、そこで出会ったわけだ。我が魂を揺さぶる存在に」
「何カッコつけてるんですか。ただの浮気ですよ、浮気。ねぇ、デューク」
「え゛っ……まぁ、そう、ですね……」
夫婦の秘密なんて知っていいことはないと、知らぬ存ぜぬを決め込もうと思っていたデュークだが、話を振られピンチを迎える。こういった話に於いて、男の立場は非常に弱い。何故かどもるデュークに、白けた視線を向ける女性陣。とんだとばっちりである。
「血を混ぜることを良しとしない。それが裂西大陸の支配者の掟であったはず。なのに、よりにもよってエルフとヤっちゃうなんて、ね」
古来より伝わる伝承に、理由は分からずともしっかりと従っていたのだが、詫びを入れに行ったのに、世話係をやってくれたエルフの族長の妹『ウルル』に、まいってしまったグレンは、相手の合意を得て、一度きりの過ちを犯す。それによって一人の女の運命が悪い方に変わってしまったのは、王として、そして男として痛恨の極みであった。
「それで生まれたのがシャロンちゃんなのよ」
「……秘密にしておきたかったぞ」
「……知りたくなかった。ということはシャロンはハーフエルフなのですか?」
「そういうこと。まあ、耳の長さでわかっちゃうから、ピアスの魔道具で普通の耳に見えるようにしているけれどね」
突然現れた妹の存在に、訝しいものを感じていた兄妹だったが、まさかそんな自制心のかけらもない理由で生まれたと知らされた兄妹は、唖然としている。
「まぁ、私としてはグレンの娘ってことに変わりはないからね。特に思う所もないのよ」
本当にそうだろうか? とこの場にいるほとんどが思ったが、あまりにも完成された笑顔に、ツッコむ輩は一人もいなかった。完璧すぎる故に、逆に怪しいと皆は思ったのだ。
「コホン。まぁ、とにかく、だ。アカツキ君にはなんとしても薬草を採取してもらって、レムを何とかしてほしいのだ」
この話を終わらせたかったグレンだが、自分に関係がないゆえに冷静だったデュークにツッコミを受けることになる。
「……そんなにうまくいきますか?」
「どういうことだ?」
「いや……火種はすでにまかれているのですよね? 他ならぬ父上によって」
「うぐっ……まぁ、そうだな」
「長の妹、ですか……」
「……」
的確にイヤなところを付いて行く。グレンもこれには黙るしかない。
まるで遠くにいるアカツキが、すでに何かに巻き込まれているような気がするデューク。
そしてそれは、何の因果が働いたのか、全く見当違いというわけでもなかったと気付かされるのは、アカツキが無事とは言えない姿で、帰ってきたときであった。
―――場面は再び、亜人領域へ。
「はぁ……この方を案内人に?」
「そう。エーヴィヒカイト様の元へ、ちゃんとした手順で来たものとはいえ、流石に神樹の元へと、お客人だけで向かわせるわけにはいかない」
「え? 俺らが向かうのは、レッドドラゴンの側ですけど」
「そのレッドドラゴン様が、神樹の側に住みついているのだ。我らの目がない所であまり勝手をしてほしくない」
「それは……それもそうですね」
確かに己の縄張りの中を、よそ者にチョロチョロされるのは嫌だろうと、ダズの発言に納得するアカツキ。そしてこの方と呼ばれた人物に、もう一度目を向けた。
「……」
(えらく不機嫌そうだな。どう見ても納得しているようには見えないんだが)
むっす~と腕を組み、頬を膨らませ「不機嫌です! わたし!」という態度を隠そうともしていないアルル。先ほどの騒ぎを知らないゆえの態度なのだが、それにしたってアルルの態度が悪すぎた。
火と水の勇者もつけるからと、いったいアカツキの視線をどのように解釈したのかわからないが、とにかくアカツキは、エーヴィヒカイトの元へと向かう許可を得られたのである。
こうして同行人を得られたアカツキは、レッドドラゴンの元へと向かう。お供である、レビンとエド、そしてゼファーはまだ眠っていた。
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