第17話 罪人扱い

 迎えにやって来たエルフの後ろに付き、牢屋が並ぶ建物から出たアカツキ。後ろには、エルフが連れて来ていた護衛が、アカツキを後ろから警戒している。アカツキは見たことがなかったが、いわゆる『ドワーフ』という妖精種の一種である。


 出た瞬間、アカツキは複数の視線にさらされた。興味本位に対象を囲むのは、人も妖精も変わらないらしく、あちこちからひそひそ話をしているであろう声が聞こえて来ていた。ただ、通常の状態では聞こえないレベルの大きさで、何かを話しているだろうという認識しか持てない。まあ、こんな状況で聞くひそひそ話など、陰口以外の何物でもないであろうから、わざわざ強化してまで聞こうとも思わないのだが。


 どうやらあちらさんは罪人として扱いたいらしく、アカツキの手首と腰には縄が結ばれている。恐らくはどうにかできるのだろうが、短絡的に行動した結果、ゼファーたちに何かがあるかもしれないため、ひとまずは大人しくしていようと思うアカツキ。表情を消し、堂々と。悪びれることもない。何せ、アカツキは何もしていないのだから。


 ちらりと後ろを見たエルフが、舌打ちをする。どうやらアカツキの態度がお気に召さないようだが、さすがにここまでされて、アカツキもエルフの男に媚びるつもりもない。基本下手に出ていれば、揉め事というのは仕掛けたほうが白けたりするものだ。意図的にではないにしろ、結果的にエルフは苛ついていた。


 中央集落の造りはそれこそ雑多にできている。出来るだけ手を加えないようにしているのか、拓かれた場所は少なく、木の上や木の幹に家が作られているかと思えば、岩を削ったような家もある。おまけにあちこちに穴があるかと思いきや、全てに階段が作られており、後でアカツキは知ったが、そのあなぐらに住むことを好む種族もいるようだ。


 そんな中を歩き続けること数分。ひときわ大きな木の幹を積み上げて作ったような、屋敷と言ってもいい規模の建物へと連れて来られた。ただし、中ではない。屋敷に入るためには、ここでは珍しい前庭のような拓かれた場所を通らねばならず、そこには幾人かの人……ではなく、亜人たちが立ち塞がるように立っていた。

 その中には、自称勇者たちやお嬢も含まれている。


 そのお嬢ことキリリは、アカツキのほうを見て目を剥くと、隣にいるエルフに食って掛かっている。胸ぐらを掴んではいるもののまるで相手にされておらず、首をがくがく揺らされているが、視線は厳しくアカツキを射抜いていた。


 徐々に近づくにしたがい、キリリの苦情が聞こえてくる。


「どういうこと!? お父さん! 彼らは恩人だって言ってるでしょ! 何よ、あれ! どう見ても罪人扱いじゃないの!」

「……事実そうだろう? 彼らは我らの領域の住人をさらって、外で良からぬことをさせているのだろうからな」

「それはあの人たちじゃないでしょ! ちゃんと王様の命令書を持ってたじゃないの! お兄ちゃんから話来てたんでしょ! あの人たちが来るって!」

「我らからすれば同じことだ。が我らに対して、危害を加えているのは周知の事実」

「だからって、恩を仇で返すなんて何考えてんのよ!」

「いいからちょっと黙っていろ」


 キリリの父とやらは、どうにも頭が固い御仁のようだとアカツキは目の前のやり取りを見て理解した。ついでにあれがラーラの言っていた『意識が変わらない人』というやつだろうと当たりをつける。

 ただ他に目をやると、連中の中でもこちらを厳しく見るものがいるにはいるが、親子のやり取りを見てやれやれと言った顔をするものや、どう見ても友好的なにこにこ顔をしている者がいる所を見ると、一辺倒というわけでもなさそうだ。いきなり問答無用で首を落とされるという、野蛮なことはされなさそうでちょっとほっとしたアカツキ。


「むがが」と乙女にあるまじき声を上げるキリリ。目を向けると掌で顔の半分を推されており、口が塞がっているようである。


(ゼファーさんには見せたくないだろうなぁ……)


 どう見ても四面楚歌の状況で、こちらのために必死になってくれるキリリに(おそらくゼファーのためだろうが)好印象を抱くアカツキ。ちょっとだけほほえましく思っていると、側から剣呑な声が聞こえてくる。


「キサマ、何をニヤニヤしている」

「……別に、何でも」

「なんだ! その態度は!」

「……」


 何言ってもダメなんだろうなぁ……と柳に風とばかりに聞き流していると、どうやらあちらの寸劇が終わったらしく、声が掛けられた。急に黙った隣のエルフ。いよいよ本番のようである。


「お待たせしてすまぬな。われがエルフの族長『ダズ』だ。貴殿がアカツキとやらで間違いないか?」

「……間違いないですが、俺名乗りましたかね?」


 ずっと不思議だったのだ。ゼファーなら分かる。冒険者として名が広まっているからだ。だが、彼らはピンポイントで『アカツキ』と言い、実際に間違わなかった。確かにこちらに来るとき、身分証は見せたがそれでもおかしいのだ。人間は三人いたのだから。


 だが、それはダズの一言で種明かしされた。


「なるほど……貴殿がエーヴィヒカイト様の仰る者か。まさか本当に来るとは……」


 またおかしな言葉が出てきたなと、アカツキは辟易した。

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