第15話 差別意識
「申し訳ありませんっでしたっ」
アカツキたちの目の前で、土下座をするナ・プラダ。それは見事なものである。
エルフの少女の信頼感は相当なものだったのか、全く異論をはさまれることがなく、信じてもらえたアカツキ一行。その少女の視線は、すでにゼファーへと熱く向けられている。まあ、もうダメだと思った時にやって来たのがハーフエルフのゼファーで、一度はガッカリしたのだろうが、噂に違う実力でねじ伏せたところにグッと来たのかもしれない。自称勇者たちの信頼が厚いところが、少々気になると言えば気になるが。
「まぁ、別にいいですよ。誤解されたってしょうがない所だったんだし」
「ケガもしてないしな」
「なー」とお互いに納得しているアカツキとレビン。というかこの二人、天然でこの態度だが、もともとそんなに友好的ではない相手である。知らず知らずに正解を掴みとっていた二人。ゼファーは少し間を取っている。流れを見るつもりらしい。だが、エドは少々納得がいかないようだ。渋い顔でナ・プラダたちを問い詰める。
「確認もしないで、いきなり斧を投げてくるなんて、いったいどういう神経をしているんでしょう?」
「だから……それは謝ってるだろ!」
「謝れば済むという話ではない。ここにはただの村人もいるんですよ? もしも当たっていたらどうするんです? あなた方の同胞なのでしょう?」
「ぬぐっ……」
ナ・プラダに差別感情はない。ただ、彼女だけは、である。つまり―――
「ハーフエルフがどうなろうと知ったことではないわ」
「……え?」
他の二人には当てはまらないということである。名乗らなかったがおそらくアルルというエルフの少女は、あからさまな嫌悪感を持って毒を吐く。ラーラは、笑顔が完璧すぎて逆に何か腹に一物持っていそうな感じである。
あまりにもド直球の差別発言。当事者である村人たちですら息をのむ。相手をしていたエドでさえ、驚きで目を剥き、口をパクパクさせたまま、声が出てこない。それを放置したまま、アルルは言葉を継ぎ足していく。
「知ったことではないと言っているの。精霊の加護を得られないのなら、エルフと名乗る価値すらない。そちらの方はどうやらうまくやったようだけど、所詮は邪混。我々『純種』とは、全く違うわ。半分だけでもエルフだなんて思わないで欲しいわね」
目線も合わさず、まるで近づくことすら拒否するように、腕を組み自分を守るアルル。
エドが言葉を発せない状態に陥り、言葉の応酬が途切れたと思いきや、エドが持っていた会話の主導権はゼファーへと移る。
「……何が気にくわないのかは知らんが、私たちはちゃんと許可を取ってここへ来ている。貴様が何者かは知らんが、そのように悪しざまに言われる覚えはないな。話にならん」
「……言ってくれるじゃない。邪混の分際で」
忌々しそうにゼファーを睨みつけるアルル。対してゼファーは意にも介さない。
「そんな自分でどうにもならないことを言われてもな。純種? とか言ったか。程度が知れるというものだ」
「なんですって……!」
「何度でも言ってやろう。程度が知れると言ったのだ。俺とてエルフの血を引く者。半分は忌々しいのは間違いないが、だからと言って俺を非難していい理由などあるものか。そんなどうにもならないことをあてこすって因縁を付けるなど、程度が知れると思われても仕方があるまい。違うか?」
ここで、ゼファーは助けたエルフの少女に話を向けた。彼女は、エルフだがどうやらさほど差別意識は持っていなさそうだと、見抜いたからである。できれば、仲介してほしいと願いを込めて話を振ったが、それはどうやらいい方に向いたようである。ただ、内容があまりよろしくない。
「もう! いい加減にしてよ! おばさん!」
「誰がおばさんよ! あたしはまだ96なんだからね!」
「歳のことを話してるんじゃないわよ! 血縁的に叔母さんでしょ!」
「若いからっていい気になるんじゃ……」
「話聞きなさいよ! 叔母さん!」
「それ以上おばさんて言うんじゃないわよ……」
耳から入ってくる情報では、どちらか判断できないが、いろいろあって完全に血が昇っているアルルは、勝手に悪い方に解釈したらしい。背中に手をやると、背負っていた大弓を構える。目が完全にイっている。どうやら彼女に歳の話はタブーのようだ。
「ちょ、ちょっと……?」
「お痛が過ぎたようね、キリリ。安心しなさい。死にはしないわ」
―――死なないだけだけど。
「ちょっとぉ!」
「死にさらせぇ!」
思わぬところで名前が判明したキリリちゃん。まさに絶体絶命なキリリちゃん。アルルが物騒なセリフと共に弓を引いただけで、どこからか矢が現れた。その数四本。ちょうど手足と同じ数である。そんな曲打ちできるのかなとのんきに見ているアカツキたち。
まさにキリリちゃんの命運尽きようとしているその時、再び割って入ったのはゼファー。本当に打ってきたアルルの矢を『風よ』の一言で、すべて吹き飛ばす。ゼファーのクールな行動にキリリちゃんは、目がハートになっている。すでに堕ちてしまっていると言ってもいいだろう。
もう呪いでも込められているんじゃないかってくらいに、目つきが悪くなっているアルルに、ゼファーは『風よ』と一言つぶやいた。
「ぐ、っ……息が……(ぱくぱく)」
幾ら言葉を紡ごうとしても、声が全く伝わらない。おまけに呼吸ができない。何かしたのは間違いないが、精霊たちが全く反応しない。
(な、にが……)
薄れゆく意識の中、アルルの最後の光景は、仏頂面のゼファーの顔だった。アルルにできたのは、せいぜい悪態を心の中でつくくらいである。
(おぼ、え、てろ……)
この反骨心、果たされるかどうかは、今のところ定まってはいなかった。
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