第14話 自称勇者

 手分けして、檻を開け人質を解放していく。と言っても馬車の数は四つ。開けるだけならそれほどの手間はかからなかった。かかったのは、これからどうするかという相談である。


 集落はすでに壊滅。死人もほったらかしであるため、せめて弔ってやりたいと村人は言う。それはそれでいいのだが、その後どうするかというのが問題なのだ。住む所も食べる物もない。どう考えても外部の助けが必要な案件である。


「どうしましょう……」

「どうしましょう、って言われてもな……」


 すでに一行の代表っぽくなっているゼファーも、助けた後のプランがなかったのか、腕を組んで悩みはじめた。ちなみに助けられたエルフ娘は、ゼファーを見てぽけっとしている。

 それをちょっと離れたところから見ている若手三人組。


「困ったことになったな」

「薬草採りに来ただけなのに……」

「中央に連れていったら、なんか問題起こりそうだよな」


 レビンの言うとおり、何か厄介ごとが起こりそうな気がしてならない一行。しかし、ここに置いていったところで、魔物のエサになるか、人さらいリターンとなる可能性が高い。


 普段からこうなのか、それとも疲労でこうなっているのかは知らないが、とにかく無気力な村人たち。さんざん時間をかけたが、結局連れて行くことにした。後は丸投げしようという腹積もりである。






 ところでこの状況、傍から見ればどのように見えるのだろうか?


 ―――檻付きの馬車があり


 ―――ケガをしていたり、体のあちこちが汚れている、どこか疲れた感じの村人


 ―――リーネットの兵士の恰好をした人間


 オマケに領域中央では、人さらいがうろついているので注意という、お触れが出ているとなれば―――






 誤解を受けるには十分ではないだろうか?






 ゴォォォォォッ!


 木々の間から突如、炎を纏った両刃の大斧が、回転しながらアカツキたちのところへと飛んできた。最初に気付いたのはエドだった。


「! 二人とも、よけろぉっ!」

「え? っおあああああ!」

「だああっ!!」


 エドの視線の先を見るや否や、三人とも身を投げだし、受け身も取ることなく、頭から地面に滑り込んだ。標的を失った斧は、三人から少し行ったところにザックリと突き立った。冷や汗を垂らしながら、アカツキたちは斧が飛んできたほうを見る。


「あー……全然違うとこに飛んじまった」

「ちゃんと狙いなさいよ。ホントに大雑把なんだから」

「でもっ。プラダちゃんはお部屋がとてもきれいですよっ。アルルちゃんとは違ってっ。汚部屋って呼ばれても全然おかしくない、アルルちゃんのお部屋と違ってっ」

「アンタはちょっと黙ってなさいよ」

「はーいっ」


 特に警戒するでもなく、森の奥から姿を現す三人。大柄な女性は手ぶら、小さな子供は不思議な形のナイフを何本かと杖のようなものを、腰のベルトに差している。そして明らかにエルフらしき少女は、大振りな弓を背中に背負っていた。


「さて……アタシはナ・プラダ。『火の勇者』と呼ばれている」

「……」

「……」

「お前らも名乗れよ!」

「「えっ?」」

「え? じゃねえ! 仮にも勇者だろうが!」

「やめてよ、恥ずかしい」

「そうですっ。『水の勇者ラーラ』なんて名乗るのも恥ずかしいっ」

「なんで名乗ってんのよ……」


 先ほどの発言から、大斧を投げ込んできたであろう女性。いきなり物騒なものを投げ込んできた割には、律儀な女性である。ついでにとても冷静だ。おまけに微塵も悪いと思っていないようである。先ほどの投擲の際に、ゼファーたちも今後の相談をいったん中断しているため、こちら側の視線は、彼女たちに集中している。


「んんっ。アンタら、人さらいだな」

「何を言っている。それならそこらにいくらでも転がっているだろう」

「えっ」


 うろたえるナ・プラダ。辺りを見渡せば、確かにすでに息をしていないであろう人間が多数転がっている。少し離れたところで話をしているゼファーが、本当のことを言っているなら、やっちまったってことになる。


「……やったわね、プラダ。だから言ったじゃない。ちゃんと確認してからやりなさいって」

「もうちょっと強く止めてくれよ!」

「何言ってるのっ。いつも人の話なんか聞かないくせにっ」

「くっ……言い返せねぇ……」


 拳を握り、悔しがるナ・プラダ。そこへ冷や水をぶっかけるがごとく、ゼファーがやってきて口を挟んだ。先ほどの投擲のことを前提に話を進める。


「どうやら誤解があるようだが、私たちは人質を助けた側だ。転がっているのが人さらい。そして顔に靴跡を付けて転がっているのが、おそらく人さらいのリーダーだ」


 後から来た三人が、ゼファーのセリフごとに首をあちこちに向けて確認している。


 が、はたと気づいたナ・プラダ。


「アンタの話を信じられるとでも?」

「全て事実だが?」


 信じてたんじゃないのかよ、とこの場の誰もが思っていたが、とりあえず突っ込むのは誰もやらなかった。だが、いくら言ったところで初対面の、それも理由もなく嫌われているハーフエルフが言っていることなど、信用に値しないとようやく気付いたようだ。


 誤解を解きたいゼファーだが、どうにも分が悪い。ここで敵対すると後々の行動に支障をきたす可能性が高いので何とかしたいのだが、いい方法を思いつかない。しかし、この場を収めるべく、ある人物が再起動を果たす。


 そう、危うくえらい目にあわされそうになったエルフの少女である。自称勇者たちの目の前に立ったため、視界が遮られこの娘が見えなくなっていたのだが、気が付けば鉄火場の状態を見た彼女は、その場へとやってきてこう言った。


「おやめなさい。その方は私を助けて下さったの」

「お嬢!? なんでこんなとこに?」

「えっと……それは……」


 自称勇者たちの探し人は、どうやら彼女だったようだ。彼女はとても厳かにここで起こったことを説明した。何でここに居たのかという説明は、都合が悪いので省いた。

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